在す(読み)マシマス

デジタル大辞泉 「在す」の意味・読み・例文・類語

まし‐ま・す【在す/×坐す】

[動サ五(四)]動詞ます」の連用形補助動詞ます」から。「す」より一層敬意が加わる》
在る」「居る」の意の尊敬語。いらっしゃる。おいでになる。おわします。「天に―・す神よ」
「あはれ、仏も―・さず、ひじりもいまさざる間に」〈三宝絵・下・序〉
物がある意の尊敬語。おありになる。
御所には法皇をはじめまゐらせて、公卿殿上人…立てぬ願も―・さず」〈平家・九〉
(補助動詞
㋐(形容詞・形容動詞の連用形、断定の助動詞「なり」の連用形「に」などに付く)「」「である」の意の尊敬語。…でいらっしゃる。
「未だ位にもつき給はずして、姫宮にて―・しける時に」〈今昔・一一・一八〉
㋑(動詞の連用形に付く)「てある」「ている」の意の尊敬語。…ていらっしゃる。
「御念仏の声やうやう弱らせ―・しければ」〈平家灌頂
[類語]居る居合わせる控える存在(尊敬)いらっしゃる・おられる・おいでになるおわすおわしますある

ま・す【在す/×坐す】

[動サ四]
「ある」「いる」の意の尊敬語。いらっしゃる。おいでになる。
「大君は千歳に―・さむ白雲も三船の山に絶ゆる日あらめや」〈・二四三〉
「行く」「る」の意の尊敬語。いらっしゃる。おいでになる。
「我が背子が国へ―・しなばほととぎす鳴かむ五月さつきはさぶしけむかも」〈・三九九六〉
(補助動詞)他の動詞の連用形に付いて、「ある」「いる」の意を敬っていう語。お…になる。…ていらっしゃる。
「人の植うる田は植ゑ―・さず今更に国別れしてあれはいかにせむ」〈・三七四六〉

出典 小学館デジタル大辞泉について 情報 | 凡例

精選版 日本国語大辞典 「在す」の意味・読み・例文・類語

ま・す【在・坐】

  1. [ 1 ] 〘 自動詞 サ行四段活用 〙
    1. [ 一 ]
      1. 「ある」「いる」の意の尊敬語。存在、状態の主を敬う。いらっしゃる。おられる。
        1. [初出の実例]「大君は千歳に麻佐(マサ)む白雲も三船の山に絶ゆる日あらめや」(出典万葉集(8C後)三・二四三)
        2. 「海にます神の助けにかからずば潮のやほあひにさすらへなまし」(出典:源氏物語(1001‐14頃)明石)
      2. 特に、この世にいる、生存する意の尊敬語。いらっしゃる。おいでになる。
        1. [初出の実例]「君まさで煙絶えにし塩釜のうらさびしくも見えわたるかな〈紀貫之〉」(出典:古今和歌集(905‐914)哀傷・八五二)
      3. 「行く」「来る」の意の尊敬語。いらっしゃる。おいでになる。
        1. [初出の実例]「我が背子が国へ麻之(マシ)なばほととぎす鳴かむ五月はさぶしけむかも」(出典:万葉集(8C後)一七・三九九六)
    2. [ 二 ] 補助動詞として用いる。他の動詞の連用形に付いて、動作の継続の意を添える「(て)ある」「(て)いる」を敬っていう。また、単に、その動詞に尊敬の意を付け加える。…ていらっしゃる。…になる。
      1. [初出の実例]「やすみしし 我が大君の 隠り摩須(マス) 天の八十蔭 出で立たす 御空を見れば」(出典:日本書紀(720)推古二〇年正月・歌謡)
      2. 「我が背子が帰り来麻佐(マサ)む時の為命残さむ忘れ給ふな」(出典:万葉集(8C後)一五・三七七四)
  2. [ 2 ] 〘 他動詞 サ行下二段活用 〙 ( [ 一 ]を下二段に活用させて、使役性の他動詞としたもの ) 使役の対象を敬って用いる。いらっしゃるようにさせる。
    1. [初出の実例]「是に悉くに郡の民を発(おこ)して宮を造る。不日(ひもへす)して権(かり)安置(マセ)奉る」(出典:日本書紀(720)顕宗即位前(図書寮本訓))

在すの語誌

( 1 )上代においては、「います」と同様、対等以上の相手に対する尊敬語として広く用いられた。とくに補助動詞としての用法が多い。
( 2 )中古になると、「まします」「いでます」のように固定した形で用いられるほかは、和歌などで神を対象とする場合など、多くは、特殊な場合に用いられ、中世には姿を消したと思われる。


まし‐ま・す【在・坐】

  1. 〘 自動詞 サ行四段活用 〙 ( 動詞「ます(在)」を重ねたもの ) 「ます(在)」よりも敬意が強く、中古では、神仏皇族について用いられることが多い。また、和文体が「おわします」「おわす」を多用するのに対し、これは、漢文訓読体に用いられる傾向がある。
  2. [ 一 ]
    1. 「ある」「いる」の意の尊敬語。存在、状態の主を敬う。いらっしゃる。おいでになる。
      1. [初出の実例]「天皇幼(いときな)うして聰明(と)く叡智(さかしくマシマス)」(出典:日本書紀(720)仁徳即位前(前田本訓))
    2. ものなどがあるの意を、その所有主を敬っていう尊敬語。おありになる。おありである。
      1. [初出の実例]「是時百姓咸に言さく、徳(いきほひ)(マシマス)天皇(すへらみこと)なり、とまうす」(出典:日本書紀(720)雄略四年二月(前田本訓))
  3. [ 二 ] 補助動詞として用いる。
    1. 形容動詞の連用形、または、体言に断定の助動詞「なり」の連用形「に」の付いたもの(さらに、これらに助詞「て」の付くこともある)に付いて、叙述の意を添える「…である」を敬っていう。…でいらっしゃる。
      1. [初出の実例]「宿徳にてましましける大徳のはやう死にけるが室に、松の木の枯れたるを見て」(出典:大和物語(947‐957頃)二五)
      2. 「大海の潮干て山になるまでに君は変らぬ君にましませ」(出典:山家集(12C後)下)
    2. 動詞の連用形(またはそれに助詞「て」の付いたもの)に付いて、「…てある」「…ている」の意を敬っていう。特に、尊敬の意を強める助動詞「す」「さす」と共に「せまします」「させまします」の形で用いることが多い。…ていらっしゃる。…なさる。
      1. [初出の実例]「鳥羽殿には、相国もゆるさず、法皇もおそれさせ在(マシ)ましければ」(出典:高野本平家(13C前)四)

在すの補助注記

上代語の「おほまします」との関係は明らかでない。

出典 精選版 日本国語大辞典精選版 日本国語大辞典について 情報 | 凡例

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