大化前代の品部は古訓に〈しなしなのとものを〉とあることから〈しなべ〉を学術用語として採用。また〈とものみやつこ〉という古訓もあることから〈ともべ〉ともいう。この品部については次の二つの考え方がある。(1)部の総称。複数の部に対する呼称。(2)大和朝廷に仕える伴造(とものみやつこ)の管理下におかれた職業部(馬飼部,鍛冶部(かぬちべ)など)と名代(なしろ)を合わせたもの。物資を貢納したり,朝廷に上番して労役に従事した。令制下になると,大化前代の職業部の一部を解放せず,諸官司に配属し特殊な労働や製品の貢納を義務づけた集団を品部とした。この内には図書寮紙戸(しこ)(借品部),雅楽寮楽戸(がくこ),造兵司雑工戸(ざつこうこ)(爪工・楯縫・幄作),鼓吹司鼓吹戸(つづみふえへ),主船司船戸(ふなべ),主鷹司鷹戸(たかかいべ),大蔵省狛戸(こまべ),漆部司漆部(ぬりべ),織部司染戸(そめへ),大膳職雑供戸(ざつくこ),大炊寮大炊戸(おおいべ),典薬寮薬戸(やくこ)・乳戸(にゆうこ),造酒司酒戸(さかへ),園池司園戸(そのへ),土工司泥戸(ぬりへ),主水司氷戸(もひとりへ)等があり,大宝令の官員令別記によると総数は借品部の紙戸を含めて2107戸,品部と明記されないが品部とみなすべきもの380戸,合計2487戸にのぼる。その居住地は畿内とその近国に限られる。彼らはおもに1戸より1丁が一定期間,もしくは臨時に官司に上番し労役に服するか,または一定量の製品の貢納を義務づけられ,その代償として戸内の課役の全部もしくは一部を免除され,また兵士にも充てられなかった。品部は雑戸(ざつこ)と併称されるところから雑戸とともに良賤の中間にあったとされるが,これは誤りで品部に卑賤の観念はなく,雑戸籍に付貫される雑戸と異なり公民と同じ戸籍に登載されている。奈良時代の後半,律令制解体の危機に直面すると,時の為政者は部民的色彩を多分に遺す品部を公民化することによって課役の増益をはかる政策に転じ,759年(天平宝字3)藤原仲麻呂政権下でまず世業の伝習を要しない低技術部門の,ついで事態がより深刻化した桓武朝に機構の縮小と並行してその他の品部の戸数削減をはかったとみられ,品部は平安初期にほとんど姿を消してしまう。
→部民
執筆者:新井 喜久夫
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「ともべ」とも。朝廷により組織された特殊な部。大化前代の品部は,「日本書紀」垂仁39年条の伝承にある楯部(たてぬいべ)・神弓削部(かむゆげべ)・玉作部(たまつくりべ)などの10種の品部が著名。当時はさまざまの職業部が,伴造(とものみやつこ)に管掌されて朝廷に物資と労働力を提供し,伴造の経済的基盤となったらしい。最近では名代(なしろ)の部も品部の一種とする説がある。律令時代には大化前代の品部の一部が残存し,たとえば図書(ずしょ)寮の紙戸50戸,造兵司の楯縫(たてぬい)36戸,漆部司(ぬりべのつかさ)の漆部15戸のように,伝統的諸官司に配備されたものとするのが有力な学説である。彼らは所属官司に上番して特殊な労役に服し,調・庸・雑徭(ぞうよう)の全部または一部を免除された。
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…大化前代の品部は古訓に〈しなしなのとものを〉とあることから〈しなべ〉を学術用語として採用。また〈とものみやつこ〉という古訓もあることから〈ともべ〉ともいう。…
…彼らは朝廷をはじめ,天皇,后妃,皇子らの宮,さらに臣,連らの豪族に領有・支配される部民などがまずあげられるが,このような階層には,まだ氏姓は及んでいなかったとみられよう。ただ,そのなかでは,朝廷に出仕して,職務の名を負う品部(しなべ),王名,宮号を負う名代(なしろ)(名代・子代),屯倉(みやけ)の耕作民である田部(たべ)などの先進的な部民に,共同体のなかの戸を単位に編成されるもの,6世紀には,なんらかの籍帳に登載されるものが現れたことが予測され,比較的はやく氏姓を称するにいたったのであろう。それにたいし,豪族の支配下にあった民部(かきべ)は,在地の族長を介して,共同体のまま部に編入し,族長をへて貢納させる形のものが多く,各戸に豪族名を付して,某部・某人部などと称することはなかったと思われる。…
…もともと宮廷には伴(とも)・伴緒(とものお)とよばれる官人の一団があり,内廷の職務を分掌していたが,5,6世紀ごろ朝鮮三国から多くの帰化人を迎え,広範な分掌組織をともなう外廷を成立せしめた。その上部に官人の統率者としての臣(おみ)・連(むらじ)・伴造(とものみやつこ)という階層,その下に実務を担当する百八十部(ももあまりやそのとも),そして各職務に応じ生産・貢納に従う品部(しなべ∥しなじなのとも)という,上下の統属関係にもとづくピラミッド型の官司制を成立させたと考えられる。 まず伴として,畿内の中小豪族を任ずる殿部(とのもり)(天皇の乗輿,宮殿の調度,灯火をつかさどる),水部(もいとり)(供御の清水や氷をつかさどる),掃部(かにもり)(殿内の掃除をつかさどる),門部(かどもり∥かどべ)(宮殿の諸門の守衛をつかさどる),蔵部(くらひと)(内蔵,大蔵の出納をつかさどる),物部(もののべ)・佐伯部(さえきべ)(軍事・警察,刑罰をつかさどる)などがあった。…
※「品部」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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