出典 内科学 第10版内科学 第10版について 情報
劇症肝炎とは、急性肝炎のなかでもとくに重症のもので、高度の
日本では、表1に示すような診断基準に従って「昏睡型の急性肝不全」を診断し、そのうち肝炎によるものが劇症肝炎の病名となります。
診断するうえでの重要なポイントは、症状(発熱、かぜ様症状、
さらに、肝性脳症の出現までの日数により、2つの病型に分けています。すなわち、10日以内に肝性脳症が現れる急性型、11~56日以内に肝性脳症が現れる亜急性型です。
このように2つの臨床病型に分けたのは、両者の最終的な予後(生存するか、死亡するか)が異なることが最大の理由です。実際に、内科的な救命率(肝移植例を除く)は急性型30%、亜急性型20%です。
図3に現在の日本の劇症肝炎の原因別頻度を示しました。ウイルス、薬物(アレルギー)、自己免疫性肝炎によるものが主な原因です。今なお原因不明の例も多くみられます。
日本ではウイルスによるものが多く、しかもそのほとんどが肝炎ウイルス(A型、B型、C型、D型、E型)です。B型肝炎ウイルスによるものが多く、D型は日本ではほとんどありません。慢性肝炎や肝硬変、肝がんの原因として有名なC型が劇症肝炎を起こすことは極めてまれです。
薬物の中には、健康食品やサプリメントによるものも少なくありません。
劇症肝炎に特徴的な症状は肝性脳症(意識障害)ですが、初期症状は通常の経過をたどる急性肝炎と何ら変わりはありません。前述したように発熱、かぜ様症状、倦怠感、食欲不振、吐き気、嘔吐などが最初に現れ、尿の色が濃くなって
意識障害出現までの日数はさまざまで、急性型と亜急性型がありますが、急性型のうち、肝炎様症状に続いて2~3日で出現する場合を超急性型と呼んでいます。
亜急性型ではあまり症状がなく、徐々に黄疸や腹水が増加したあとに、急に意識障害が現れることもしばしばみられます。
肝性脳症の程度は、
血液生化学検査では、肝機能検査、腎機能検査、血液凝固検査が行われます。とくにプロトロンビン時間の測定は必須ですが、肝臓で合成される蛋白質(凝固因子も含む)や脂質の状態を反映する検査項目(アルブミン、コリンエステラーゼ、コレステロール)、ビリルビン抱合能(総ビリルビンと直接型ビリルビンとの比)、ヒト肝細胞増殖因子も重要な検査項目です。
血清トランスアミナーゼ(AST[GOT]、ALT[GPT])は肝機能障害の指標として有名ですが、劇症肝炎の診断には役立ちません。また、原因を探るために肝炎ウイルスマーカーも検査します。
各検査値は、どの時点で医療機関を受診したかで異なりますが、急性型と亜急性型では肝性脳症発現時の肝機能検査値に違いがみられます。
劇症肝炎の内科的治療法を表3に示しました。基本的には、肝性脳症の改善を図り、破壊された肝細胞が再生されるまで人工肝補助(
人工肝補助は、肝細胞の広汎な
原因ウイルスが明らかな例では、抗ウイルス療法も行われます。
肝性脳症が出現したら、ただちに人工肝補助療法を開始しなければなりません。
また、明らかな意識障害がなくても、先に述べた肝機能検査で著しい異常を認めた場合には、劇症肝炎へ移行する危険性があることを考え、肝臓専門医と相談しながら治療を行い、できるだけ早期に専門的な治療が可能な医療機関へ移送することが大切です。
滝川 康裕
出典 法研「六訂版 家庭医学大全科」六訂版 家庭医学大全科について 情報
ウイルス肝炎や薬物性肝障害の経過中8週間以内に重症化し、急激に高度の肝機能障害と意識障害が起こる病気。1976年(昭和51)から厚生省(現、厚生労働省)の特定疾患(難病)に指定された。急性肝炎の1~2%が劇症肝炎に移行するとされ、日本では年間450人前後が発病している。
[恩地森一]
原因は肝炎ウイルスが多く、そのなかでもB型肝炎ウイルス(HBV)と、原因不明であるものが多い。B型肝炎では変異株で劇症肝炎が発症することが多いとされている。ほかにはD型肝炎ウイルス、高齢者のA型肝炎、薬物としてはアセトアミノフェン、糖尿病用薬などがある。自己免疫性肝炎のなかには劇症肝炎として発症する例もある。急激に悪化する機構については解明されていない。B型慢性肝疾患の経過中に急激に高度の肝障害と意識障害が出現することがある。初感染による劇症肝炎よりも予後不良であり、抗ウイルス剤と免疫抑制剤による早急な治療が必要である。
[恩地森一]
症状としては、急性肝炎の一般的な症状が顕著となるとともに、出血傾向、意識障害(肝性昏睡)、腹水や腎不全が出現する。経過の比較的に長いときには黄疸(おうだん)が高度となる。発症後11日以後に肝性昏睡が出現する劇症肝炎亜急性型では原因不明が40%を超えている。診断は、肝機能検査、意識状態の把握が重要である。血液凝固検査において、肝臓で産生される半減期の短いタンパクを測定するプロトロンビン時間が40%以下となる。予後は不良である。肝性昏睡が肝炎発症後10日以内に発症する劇症肝炎急性型は、A型肝炎やB型肝炎によることが多く、比較的予後が良い。
[恩地森一]
抗ウイルス剤や免疫抑制剤による治療、血漿(けっしょう)交換、交換輸血、持続血液透析やその他の対症療法が行われている。消化管出血の予防としてH2ブロッカー(胃液の分泌を抑える薬)や、出血対策としてATⅢ製剤の使用も大切である。抗ウイルス剤としては、B型肝炎ウイルスにエンテカビル(逆転写酵素阻害剤)が使用されている。肝移植(肝臓移植)も治療として重要で、日本では生体肝移植がおもに行われている。劇症肝炎すべての救命率は約30%で、急性型では50%前後、亜急性型では20%以下と予後はきわめて悪いが、肝移植では80%近くの救命率がある。
[恩地森一]
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…肝臓は成人では1300~1500gあり,体内では最大の臓器である。急性肝炎に引き続き劇症肝炎fulminant hepatitisが発症したとき,および高度に進行した肝硬変では,肝臓は著しく小さくなる(萎縮する)。これを肝萎縮症という。…
…肝臓の炎症性疾患。肝炎と名がつく肝臓の疾患には,ウイルス性肝炎(急性肝炎),劇症肝炎,慢性肝炎,ルポイド肝炎,アルコール性肝炎や薬物性肝炎などがある。肝炎は,(1)肝細胞の変性,壊死(肝細胞の破壊),(2)肝細胞の機能障害,(3)間葉系反応(細胞浸潤や繊維増生),(4)胆汁鬱滞(うつたい)(胆汁の排出障害,黄疸)などの組織変化の組合せで起こる。…
※「劇症肝炎」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
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