行く(読み)ユク

デジタル大辞泉 「行く」の意味・読み・例文・類語

ゆ・く【行く/逝く/往く】

[動カ五(四)]
向こうへ移動する。「はやく―・け」
目的地へ向かって進む。「学校へ―・く」
歩く。歩いて進む。「悪路を―・く」
通り過ぎる。「沖を―・く船」
年月が経過する。「―・く秋を惜しむ」
流れる。「―・く水のごとく」
(逝く)死ぬ。「君―・きて三年」
物事がはかどる。「うまく―・かない」
物事をする。「前の方法で―・くことにする」
10 気持ちが十分満足する。「納得が―・く」
11 年をとる。成長する。「年の―・かない子供」
12 嫁に行く。とつぐ。「末娘も嫁に―・く年ごろになった」
13 (「いく」の形で)俗に、性交時の快感が絶頂に達する。
14補助動詞)動作の継続・進行の意を表す。「やせて―・く」
[可能]ゆける
[補説]「いく」の語形も上代からみられ、平安時代以降は「ゆく」と併用される。「ゆく」「いく」はほとんど意味は同じであるが、古くは「ゆく」のほうがより広く使われ、特に訓点資料・和歌(「生く」との掛け詞の場合を除き)では、ほとんどすべてが「ゆく」である。現在では「ゆく」に比べて「いく」のほうが話し言葉的な感じをもち、したがって、「過ぎ行く」「散り行く」など、文章語的な語の場合には「ゆく」となるのが普通である。なお、「ゆきて」のイ音便形「ゆいて」も用いられたが、現在は一般的でなく、促音便形は「ゆく」のほうは用いられず、「いく」を用いて「いって」「いった」となる。
[下接句]あとへも先へも行かぬ裏の裏を行くで行く千万人といえどもわれかん天馬空を行く得心が行く年が行くはかが行く人の一生は重荷を負うて遠き道を行くがごと一筋縄では行かない目が行く
[類語](1)(2向かう赴く出向く出かける足を運ぶ通る(尊敬)いらっしゃるおいでになる・おでかけになる・おでましになる(謙譲)参る参ずる伺う参上する/(7亡くなる没する果てるくたばるみまかる瞑する死ぬ死する眠るたおれる事切れる先立つ旅立つ死去する死亡する死没する物故する絶命する絶息する永眠する瞑目めいもくする逝去せいきょする長逝ちょうせいする永逝えいせいする他界する昇天する往生おうじょうする落命する急逝きゅうせいする急死する頓死とんしする横死する憤死する夭折ようせつする夭逝ようせいする息を引き取る冷たくなるえなくなる世を去る帰らぬ人となる不帰の客となる死出の旅に出る亡き数に入る鬼籍に入る幽明さかいことにする黄泉こうせんの客となる命を落とす人死に物化まか絶え入る消え入るはかなくなる絶え果てる空しくなる仏になる朽ち果てる失命夭死臨終ぽっくりころり突然死即死

い・く【行く】

[動カ五(四)]ゆく

出典 小学館デジタル大辞泉について 情報 | 凡例

精選版 日本国語大辞典 「行く」の意味・読み・例文・類語

ゆ・く【行・往・逝】

  1. 〘 自動詞 カ行五(四) 〙
  2. [ 一 ]
    1. 今いる所から向こうの方へ進み動く。
      1. (イ) ある場所から離れるように進み動く。
        1. [初出の実例]「水門(みなと)の 潮のくだり 海(うな)くだり 後も暗(くれ)に 置きてか庾舸(ユカ)む」(出典:日本書紀(720)斉明四年一〇月・歌謡)
        2. 「希有の人かなと思て、十余町ばかり、具してゆく」(出典:宇治拾遺物語(1221頃)二)
      2. (ロ) 目的の場所に向かって進む。赴く。
        1. [初出の実例]「蒜摘みに 我が由久(ユク)道の」(出典:古事記(712)中・歌謡)
        2. 「あづまの方に住むべき国もとめにとてゆきけり」(出典:伊勢物語(10C前)九)
      3. (ハ) 先方に到達する。また、訪問する。
        1. [初出の実例]「家に由伎(ユキ)ていかにか吾(あ)がせむ枕づく妻屋さぶしく思ほゆべしも」(出典:万葉集(8C後)五・七九五)
        2. 「山崎に、もろともにゆきてなむ、舟にのせなどしける」(出典:大和物語(947‐957頃)一四一)
    2. あるところを通過して進む。
      1. (イ) 通り過ぎる。通行する。
        1. [初出の実例]「海処(うみが)由気(ユケ)ば 腰泥(なづ)む 大河原の 殖(うゑ)草 海処は いさよふ」(出典:古事記(712)中・歌謡)
        2. 「春日野の若菜つみにやしろたへの袖ふりはへて人のゆくらん〈紀貫之〉」(出典:古今和歌集(905‐914)春上・二二)
      2. (ロ) 水が流れ去る。また、風が吹き通る。
        1. [初出の実例]「稲むしろ 川そひやなぎ 水愈凱(ユケ)ば 靡き起き立ち その根は失せず」(出典:日本書紀(720)清寧二年・歌謡)
        2. 「ゆく河の流れは絶えずして、しかも、もとの水にあらず」(出典:方丈記(1212))
      3. (ハ) 年月が過ぎ去る。また、年をとる。ある年齢に達する。
        1. [初出の実例]「秋山に霜降り覆ひ木の葉散り年は行(ゆく)とも我れ忘れめや」(出典:万葉集(8C後)一〇・二二四三)
        2. 「歌のほうは歳がゆくにつれて忘れっぽくなった」(出典:湯葉(1960)〈芝木好子〉)
    3. 道などが通じる。
      1. [初出の実例]「三笠山野辺ゆ遊久(ユク)道こきだくも荒れにけるかも久にあらなくに」(出典:万葉集(8C後)二・二三四)
    4. ( 逝 ) 死ぬ。逝去する。
      1. [初出の実例]「已に遊(ユケ)る魂上帝に招かれ」(出典:大慈恩寺三蔵法師伝承徳三年点(1099)九)
      2. 「汐の干くと一緒に逝くものだと話して居た」(出典:母の死と新しい母(1912)〈志賀直哉〉三)
    5. (嫁、婿、養子などになって)他家へ移る。
      1. [初出の実例]「姉一人有り。羸州の張民に適(ユケ)り」(出典:大慈恩寺三蔵法師伝承徳三年点(1099)九)
      2. 「五百(いほ)は潔く此家を去って渋江氏に適(ユ)き」(出典:渋江抽斎(1916)〈森鴎外〉一〇七)
    6. ( 「心がゆく」の形で ) 愉快になる。満足する。→ここちゆくこころゆく
      1. [初出の実例]「吾が屋前(やど)に 花そ咲きたる そを見れど 情(こころ)も行(ゆか)ず」(出典:万葉集(8C後)三・四六六)
    7. 物事が進行する。行なわれる。→ことゆく
      1. [初出の実例]「万機の沙汰のゆかぬやうになるとき」(出典:愚管抄(1220)三)
      2. 「二進(にっち)も三進(さっち)も、ゆかなくなった時には」(出典:当世書生気質(1885‐86)〈坪内逍遙〉三)
    8. (損、得、満足、納得など)ある結果や状態が生じる。
      1. [初出の実例]「色々案じても合点ゆかず」(出典:咄本・昨日は今日の物語(1614‐24頃)上)
      2. 「そうはゆきません」(出典:明日への楽園(1969)〈丸山健二〉四)
    9. 性交の快感が絶頂に達する。
  3. [ 二 ] 補助動詞として用いる。動詞の連用形、または、それに助詞「て(で)」を添えた形に付いて、動作・状態の継続、進行を表わす。
    1. [初出の実例]「万代に 言ひ継ぎ由可(ユカ)む 川し絶えずは」(出典:万葉集(8C後)一七・四〇〇三)
    2. 「やうやう夜もあけゆくに」(出典:伊勢物語(10C前)六)

行くの語誌

( 1 )同義語に「いく」があるが、使用頻度は、室町期を過ぎる頃まで「ゆく」が優勢であった。「ゆく」は和歌のほか文字言語、ことに訓点資料に多く用いられた。音便形の「ゆいて」も、おおむね訓点資料や抄物に見られる。
( 2 )慣用句は、より古い時代に出来たこともあって、古雅な「ゆく」の形をとることが多い。なお、上代に見られた「いゆく」の「い」は動詞に付く接頭語である。→「いく(行)」の語誌


い・く【行・往】

  1. 〘 自動詞 カ行五(四) 〙
  2. [ 一 ]
    1. 今いる所から向こうのほうへ進み動く。
      1. (イ) 元の場所から離れるように進み動く。でかける。立ち去る。
        1. [初出の実例]「橘の古婆(こば)の放髪(はなり)が思ふなむ心うつくしいで吾(あれ)は伊可(イカ)な」(出典:万葉集(8C後)一四・三四九六)
        2. 「などて乗り添ひていかざりつらん」(出典:源氏物語(1001‐14頃)夕顔)
      2. (ロ) 目的の場所に向かって進む。おもむく。
        1. [初出の実例]「あめつちの神を祈りてさつ矢貫(ぬ)き筑紫の島をさして伊久(イク)われは」(出典:万葉集(8C後)二〇・四三七四)
        2. 「道隆は豊楽院、道兼は仁寿殿の塗籠、道長は大極殿へいけ」(出典:大鏡(12C前)五)
      3. (ハ) 先方に到達する。遠くに届く。
        1. [初出の実例]「こりャあ此方(こっち)の文の行(イカ)ねへ中(うち)に出た文で」(出典:人情本・春色辰巳園(1833‐35)後)
    2. いったん近くに進んで来て、向こうへ離れ去る。
      1. (イ) 通り過ぎる。
        1. [初出の実例]「ゆきかふ舟ども、帆をひきあげつついく」(出典:蜻蛉日記(974頃)中)
      2. (ロ) ある場所を通る。
        1. [初出の実例]「カチヂヲ iqu(イク)」(出典:日葡辞書(1603‐04))
      3. (ハ) (年月が)過ぎ去る。また、「としがいく」「としはがいく」の形で、ある年齢に達する。成長する。
        1. [初出の実例]「年はいかねど男を持てば大人役」(出典:浄瑠璃・卯月の紅葉(1706頃)中)
    3. ( 「逝」とも書く ) 死ぬ。逝去する。
      1. [初出の実例]「いつぽっくりと行ってしまふかも知れないのである」(出典:蓼喰ふ虫(1928‐29)〈谷崎潤一郎〉一二)
    4. (嫁、婿、養子などになって)他家へ移る。
      1. [初出の実例]「養子に行(イカ)しった御宅(おうち)はまあどふした訳で急に身代がたたなくなったので」(出典:人情本・春色梅児誉美(1832‐33)初)
    5. 愉快になる。満足する。納得する。
      1. [初出の実例]「ぬさには御心のいかねば、みふねもゆかぬなり」(出典:土左日記(935頃)承平五年二月五日)
    6. (損、得、満足、納得など)ある結果が生じる。
      1. [初出の実例]「そなたようがてんのいくようにおしやれ」(出典:虎明本狂言・薬水(室町末‐近世初))
    7. 物事を行なう。また、生活を維持する。
      1. [初出の実例]「頭(かしら)、一つ拳(けん)いきませふか」(出典:歌舞伎・韓人漢文手管始(唐人殺し)(1789)一)
      2. 「是からはどうして往(イ)く積(つもり)だ」(出典:浮雲(1887‐89)〈二葉亭四迷〉一)
    8. 物事が行なわれる。事が運ぶ。
      1. [初出の実例]「晉の国の乱のいかうずをみて、図を以て吾がふる里え帰た心か」(出典:玉塵抄(1563)一七)
      2. 「学校はそれでいいのだが下宿の方はさうはいかなかった」(出典:坊っちゃん(1906)〈夏目漱石〉三)
    9. 物事を相当な程度やることができる。
      1. [初出の実例]「いく〈略〉可成事をいくといひ」(出典:和訓栞(1777‐1862))
    10. ある基準、目標などに達する。「売り上げが目標まで行く」「視聴率が三〇パーセントいった」
    11. 性交の快感が絶頂に達する。
  3. [ 二 ] 補助動詞として用いられる。動詞の連用形に助詞「て(で)」を添えた形に付いて、動作、作用の継続、進行を表わす。
    1. [初出の実例]「自然は己(おの)が為(す)べき事をさっさっとして行(イ)って」(出典:浮雲(1887‐89)〈二葉亭四迷〉三)

行くの補助注記

和歌では「生く」を掛けて用いることがある。

行くの語誌

「いく」「ゆく」は合わせ用いられる。「万葉集」では「いく」の仮名書き七例すべてが字余り句なので、上代ではその使用に何らかの音韻観念の違いがあったようだが、使用度については室町を過ぎる頃まで「いく」が劣勢だった。「いく」はアシユクの約言イユクの中略ともいわれ〔碩鼠漫筆〕、「ゆく」より新しい俗な形であったかともいわれるが明らかではない。逆に「ゆく」の古形という説〔万葉集辞典=折口信夫〕もある。

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