公方(読み)クボウ

デジタル大辞泉 「公方」の意味・読み・例文・類語

く‐ぼう〔‐バウ〕【公方】

おおやけ。おもてむき。公事。
「和殿をもちてこそ、―、私、心安く」〈曽我・一〉
天皇。また、朝廷。
「―までもきこしめしひらかれ」〈曽我・一〉
鎌倉・室町時代幕府将軍家をさしていう語。また、鎌倉府の長をいう。
中世、守護荘園領主をいう。
江戸時代将軍をいう。

おおやけ‐がた〔おほやけ‐〕【公方】

朝廷・政治などに関する方面。
「―の御後見はさらにも言はず」〈・澪標〉

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精選版 日本国語大辞典 「公方」の意味・読み・例文・類語

く‐ぼう‥バウ【公方】

  1. 〘 名詞 〙
  2. 公務。公事。朝廷、幕府に奉仕する役。
    1. [初出の実例]「そうりゃうたる人はくはうをつとめ、そしを心やすくあらすべし」(出典:極楽寺殿御消息(13C中)第五四条)
  3. 天皇、または朝廷のこと。
    1. [初出の実例]「公方とは禁裏のこと也」(出典:随筆・嘉良喜随筆(1750頃)一)
  4. 鎌倉時代後期、室町時代、守護地頭や荘園領主に対する上級裁判権者としての幕府の呼称
    1. [初出の実例]「内談之時者、以公方并他所事、先可其沙汰」(出典:宇都宮家式条(1283)三八条)
  5. 鎌倉時代後期、室町時代、幕府と朝廷の両者を総体としてさす呼称。
    1. [初出の実例]「早為公方之御沙汰、可渡本所者哉」(出典:九条家文書‐(年月日未詳)(鎌倉)九条禅閤忠教家雑掌初度目安案)
  6. 室町時代、将軍家を指す呼称。また、特に在職中の征夷大将軍を他と区別していう。
    1. [初出の実例]「公方御沙汰不子細哉之由申之」(出典:園太暦‐康永三年(1344)一〇月二三日)
  7. 室町時代、将軍家の一族であった鎌倉公方、古河公方(こがくぼう)堀越公方などをいう。
    1. [初出の実例]「今年関東の諸家京都へ訴申し、鎌倉へ請侍し如元公方と称す」(出典:喜連川判鑑(1653))
  8. 室町時代、守護(しゅご)尊称
    1. [初出の実例]「たとい公方様の御使にて候共、かやうに情なくらんぼう仕候事はあるまじく候」(出典:高野山文書‐永享五年(1433)一二月日・上田入道浄願事書)
  9. 中世、荘園領主をいう。
    1. [初出の実例]「公方御大事時は、人夫伝馬可之」(出典:和泉松尾寺文書‐建長四年(1252)五月一一日・唐国村刀禰百姓等置文案)
  10. 近世、将軍家、また将軍職の人をいう。

公方の語誌

元来は、の公務やその役をいったが、鎌倉時代後期には、のように幕府(将軍家)や朝廷をさすようになる一方、荘園・公領を支配する寺社本所・武家をおしなべて公方とよぶ習慣も同時に一般化する。これは、この語が国家的統治権の所在を指すようになったためであろうと思われる。室町時代になると、そのことがもっと明確化し、のように守護領主・荘園領主をも指すようになる。


おおやけ‐がたおほやけ‥【公方】

  1. 〘 名詞 〙
  2. 公式の事柄に関する方面。
    1. [初出の実例]「僧の方よりも、おほやけがたにつけて、責め懲(てう)じ家を滅(ほろぼ)し侍り」(出典:宇津保物語(970‐999頃)楼上下)
  3. 朝廷、国家などに関する方面。また、その人々。
    1. [初出の実例]「その芸あさましくいぶせければ、〈略〉おのづからおほやけがたにもきこしめし伝へ給ひて」(出典:御伽草子・福富長者物語(室町末))

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改訂新版 世界大百科事典 「公方」の意味・わかりやすい解説

公方 (くぼう)

平安中期の《源氏物語》《枕草子》などにみられる〈おおやけかた〉と同義で,1181年(養和1)8月の後白河院庁公文所問注記集(《東大寺文書》)に〈公方済物〉,1256年(康元1)8月の感神院政所下文案(《八坂神社文書》)に〈公方に訴え申す〉などとあるように,〈私〉の対語として公家,朝廷の方面をさす語であった。この用法は中世を通じても見られるが,鎌倉中期の1283年(弘安6)将軍家御教書(みぎようしよ)を〈公方御教書〉といったのを早い例として,将軍をさす言葉として用いられるようになった。これは北条氏の幕府内部での勢力が強大になり,得宗およびその御内人(みうちびと)と御家人との摩擦が強まる過程で,得宗や〈御内〉と将軍とを区別する意図で,多少とも意識的に使われた形跡があり,おそらく安達泰盛の関与があったものと推定される。しかしこののち,鎌倉幕府室町幕府江戸幕府を通じて将軍を公方と呼ぶ用法が定着し,さらに鎌倉府の足利基氏の子孫も関東公方,鎌倉公方,さらにその分裂後は古河公方,堀越公方といわれ,鎌倉から奥州に下ったその一族も稲村公方,篠川公方と呼ばれた。

 一方これとは別に,鎌倉後期以降,荘園・公領の下地に対する寺社本所,あるいは地頭の一円支配が進行するとともに,そうした一円化した荘園・公領の支配者を公方と呼ぶ用例が急速に増加しはじめる。1329年(元徳1)12月10日の法印某書下(《醍醐寺文書》)に〈科料内財物に於ては,半分公方,四分一預所,残り四分一を以て自余の沙汰人に平均配分せしむ〉とあるのはその用例で,南北朝期以後の売券の罪科文言に〈公方に訴え申し〉とあるのや,室町・戦国期に本年貢を〈公方年貢〉といったのも,その流れをくむ用法である。罪科文言の公方は戦国期〈時の公方〉〈時の公方・地下(じげ)〉と変わっていく。これはかつての公方の裁判権の動揺・不安定化を示すとともに,〈私〉とされていた地下が公方と併存する立場に立つようになったことを物語る。
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百科事典マイペディア 「公方」の意味・わかりやすい解説

公方【くぼう】

古くは天皇,ひいては朝廷のこと。鎌倉時代以降将軍の敬称としても用い,室町時代,江戸時代には将軍の別称となった。また室町時代には鎌倉府の足利基氏後継者の僭称(せんしょう)でもあった(鎌倉公方古河(こが)公方堀越(ほりごえ)公方)。

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山川 日本史小辞典 改訂新版 「公方」の解説

公方
くぼう

中世に,将軍・幕府,天皇・朝廷,守護,荘園領主などを,それらに比較して私的とみなされるものと区別していう言葉。鎌倉後期,「御内(みうち)」に対して「公方」を用いる場合,(1)将軍個人をさし,得宗(とくそう)勢力に対し将軍がより上位にあることを示すため,安達泰盛の主導で使用されるようになったとする説と,(2)得宗をさし,幕府の公的側面に関与するようになった得宗が,その公的権限を行使する際に使用されるようになったとする説がある。室町時代には,将軍とともに鎌倉御所およびその後身である古河・堀越の御所も「公方」といい,近世では,将軍または将軍家をいった。

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「公方」の意味・わかりやすい解説

公方
くぼう

公的権力の所有者をさすことば。「おおやけかた」ともいい、公家(くげ)の方、すなわち天皇、ひいては朝廷をいったが、鎌倉時代末期には、幕府の家人(けにん)が将軍を公方と敬称した。室町時代には将軍はもちろん、鎌倉御所や九州探題をも公方とよび、幕府そのものをも公方とよぶことがあった。江戸幕府ではもっぱら将軍を公方といい、幕府を公儀(こうぎ)と称した。5代将軍徳川綱吉(つなよし)が「犬(いぬ)公方」とよばれたことはよく知られている。このほか荘園(しょうえん)制のもとで、荘官や農民らは荘園領主をも公方と尊称していた。

[百瀬今朝雄]

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旺文社日本史事典 三訂版 「公方」の解説

公方
くぼう

「公家の方」の略で,もとは朝廷,武家時代には将軍をさした
「おおやけかた」とも読む。鎌倉末期ごろから将軍の尊称となる。室町時代には将軍のほか,足利基氏の子孫である鎌倉府の主も将軍家の分かれであるため公方と称した。

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「公方」の意味・わかりやすい解説

公方
くぼう

「公家の方」の略で本来は天皇,朝廷をさしたが,鎌倉時代以後,幕府,将軍,その一族,執権をさし,江戸時代にはもっぱら将軍をさした。

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世界大百科事典(旧版)内の公方の言及

【荘園】より

…しかし大田文に載せられた公田数を基準に,これらの一円領に一国平均の段銭を賦課,守護を通じて徴収させる室町幕府の体制はともあれここに軌道にのったのである。 一円領が形成されるころから,年貢を収取するその支配者は共通して公方(くぼう)とよばれるようになり,公方は荘務を掌握する預所に当たる所務職を補任,所務職保持者は現地での実務,地頭・守護との訴訟,交渉をその代官に請け負わせた。武家領でもすでに得宗(とくそう)領,北条氏所領は給主に与えられ,給主代が現地の政所で実務を行う体制がみられたが,それは足利氏所領から室町幕府,鎌倉公方の御料所にうけつがれ,御料所はその奉公衆に預け置かれたのである。…

【天役】より

…天役(天皇の課したもの)から点役(主君=領主の点定した役)への語句および語義の変化の内に,中世社会の展開を読みとることは容易であろう。公方が朝廷,将軍の意から,守護,荘園領主,個々の在地領主をも意味するようになっていく流れと同じである。新田義貞が,〈兵粮のためにとて近国の荘園に臨時の天役を掛け〉たように(《太平記》),以後守護の賦課した守護役も天役と称されるようになっていく。…

※「公方」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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