(1)和訓は〈ただすのつかさ〉。古代の令制官司の一つ。二官八省のいわゆる政府機関から独立して,太政大臣を除く全官人の綱紀の粛正と非法違法の摘発とを任務とした。唐の御史台にならったもので,天武朝に令制の弾正尹にあたる糺職大夫がみえ,このころからこの種の役所が存在したと考えられる。一応全国の官人を対象とする形をとっていたが,京以外の諸国の官人を対象とするのは,京に逗留中に犯した非違または諸国の官人に非違ありとして告訴された場合に限られていた。弾正台の官人の職名はその職掌がらか他の官司の通例と異なり,尹(いん),大弼(だいひつ),少弼,大忠(だいちゆう),少忠,大疏(だいしよ),少疏などと重々しく音で読まれた。尹はのちには多く親王が任じられた。810年代に主として京の治安維持にあたる検非違使(けびいし)が設置されると,弾正台はしだいにその職務をこれに奪われて形骸化していった。
→弾例
執筆者:虎尾 俊哉(2)明治初年の警察。律令制下の弾正台の名称を復活させたもので,1869年(明治2)5月22日刑法官の監察司に代わって設置された。長官は尹,次官は弼と律令制と同じ名称を用い,各地の巡察と非違の糾弾を任務とし,新政府に背反する旧幕府の残徒および政治的陰謀者の偵察を職務とした。同年7月8日刑法官が廃され刑部省が設けられると同省に属し,京都に西京出張所を設け,8月には東京本台が三河以東,西京出張所が尾張以西を所管することとした。70年には大阪にも出張所を置いた。71年7月廃止され,司法省にひきつがれた。
執筆者:田村 貞雄
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令(りょう)制の警察機関。風俗の粛正と非違の取締りにあたる。和名では「ただすつかさ」と読み、唐名は御史台(ぎょしだい)という。唐の御史台には台院、殿院、察院の三院が属しているが、わが国の弾正台は主として台院の職務を模したものである。その職員は四等官(しとうかん)制で、長官(かみ)に尹(いん)1人があり、のちには多く親王の任となる。次官(すけ)の弼(ひつ)はもと1人であるが、やがて大弼、少弼に分かれる。判官(じょう)は大忠(だいちゅう)1人、少忠1人、主典(さかん)は大疏(だいそ)1人、少疏1人で、その下に現在の巡査に相当する巡察弾正10人や史生(ししょう)6人、使部(つかいべ)30人、直丁(じきちょう)2人などが所属する。弘仁(こうにん)年間(810~824)に検非違使(けびいし)が置かれてからは、弾正台の職務はしだいに吸収された。
1869年(明治2)刑法官監察司にかわり設置され、長官(尹)に九条道孝、次官(大弼)に池田茂政(前岡山藩主)が任命された。71年廃止。
[渡辺直彦]
1「ただすつかさ」とも。律令制下の官司の一つ。違法行為を糾弾する特別検察機関。養老職員令の規定によれば尹・弼・忠・疏の四等官と巡察弾正10人,および史生・使部・直丁から構成される。職務は内外を巡察して非違を糾弾することだが,京内の摘発が中心で,諸国は訴訟があった際に受理して推問するだけであった。律令法上は,各行政官司が検察・裁判権を有し,弾正台はそれらが看過したものを糾弾する役割であった。規定上は民間の習俗の粛正も職掌とされていたが,実情は不明。二官八省から独立しており,その糾弾は奏弾式の書式で直接天皇に奏上することとなっていた。
21869年(明治2)5月22日に刑法官監察司にかわって設置された機関。名称は律令制下の弾正台からとられた。行政監察と刑事司法の機能を有し,刑部省の死刑断案について干渉する権限をもち,横井小楠(しょうなん)・大村益次郎の暗殺については犯人の処刑に反対するなど,守旧派の姿勢を示した。このため刑部省をはじめとする関係官庁との衝突も多く,権限をしだいに削減されて71年の司法省設置により廃止された。
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…一応全国の官人を対象とする形をとっていたが,京以外の諸国の官人を対象とするのは,京に逗留中に犯した非違または諸国の官人に非違ありとして告訴された場合に限られていた。弾正台の官人の職名はその職掌がらか他の官司の通例と異なり,尹(いん),大弼(だいひつ),少弼,大忠(だいちゆう),少忠,大疏(だいしよ),少疏などと重々しく音で読まれた。尹はのちには多く親王が任じられた。…
…尚書省の六部尚書,門下省の侍中,中書省の中書令がいずれも正三品であるのとほぼ対等の位階をもち,百官の非違を糾弾する職責に任じた。御史台は日本の律令では弾正台となり,中国でも明・清時代には都察院という名称に変わった。【滋賀 秀三】
[日本]
天智天皇の時代には大臣の次に置かれた官職名。…
…密奏は奏状を密封して奏する場合もある。律令制では太政官(だいじようかん),弾正台および地方国司から奏する定めで,その文書様式を公式令で規定している。太政官からの場合,論奏式,奏事式,便奏式の3型がある。…
※「弾正台」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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