大江山(読み)オオエヤマ

デジタル大辞泉 「大江山」の意味・読み・例文・類語

おおえ‐やま〔おほえ‐〕【大江山】

京都府北西部、丹波丹後両地方の境をなす山。標高833メートル。山中に酒呑童子しゅてんどうじが住んだといわれる洞窟どうくつがある。源頼光の鬼退治の地ともされるが、それは京都市西方の老ノ坂峠付近の大枝山おおえやまであるともいわれる。[歌枕]
「―いくのの道の遠ければまだふみも見ず天の橋立」〈金葉・雑上〉
謡曲。五番目物。作者は世阿弥とも宮増みやますともいわれる。源頼光が大江山の酒呑童子を討つ話を脚色したもの。

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精選版 日本国語大辞典 「大江山」の意味・読み・例文・類語

おおえ‐やまおほえ‥【大江山】

  1. [ 一 ] ( 「大枝山」とも ) 京都市西京区と亀岡市の境にある老坂峠の古名。源頼光が山賊を退治した所と伝えられる。大枝峠。
    1. [初出の実例]「大江山と云所にて、中納言、宮に御文かかせ給」(出典:栄花物語(1028‐92頃)浦々の別)
  2. [ 二 ] 京都府福知山市の北端、加悦町大江町の境にある山。源頼光が酒呑童子(しゅてんどうじ)を退治したと伝えられるが、これは[ 一 ]の頼光山賊退治が誤り伝えられたものという。標高八三三メートル。千丈ケ岳。
    1. [初出の実例]「大江やまいく野の道の遠ければまだふみも見ず天の橋立〈小式部内侍〉」(出典:二度本金葉(1124‐25)雑上)
  3. [ 三 ] 謡曲。五番目物。各流。世阿彌作とも宮増(みまし)作ともいう。古名「酒呑童子」。源頼光の大江山の鬼退治を脚色したもの。

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日本歴史地名大系 「大江山」の解説

大江山
おおえやま

丹後・丹波の境、加佐郡大江町、与謝郡加悦かや町と福知山市の境に位置し、地形上モナドノック(残丘)をなすといわれる。三角点は加悦町と大江町との境にある。丹後山地の中央を占め標高八三二・五メートル、千丈せんじようヶ嶽ともいう。山頂からの展望はよく、能登半島・伯耆大山だいせんまで見えることがある。加悦町・大江町から登山路がある。

大江山一帯は古生代後期に形成されたと考えられる変質古生層地帯で、内宮ないくから仏性寺ぶつしようじにかけては塩基性の火山灰が固まった輝緑凝灰岩や角岩などが母岩であるが、ほとんどが変成してきわめて固い頁岩状の岩になっている。しかしおに茶屋ぢやや以北は緑色がかった橄欖岩がほとんどで、大部分が蛇紋岩に変質し、大江山蛇紋岩地帯といわれる。橄欖岩の隙間に板状に含銅硫化鉄鉱床(黄銅鉱・磁硫鉄鉱など)が存在する。昭和初期から採鉱が続けられたが、昭和四三年(一九六八)閉山した。また加悦谷側ではニッケル鉱を採掘していた。

大江山には二つの鬼退治伝説がある。一つは用明天皇第三皇子麻呂子親王の鬼賊退治伝説で、近世の地誌「田辺府志」の「京極高知訓誨庶臣事」に

<資料は省略されています>

とあり、これはみな神仏の擁護によるとして、七仏薬師を本尊とする七寺、施薬せやく(現与謝郡加悦町)清園せいおん(現大江町)がん(願)ごう(跡地は現竹野郡丹後町)神宮じんぐう(現丹後町)等楽とうらく(現竹野郡弥栄町)成願じようがん(現丹後町に現存するほか、現宮津市にも同様の伝えをもつ寺があった)多禰たね(現舞鶴市)を建立し、その後天照大神の宝殿を営建して勧請し、熊野郡の少女を斎女に奉ったと記す。

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改訂新版 世界大百科事典 「大江山」の意味・わかりやすい解説

大江山 (おおえやま)

(1)能の曲名。五番目物。鬼物。作者不明。宮増(みやます)作ともいう。シテは酒呑童子(しゆてんどうじ)。源頼光(ワキ)は,酒呑童子と呼ばれる鬼を退治するため,家来たちと山伏に変装して丹波の大江山に分け入る。出家には手を出さない酒呑童子は,少年の姿で一行を迎え,昔の経歴を隠さず物語り,山伏の勧める酒に興じて舞い戯れるが,やがて酔って寝所へはいる。頼光たちは武装を整えて寝所へ攻めこむ。好意をあだにした襲撃に怒った酒呑童子は,悪鬼の形相を現して猛威をふるうが,ついに退治される(〈打合イ働キ・ノリ地〉)。童話風なおもしろさのある古風な能である。
執筆者:(2)歌舞伎の脇狂言。猿若座。台本は伝わらないが,能を脚色したものらしい。(3)一中節の曲名。近松門左衛門が自作の《酒呑童子枕言葉(まくらのことのは)》の四段目を脚色,都国太夫半中(のちの宮古路豊後掾(みやこじぶんごのじよう))に与えたというもの。現行曲は初世菅野序遊の改訂曲。3段に分けてあり〈頼光山入の段〉は,頼光と保昌,四天王の一行が大江山のふもとまでの道行。〈頼光衣洗(きぬあらい)の段〉は,一行は迷ったが老いた山樵に道を教えられ,さらに川で血染めの衣を洗っている上﨟(じようろう)に会い,その手引きで城に着くまで。〈頼光童子対面の段〉は,一行が羽黒山の山伏といって童子をあざむくと,童子は身の上をざんげして一行に殺生をいましめる。しかし一行のすすめた毒酒のため本性をあらわし,退治されるまで。このほか宇治派に《大江山具足揃(ぐそくぞろえ)》がある。(4)箏曲では《頼光》という題名になっている。一中節の〈頼光衣洗の段〉を移したもので,4世山木千賀作曲。奥歌もの。(5)長唄の曲名。初世杵屋(きねや)佐吉作曲ともいわれる。一中節の改曲か。現在廃曲。
執筆者:


大江山 (おおえやま)

京都府西部,福知山市と与謝野町の境にある山。丹波と丹後の国境をなした山で,千丈ヶ嶽ともいう。舞鶴湾へ流入する由良川水系と宮津湾奥の阿蘇海へ注ぐ野田川との分水嶺で,丹後山地の最高峰。標高833m。展望のよい美しい山で,蛇紋岩,カンラン岩などからなる。登山,キャンプ,スキー客などでにぎわい,東麓の千丈ヶ原にはニッケル鉱山があった。有名な源頼光の酒呑童子(しゆてんどうじ)退治の伝説の地については,この大江山をあてる説と老ノ坂山地の大江(枝)山をあてる説とがあり,付近にはこの伝説にちなむ場所や呼称が多い。
執筆者:

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「大江山」の意味・わかりやすい解説

大江山(能)
おおえやま

能の曲目。五番目物。五流現行曲。作者は宮増(みやます)とも、不明ともいわれる。勅命による鬼退治の源頼光(よりみつ)(ワキ)一行は、山伏姿の変装で大江山に着く。可憐(かれん)な少年の姿の酒呑童子(しゅてんどうじ)(前シテ)は比叡山(ひえいざん)を追われた昔を語り、酒宴を開いて山伏をもてなす。害意のないむしろ明るい童心の描き方に特長がある。武装を整えた頼光たちが寝室に押し入ると、童子は鬼神の姿(後シテ)になっており、討っ手を恨みつつも襲いかかるが、ついに首を打ち落とされる。間狂言(あいきょうげん)は山伏の伴(とも)の役と、鬼にさらわれてきた都の女の2人が登場し、劇の進行をつかさどる。前シテが2人の少女を伴って出る演出もある。なお、後世の歌舞伎(かぶき)、浄瑠璃(じょうるり)ほかに影響を与えた曲である。

増田正造


大江山(京都府)
おおえやま

京都府北西部、丹波(たんば)と丹後の境をなす山。福知山(ふくちやま)市、与謝野(よさの)町の境にあたる。千丈ヶ嶽ともいう。標高832メートル。源頼光(よりみつ)の酒呑童子(しゅてんどうじ)退治の伝説があり、鬼ヶ茶屋、鬼の岩屋などの地名があるが、この伝説は、京都市に近い大枝(おおえ)山、すなわち老ノ坂(おいのさか)に山賊がたむろして、行人を悩ましたことが誤り伝えられたものといわれ、歌枕(うたまくら)の大江山は老ノ坂峠とも解されている。山頂からの眺望は雄大で、晴れた日には北陸から山陰にかけての山々も見渡される。また山容は高原状を呈しているのでハイキングやキャンプに適し、冬はスキー場となる。山麓(さんろく)から山頂近くの鬼嶽稲荷(いなり)神社までドライブウェーが通じている。

織田武雄


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百科事典マイペディア 「大江山」の意味・わかりやすい解説

大江山【おおえやま】

京都府北部,福知山市・加佐郡・与謝(よざ)郡境にある山。標高832m。丹後天橋立大江山国定公園に属する。二つの鬼退治伝説があり,うち酒呑(しゅてん)童子が有名。また多くの歌に詠まれる。山体の大部分をなす蛇紋岩とカンラン岩がニッケル鉱を含み,第2次大戦中から採掘されたが,現在は閉山。
→関連項目老ノ坂大江[町]金太郎丹後天橋立大江山国定公園

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「大江山」の意味・わかりやすい解説

大江山
おおえやま

京都府北西部,福知山市与謝野町との境,丹波と丹後の境界にある山。千丈ヶ岳(せんじょうがたけ)ともいう。標高 832m。古くから百人一首の歌や鬼退治の伝説で知られ,山中に鬼穴などの地名が残る。有名な酒呑童子の伝説は,京都盆地亀岡盆地の境の老ノ坂峠を発祥の地とする説もある。頂上からの眺望に優れ,スキー,ハイキング,キャンプなどの行楽地としても知られる。丹後天橋立大江山国定公園に属する。

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[日本酒・本格焼酎・泡盛]銘柄コレクション 「大江山」の解説

おおえやま【大江山】

石川の日本酒。酒名は、大江山にいたとされる酒呑童子のように豪快に酒を飲んで欲しいと願い命名。米は和釜の上に甑(こしき)を載せて蒸し、醪(もろみ)を木製の槽(ふね)で搾る昔ながらの製法で造る。大吟醸酒から普通酒までそろえる。原料米は五百万石、山田錦。仕込み水は自家井戸水。蔵元の「松波酒造」は明治元年(1868)創業。所在地は鳳珠郡能登町松波。

おおえやま【大江山】

京都の日本酒。発売元は「八木酒造」。所在地は南丹市八木町八木鹿草。

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歌舞伎・浄瑠璃外題よみかた辞典 「大江山」の解説

大江山
おおえやま

歌舞伎・浄瑠璃の外題。
初演
文久1.7(大坂・竹田芝居)

出典 日外アソシエーツ「歌舞伎・浄瑠璃外題よみかた辞典」歌舞伎・浄瑠璃外題よみかた辞典について 情報

世界大百科事典(旧版)内の大江山の言及

【老ノ坂】より

…老ノ坂山地(西山)はポンポン山(679m)を最高峰とする古生層の山地で,山城・丹波両国の境界をなす。古くは大枝(おおえ)山または大江山とも呼ばれ,源頼光が酒呑童子を退治した伝説が残る。京都市と亀岡市の境の老ノ坂峠(260m)は山陰道の要衝であり,山城の西の重要な出入口で,近世には宿場町ができていた。…

【酒呑童子】より

…大江山伝説に登場する鬼神。酒呑は酒天・酒伝・酒顚などとも書く。…

【丹後山地】より

…花コウ岩類の基盤を新生代第三紀層や第三紀に噴出した安山岩,玄武岩などが覆っており,円山川沿いの名勝玄武洞は最も新しい玄武岩よりなる。主峰大江山(833m)は蛇紋岩とカンラン岩からなり,北東方の千丈ヶ原にはかつてニッケル鉱山があった。丹後半島と接する部分の東側には,宮津湾阿蘇海,栗田(くんだ)湾といった断層性の沈降海岸が見られ,天橋立などの名所があり若狭湾国定公園の一部をなす。…

※「大江山」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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