漢字の構成ならびに使用に関する6原則。《周礼(しゆらい)》《漢書》芸文志,《説文解字》等にその名が見える。いまそれらを利用しながら解説すれば,(1)指事 図形同士の相対関係によって抽象的な観念を表そうとするもの。〈上〉,〈下〉など。(2)象形 ものの形をそのままなぞることでそのものを表そうとするもの。日,月など。(3)形声もしくは諧声 文字の一方の要素がその文字の所属を,もう一方の要素が音(おん)を表そうとするもの。江,河などで氵(水)がそれらの文字が〈水〉の部に属することを,工,可がそれらがそれぞれ〈コウ〉〈カ〉と読まれることをあらわす。(4)会意 要素どうしのそれぞれに意味が交渉し合って一つの新しい意味を合成しようとするもの。武,信など。戈すなわち武器と,止すなわち停止という要素それぞれの意味が交渉し合って,武力の行使を停止させるのこそ武の本義だといおうとするのだといい,人の言には〈まこと〉があるべきだということで信義の信の意味が合成されるという。この〈武〉の場合のように,この解釈そのものは,この字のさまざまの形や使用例から考えて,いわば〈字源俗解〉である可能性がきわめて大きいが,しかしこの文字そのものが,要素の〈戈〉と〈止〉とからでき上がっていて,その要素の意味どうしの間に干渉があるだろうということまでは否定できない。(5)転注 清の段玉裁の《説文解字注》に従えば,互いに相手方の文字の訓詁でありうる考,老両字のようなものをいう。〈考は老なり〉といい,また〈老は考なり〉というような関係である。(6)仮借(かしや) あて字であり,令,長がそれぞれ県令,県長などの意味で使われる場合がそうだという。
これらの解説のうち(5)(6)の両者,特に(5)についてはさまざまに解釈が分かれて統一しにくいが,(1)から(4)までは漢字の構成原則,(5)(6)の両者は作られた漢字の2次的な使用のための原則と,だいたいのところ推測できる。構成原則はさらに二つずつに分けられる。(1)(2)はそれ以上要素としての文字には分割できない第1次発生の文字である。それを〈文〉という。(3)(4)の下部要素は,すでにでき上がった(1)(2)などと同じ第1次発生の文字であり,したがって(3)(4)そのものは第2次発生の文字ということになる。それを〈字〉という。〈六書〉とは,したがって(1)(2)が〈文〉の法則,(3)(4)が〈字〉の法則,(5)(6)が〈文〉〈字〉をあわせた全体についての法則ということになるのである。
執筆者:尾崎 雄二郎
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
漢字の構成法ならびに転用法を六種に分けて説明したもの。『説文解字(せつもんかいじ)』(後漢(ごかん)の許慎撰(きょしんせん)、121年上奏)の叙にある記事が具体的説明の最古例で、(1)指事(「上」「下」等、抽象的概念を示すもの)、(2)象形(「日」「月」等、物の形を図示したもの)((1)(2)は単独文字)、(3)形声(諧(かい)声とも。「江」「河」等、音符と意義とをあわせたもの。大部分の漢字はこれに属する)、(4)会意(「武」「信」等、2、3字の意義をあわせたもの)((3)(4)は合成文字、(1)~(4)は漢字構成法)、(5)転注(「令」が「命令」の意から「君長」の意へ等、字義が転じた際、もとの字を転用するもの)、(6)仮借(「而」が「ひげ」の意から「しこうして」の意へ等、意義に関係なく同音の別語を表すもの)((5)(6)は転用法)をいう。順序や転注の内容に異伝があるが、漢字の起源・構成の説明として広く行われた。
[築島 裕]
字通「六」の項目を見る。
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出典 (株)朝日新聞出版発行「とっさの日本語便利帳」とっさの日本語便利帳について 情報
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[書体分類の沿革]
(1)漢魏六朝 書体の分類が中国で最初に試みられるのは後漢時代で,80年ころ成立の《漢書》芸文志で,古文,奇字,篆書,隷書,繆篆(びゆうてん),虫書の六体をあげる。次に,100年ころの成立とされる許慎《説文解字》叙には,秦の八体として,大篆,小篆,刻符,虫書,摹印(ぼいん),署書,殳(しゆ)書,隷書をあげ,新(しん)の六書として,古文,奇字,篆書,佐書,繆篆,鳥虫書をあげている。およそ書体を分類することは,それを試みる時点にみられる文字資料を形態,新旧,記録素材,用途等によって分類したもので,その分け方の基準や呼称もこのころはまだ統一されていない。…
※「六書」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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