翻訳|boring
ビットによる圧砕作用または切削作用によって,地殻に比較的小径で深い穴を掘ること。試錐あるいは掘削ともいう。石油,天然ガス,地熱などの採取を目的とする坑井の場合にはさく井ともいう。
地下の地質試料としてコアの採取を目的とするもの,地下資源の採取のための坑井をつくることを目的とするもの,その他の目的をもつものとに大別される。見方を変えると地表より垂直あるいはある角度でボーリングするものと,坑道あるいはトンネル内より水平あるいは種々の角度でボーリングするものとに分けられる。おもな用途をあげる。(1)鉱床探査 コアを採取して地質状況,鉱体,炭層,油ガス層などの存在とその状況を調査する。(2)坑井の掘削 石油,天然ガス,地熱流体,地下水などを採取するための坑井を作る。(3)地質調査 コアを採取してその地域の地質状況を調査する。(4)基礎地盤調査 トンネル,ダム,道路,橋脚,建造物などの基礎の地質を調査する。(5)排水孔などの掘削 地すべり防止対策として水抜きのための穴,採炭上の保安対策としてガス抜きのための穴,火薬を装てんするための発破孔,セメント液や薬液を圧入するためのグラウト孔などを掘削する。(6)その他 立坑パイロットホール,基礎杭などの掘削に用いられる。
地下の状況調査はコアの地質学的調査,鉱物学的調査,圧縮強さ測定などの力学的試験,浸透率,孔隙(こうげき)率,飽和率,音波速度などを測定する物性試験などで行うのが基本であるが,地層の電気的性質,放射能,音波速度,温度などを,試錐孔あるいは坑井内に測定器を降下して連続測定する物理検層も普遍的に行われている。石油,天然ガス,地熱流体,地下水の探査を目的とするときは圧力測定や産出試験も行われる。ボーリング作業中はビットで砕かれた岩石の破片である繰粉(くりこ)(掘屑(ほりくず))や泥水の試料を連続的に採取して調査する泥水検層も行われる。
岩石を砕く機構により衝撃式ボーリングと回転式ボーリングに大別する。
(1)衝撃式ボーリング ワイヤロープを上下に動かしてビットを坑底にたたき付けて岩石を砕いて掘り進む方式。坑底にはある程度泥水を入れておく。ビットを引き揚げてからベーラーを降下し,掘屑の混じった泥水を汲み上げる。坑壁が崩れてくるのを防ぐためケーシング(鉄管)を掘進に合わせて降下していく。この方法は古代中国で塩水井を掘るために開発された。中国ではワイヤロープの代りに竹が用いられ,13世紀には600m以深まで掘られていた。ワイヤロープを用いる方式は綱掘りcable-tool drillingと呼ばれるが,世界で初めて石油採取を目的として成功したドレーク井(アメリカ,1859)も綱掘りで掘られた。綱掘技術はアメリカで発達し,1925年には2365mの石油井が掘られたが,現在ではロータリー式掘削に取って代わられている。日本には1873年にアメリカから綱掘装置が輸入されたが,石油の開発に盛んに用いられるようになったのは,91年に新潟県尼瀬海岸で出油に成功して以来である。上総掘りも衝撃式ボーリングに属する。
(2)回転式ボーリング ビットに荷重を掛けて坑底に押しつけると同時に回転させて岩石を砕いて掘り進む方式で,試錐孔あるいは坑井内へ泥水を循環させながらボーリングを行う。泥水は水にベントナイト,化学薬品を溶解したものであり,繰粉または掘屑を地表まで運ぶ,坑壁の崩壊を防ぐ,地層中へ泥水が流入するのを防ぐ,地層流体の噴出を防ぐ,ビットを冷却する,地下の情報を伝達するなどの作用をする。
回転式ボーリングの起源については諸説があるが,流体を循環して掘削する方法の特許は1844年イギリスのバートR.Beartに与えられ,実際にその方法で水井戸を掘ったのは,45年フランスのフォーベルM.Fauvelleであるといわれている。試錐機が日本に輸入されたのは76年で,ロータリー式掘削装置が輸入されたのは1912年である。世界で最も深い坑井はソ連の地質構造調査井で,84年初めには1万1800mに達し,さらに掘進がつづけられている。この方式は次の三つに大別される。
(a)スピンドル式ボーリング これに使用する装置をボーリングマシンあるいは試錐機という。ボーリングロッドはスピンドルの中を貫通し,チャックで把握されている。原動機(モーターまたはエンジン)の回転はスピンドル,チャック,ボーリングロッドを経てビットに伝えられる。スピンドルの両側には油圧シリンダーがあり,掘進の際にはビットへの推力を出し,またビットを引き揚げる力を出す。ボーリングロッドの上端にはスイベルヘッドがつけられ,泥水が送り込まれる。スピンドル式ボーリングは主としてコアの採取を目的としている。試錐機はロータリー式掘削装置に比べて規模が小さく,軽便で機動性に富む利点がある。
(b)ロータリー式掘削 ロータリー式掘削装置の概要を図に示す。ケリーは四角(または六角)の鉄管であり,ロータリーテーブルの中心の四角(または六角)の穴とかみ合って,ロータリーテーブルの回転に伴って回転し,ビットを回転する。ドリルカラーは厚肉の鉄管であり,ビットの掘進に必要な荷重を与える。ケリー上端にはスイベルがあり,ここを通して泥水が送り込まれる。やぐら(またはマスト)頂部に設置されているクラウンブロック(定滑車)とフックとトラベリングブロック(動滑車)で滑車系をなしてケリーをつるしている。この滑車系はビットの上げ下ろしやケーシング降下に用いられる。ロータリー式掘削は石油,天然ガス,地熱流体の採取用の坑井を掘削するのに用いられる。
(c)坑底駆動方式 (a),(b)の2方式では地表の原動機の回転をボーリングロッドあるいは掘管を経てビットに伝えている。坑底駆動方式では坑底のビットの直上に電動機(エレクトロドリル),または泥水駆動のタービン(ターボドリル)や容積型モーターを接続してビットを回転する。
執筆者:田中 彰一
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