(1)令制八省の一つ。はやく〈うたへのつかさ〉と称したが,貞観7年(865)3月7日勅により〈うたへただすつかさ〉と改めている。卿1,大・少輔各1,大・少丞各2,大録1,少録2からなる四等官のほかに,判事10,解部(ときべ)60等が置かれ,裁判や良賤名籍,囚禁ないし債負のことを管掌し,贓贖(ぞうしよく)司と囚獄司の2司を管した。律令訴訟法によれば,在京諸司で徒罪以上に相当する犯罪が発生した場合ないし衛府が逮捕した非京人はすべて刑部省に送り裁判に付し,徒罪は刑部省で断決し,流罪以上ないし除免官当の場合は太政官へ上申する定めであり,また諸国で判決を下すことが困難な疑獄事件を刑部省で扱った。すぐれた明法官人を多数擁し,律令時代における司法の中枢機関であったが,弘仁年間(810-824)に検非違使(けびいし)が創置されると刑部省の多くの権限がそちらに吸収され,しだいに形骸化していった。
→裁判[日本古代]
執筆者:森田 悌(2)1869年8月より71年8月の廃藩置県直前まで設置された,明治初年の中央官庁機構の一つ。律令官制の刑部省の後身で,訴訟の裁判や罪人の処刑を管掌した。明治初年の刑法官を引きつぎ,刑部省が発足したが,後に弾正台とともに廃止されて,かわりに司法省が置かれ,刑部省の所管事務は,同省に移された。司法省は,現在の法務省の前身である。
執筆者:石塚 裕道
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1大宝・養老令制の官司。八省の一つ。四等官のほかに判事・解部(ときべ)が所属し,裁判の審理・量刑・判決・刑執行などにあたった。在京諸司内の犯罪は,杖(じょう)罪以下は当該諸司が専決するが,徒(ず)罪以上は刑部省に送り審理・量刑を行う。刑部省では徒罪以下の判決・刑執行を行い,流(る)罪以上は太政官に報告し,天皇への奏聞をへたうえで刑が確定した。地方でおこった犯罪でも流罪以上は諸国が太政官に報告し,疑わしい場合には刑部省が再審理した。このように刑部省は律令裁判手続きのなかで審理・量刑を行う中核的な官司であったが,10世紀以降しだいに検非違使(けびいし)に権限を奪われた。
2明治初年,司法行政を管轄した中央官庁。司法省の前身。1869年(明治2)7月,刑法官にかえて太政官のなかの一省として設置。司法行政の統轄とともにみずから刑事裁判権をもったが,大村益次郎暗殺犯人の処刑などに関し,その権限をめぐって弾正台(だんじょうだい)(同年5月設置)と対立。70年新律綱領と獄庭規則(裁判手続きを定めたもの)の制定・公布にあたる。刑部卿は正親町三条実愛(おおぎまちさんじょうさねなる),刑部大輔は佐佐木高行。71年7月廃止,司法省となった。
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(1)古代律令(りつりょう)国家の中央行政機構である八省の一つ。裁判や刑罰の執行を管掌した。「うたへのつかさ」「うたへただすつかさ」などとも読む。前身官司を刑官といい、大宝令で省制として整備された。卿(かみ)以下の四等官のほか、罪名を断定する判事10名、訴訟を指揮する解部(ときべ)60名を擁し、徒罪(ずざい)以下の罪状について独自に判決し、刑を執行した。被管に贖罪(しょくざい)をつかさどる臟贖(ぞうしょく)司と罪人の拘禁、実刑の執行にあたる囚獄(しゅうごく)司の2司が所属した。判事はやがて法律を世職とする中原氏、坂上氏で占められるようになったが、刑部省の実権は検非違使(けびいし)に移って有名無実化した。(2)明治政府成立時の最高司法機関。1869年(明治2)官制改革によって、刑法官にかわって設置されたが、71年司法省発足で廃止。
[八木 充]
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…卿1,大・少輔各1,大・少丞各2,大録1,少録2からなる四等官のほかに,判事,解部(ときべ)60等が置かれ,裁判や良賤名籍,囚禁ないし債負のことを管掌し,贓贖(ぞうしよく)司と囚獄司の2司を管した。律令訴訟法によれば,在京諸司で徒罪以上に相当する犯罪が発生した場合ないし衛府が逮捕した非京人はすべて刑部省に送り裁判に付し,徒罪は刑部省で断決し,流罪以上ないし除免官当の場合は太政官へ上申する定めであり,また諸国で判決を下すことが困難な疑獄事件を刑部省で扱った。すぐれた明法官人を多数擁し,律令時代における司法の中枢機関であったが,弘仁年間(810‐824)に検非違使(けびいし)が創置されると刑部省の多くの権限がそちらに吸収され,しだいに形骸化していった。…
…卿1,大・少輔各1,大・少丞各2,大録1,少録2からなる四等官のほかに,判事,解部(ときべ)60等が置かれ,裁判や良賤名籍,囚禁ないし債負のことを管掌し,贓贖(ぞうしよく)司と囚獄司の2司を管した。律令訴訟法によれば,在京諸司で徒罪以上に相当する犯罪が発生した場合ないし衛府が逮捕した非京人はすべて刑部省に送り裁判に付し,徒罪は刑部省で断決し,流罪以上ないし除免官当の場合は太政官へ上申する定めであり,また諸国で判決を下すことが困難な疑獄事件を刑部省で扱った。すぐれた明法官人を多数擁し,律令時代における司法の中枢機関であったが,弘仁年間(810‐824)に検非違使(けびいし)が創置されると刑部省の多くの権限がそちらに吸収され,しだいに形骸化していった。…
…日本古代の律令制の官庁組織をいう語。狭義には太政官(だいじようかん),神祇官(じんぎかん)の二官と中務(なかつかさ)省,式部(しきぶ)省,治部(じぶ)省,民部(みんぶ)省,兵部(ひようぶ)省,刑部(ぎようぶ)省,大蔵(おおくら)省,宮内(くない)省の八省を指すが,広義には,この二官・八省に統轄される八省被管の職・寮・司や弾正台(だんじようだい),衛府(えふ)などの中央官庁および大宰府(だざいふ)や諸国などの地方官庁を含む律令制の全官庁組織の総体をいい,ふつうは後者の意味で用いる。このような官庁組織は,7世紀後半から8世紀初めにかけて形成された。…
※「刑部省」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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