日本大百科全書(ニッポニカ) 「上県」の意味・わかりやすい解説
上県
かみあがた
長崎県北部、上県郡にあった旧町名(上県町(ちょう))。現在は対馬市(つしまし)上県町(まち)地区。旧上県町は1955年(昭和30)佐須奈(さすな)、仁田(にた)の2村が合併して町制施行。2004年(平成16)厳原(いづはら)、美津島(みつしま)、豊玉(とよたま)、峰(みね)、上対馬(かみつしま)の5町と合併、市制施行して対馬市となる。旧上県町は、対馬の北西部に位置する。佐護(さご)川、仁田川流域にわずかの水田地帯があるほかは、大部分が山林、原野で、林業が中心産業であり、シイタケの産がある。中心の佐須奈は木材集散地。御岳(みたけ)(479メートル)は、マミジロ、サンコウチョウ、ヤイロチョウなど多くの鳥の繁殖地。一帯の国有林約150ヘクタールの地域は、かつてはキタタキ(キツツキ科最大の鳥)の生息地として国指定天然記念物(1923)であった。しかし、キタタキは絶滅したとされ、1972年(昭和47)からは、御岳鳥類繁殖地と指定名称を変更し、国指定天然記念物になっている。海岸の岬上にある千俵蒔(せんびょうまき)山(287メートル)からは、朝鮮半島方面への展望が開け、古代は烽火(とぶひ)の起点をなした。仁田地区の伊奈(いな)浦は蒙古来襲(もうこらいしゅう)の地である。山中の深山(みやま)、目保呂(めぼろ)にはダムがある。海岸にはトビウオ漁や小型定置網、イカ釣りを主とする漁村が散在し、ワカメ、ウニの採取も行っている。1997年には対馬に生息するツシマヤマネコ(国指定天然記念物)など絶滅のおそれのある野生生物の生態や現状について普及啓発活動を行う対馬野生生物保護センターを設置、2003年からは同センターでのツシマヤマネコの一般公開も実施している。
[石井泰義]