ポルフィリン(読み)ぽるふぃりん(その他表記)porphyrin

翻訳|porphyrin

デジタル大辞泉 「ポルフィリン」の意味・読み・例文・類語

ポルフィリン(porphyrin)

窒素原子を1個含む五員環環式化合物が、さらに4個環状に結合した構造を骨格とする化合物総称配位子として錯体を作り、中心原子が鉄のヘモグロビンコバルトシアノコバラミンマグネシウムクロロフィルなど、動植物の生理に重要なものが多い。

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「ポルフィリン」の意味・わかりやすい解説

ポルフィリン
ぽるふぃりん
porphyrin

4個のピロール環が4個の炭素で結合して閉環したポルフィンにメチル基などの側鎖のついた化合物の総称。生体内の酸化還元反応に重要な役割を果たしているヘモグロビン(血色素)、チトクロム類(呼吸色素)、クロロフィル(葉緑素)類などの色素部分を構成する化合物である。したがって、生物界に広くみいだされるが、ポルフィリンの中心構造をつくっているポルフィン自身は天然には存在しない。多くは緑色または赤色を呈し、特異な吸収スペクトルおよび蛍光スペクトルを示す。

 植物の光合成色素であるクロロフィル類の基本構造は、プロトポルフィリンの4個の窒素原子にマグネシウムが配位したものである。また、1996年、亜鉛が配位したクロロフィル類(バクテリオクロロフィルa)が、酸性環境に生息する光合成細菌にみつかっている。銅を配位したクロロフィルは安定で、食品などへの添加物として利用されている。ヘモグロビンやミオグロビン、チトクロムbなどの色素部分は、プロトポルフィリンに鉄が配位したものである。動物や細菌のポルフィリン類は、グリシンスクシニルCoA(活性コハク酸)が縮合したものからつくられる。一方、植物のクロロフィル類のポルフィリンは、1990年代以降の研究からグルタミン酸などからつくられることが明らかになっている。

[池内昌彦・馬淵一誠]

『森正保著『生化学の魔術師――ポルフィリン』(1990・裳華房)』『林典夫・広野治子編『シンプル生化学』(1993・南江堂)』『奥原英二著『一般生化学』(1993・南江堂)』『ポルフィリン研究会編『ポルフィリン・ヘムの生命科学――遺伝病・がん・工学応用などへの展開』(1995・東京化学同人)』『遠藤克己・三輪一智著『生化学ガイドブック』(1996・南江堂)』『毎田徹夫ほか編『医科生化学』(2000・南江堂)』


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改訂新版 世界大百科事典 「ポルフィリン」の意味・わかりやすい解説

ポルフィリン
porphyrin

ピロール環4個が4個のメチン基-CH=によって結合,閉環してできるポルフィンporphin核を母体として,その上の1~8(およびα~δ)の位置に置換基がついた誘導体の総称。ポルフィリンに鉄,銅,マグネシウムが結合した分子内錯塩は天然に存在し,生理的に重要なものが少なくない。例えばチトクロム,カタラーゼ,ヘモグロビンなどは鉄ポルフィリン誘導体のヘムヘマチンを含有しているし,植物の葉緑体にはマグネシウムポルフィリンとしてのクロロフィル(葉緑素)が含まれている。

 ポルフィリンの物理化学的性質は側鎖の種類で大きく変わる。カルボン酸を側鎖にもつものは,ピロール核の第三級窒素の弱塩基性とともに,両性電解質の性質をもつ。カルボキシル基の多いものは親水性が強い。ポルフィリンは一般に赤色を呈し,有機溶媒中で可視部に4本,ソーレー帯Soret band(400nm付近)と呼ばれる部域に1本の吸収極大を有し,また蛍光も呈する。

 各種生物におけるポルフィリン核の生合成は,まずグリシンとスクシニルコエンザイムA(スクシニルCoA)からのミトコンドリア内のALAシンターゼによる5-アミノレブリン酸(ALA)の合成に始まり,次にPBGシンターゼ(ALAデヒドラターゼ)の作用でポルホビリノーゲン(PBG)を生じ,次いで4分子のPBGの縮合によって最初のテトラピロールであるウロポルフィリノーゲンⅢ型が生成する。ポルフィリノーゲンは無色であるが,そのメチレン橋が自動酸化によってメチン橋になると,赤色のポルフィリンとなる。プロトポルフィリンに鉄が酵素を介して導入されると,プロトヘムが生成することになる。なお,プロトポルフィリノーゲンが生成する段階は,通常分子状酸素を要求する。

 ポルフィリンの生合成と分解の代謝過程の異常に由来する遺伝性疾患が種々知られている。その中でポルフィリンまたはその前駆体のALA,PBGなどが尿中に大量に排出される疾患をポルフィリン症porphyriaと呼ぶ。激しい腹痛,嘔吐,精神神経症状などをひき起こす場合がある。
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化学辞典 第2版 「ポルフィリン」の解説

ポルフィリン
ポルフィリン
porphyrin

広く動物,植物体に存在するポルフィリン誘導体の総称.ポルフィリンの置換基の位置番号はかつてはフィッシャー番号法で示されていたが,現在では,1~24番号法が用いられている.おもなポルフィリン類の置換基の種類と配列を表に示した.ウロポルフィリンコプロポルフィリンのように2種類の置換基をもつものでは,その配列にⅠ~Ⅳ型の4種類の異性体が存在する.このうち,Ⅰ型とⅢ型が天然に存在し,とくにⅢ型は生合成と関連して生理的にも重要である.3種類の置換基をもつほかのポルフィリン類では,天然物はⅨ型に分類される.ポルフィリン環は共鳴状態にあり,Ⅰ~Ⅳ型のピロール核は同一構造をもつ.側鎖にカルボキシル基があるポルフィリンは両性電解質で,その等電域は pH 3~4.5である.一般に沈殿しやすく,溶解度は小さい.生物学的に重要なプロトポルフィリンエーテル-酢酸混合溶液は,633,576,537,502,396 nm に吸収極大を示す.400 nm 付近の鋭い吸収帯は,側鎖に関係なく全ポルフィリンに共通しており,これをソーレー帯(Soret band)とよぶ.また,ポルフィリンは有機溶媒に溶かすと特徴のある赤色の蛍光を示す.生合成されるポルフィリンにはヘムクロロフィル,ビタミン B12 などがあり,生合成経路も明らかにされている.ポルフィリン環は平面構造をもち,その中心部分に鉄そのほかの金属イオンが入り,ピロール環の4個の窒素と配位結合する.ヘムはプロトポルフィリンに Feが配位したものであり,ヘモグロビンミオグロビンなどの色素タンパクの補欠分子族となっている.また,光合成に関与するクロロフィルはポルフィリン-Mgの錯体である.ポルフィリンの光増感能を利用して,抗がん剤としての開発研究が精力的に行われている.

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百科事典マイペディア 「ポルフィリン」の意味・わかりやすい解説

ポルフィリン

4個のピロール環が−CH=結合で環状に結ばれた構造(ポルフィン核)をもつ化合物の総称。生体内ではふつう金属と結合して錯体をつくる。鉄ポルフィリン(ヘム)はヘモグロビンチトクロムカタラーゼなどのタンパク質補欠分子として,マグネシウムポルフィリンは葉緑素として,いずれも生体内で重要なはたらきをしている。
→関連項目ヘム

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「ポルフィリン」の意味・わかりやすい解説

ポルフィリン
porphyrin

ポルフィンを基本骨格とし,周囲にある水素原子を他の原子もしくは原子団で置換して得られる化合物の総称。ポルフィリンの誘導体はヘモグロビン,チトクローム,クロロフィルなどの形で広く動植物中に存在する。有機溶媒に溶け,亜鉛やマグネシウムを中心金属とする金属ポルフィリンの溶液は強い赤色ケイ光を発する。

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栄養・生化学辞典 「ポルフィリン」の解説

ポルフィリン


 図のように4個のピロール環が結合した環状の化合物.ヘムやクロロフィルの色素の骨格.5-アミノレブリン酸から生合成される.

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世界大百科事典(旧版)内のポルフィリンの言及

【色素】より

メラニンは動物の皮膚の色を決定している色素で,褐色ないし黒色を示す。(4)ポルフィリン系色素 ポルフィリン環をもつもので,ヘモグロビン,カタラーゼなどの酵素,クロロフィル(葉緑素)など重要なものが多い。(5)フィコビリン類 開環テトラピロールの構造をもつ藻類の色素。…

【ヘム】より

…呼吸に関与するタンパク質であるヘモグロビン,チトクロムなどに含まれている。化学的にはポルフィリンとII価鉄の結合体で,特有の色調を呈する(吸収極大は581,545,415nmにある)。酸素運搬体であるヘモグロビンでは,酸素分子はヘムの鉄原子と結合する。…

※「ポルフィリン」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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