主として君臣関係などの国家道徳を父子などの家族道徳よりも優先すべき価値とみる考え方。大義は「春秋左氏伝」隠公4年に,名分は「荘子」天下編にそれぞれ典拠をもつ。中国には物事の名と実とを一致させることが政治の要諦であるとの考え方があり,孔子は「正名」すなわち「名を正す」こと,それぞれの地位・立場にある者がその地位にふさわしい責任をはたすことが政治秩序の安定を維持するうえで重要であるとし,朱子学は孟子の有徳(うとく)者君主思想を踏襲して王朝の交替を天子の失徳によって説明した。日本では,政治権力の有無にかかわらず天皇の位は不変であるとの考え方が強く,孔子の「正名」は「名分を正す」こと,すなわち天皇との君臣関係を絶対不変のものとみなし,臣下がその義務と責任をはたしているかどうかが重視され,臣民の天皇に対する忠誠が守るべき道徳として要求された。崎門(きもん)学派や水戸学などによって思想的に形象化され,幕末・維新期から近代の日本で猛威をふるった。
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『春秋』にもとづき,欧陽脩(おうようしゅう)や司馬光が唱え,朱熹(しゅき)が『資治通鑑綱目』(しじつがんこうもく)で強調した。君臣父子の道徳を絶対視し,ことに臣下として守るべき節操と本分を明らかにした。その背景として,宋代は初め北辺の燕雲十六州が遼に占領され,やがて華北全域が金に統治されたため,いかに遼と金に対処すべきかという政策の検討がからんでいたことがある。
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