官田(読み)カンデン

デジタル大辞泉 「官田」の意味・読み・例文・類語

かん‐でん〔クワン‐〕【官田】

律令制下、畿内にあって皇室用の供御くごおよび宮中経費に充てられた田。
位禄などの公用に充てるため、畿内に設定した田地

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精選版 日本国語大辞典 「官田」の意味・読み・例文・類語

かん‐でんクヮン‥【官田】

  1. 〘 名詞 〙
  2. 令制で、天皇への供御(くご)料を生産する田。五畿内諸国にあり、宮内省あるいは国司が経営した。御宅(みやけだ)。〔令義解(718)〕
  3. 元慶三年(八七九)に設置された国有田。五畿内の田四千町を割いてこれとし、その収穫するところの稲を公用に供し、位祿などにあてようとした。
    1. [初出の実例]「以前官田、〈略〉割置五畿内諸国国有数」(出典:類聚三代格‐一五・元慶五年(881)二月八日)

官田の語誌

は、本来「大宝令」では「屯田」といい、屯司によって管理された。「養老令」では「官田」と改称され、宮内省から派遣された田司によって管理された。

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改訂新版 世界大百科事典 「官田」の意味・わかりやすい解説

官田 (かんでん)

古代において官に属する田をいい,2種類ある。(1)養老令制で,畿内4国に設置された天皇供御(くご)の食料田。大化前代の屯田(みた),御宅(みやけ)等の系譜を引くもので,大宝令では屯田というが,三宅田(《延喜式》)とも称された。大和,摂津河内,山背国に設置された,宮内省が管理する総計100町の水田で,宮内省所管諸司の伴部,使部等が田司(大宝令は屯司)として派遣されて経営にあたり,班田農民の雑徭によって耕作された。官田には2町に1頭の割合で牛が配され,耕作に用いられた。この牛は富裕戸によって1頭ずつ飼養された。《延喜式》では和泉国を含めて86町で,宮内省営田と国営田に分かれているが,経営の責任者は国司の長官に移っている。(2)879年(元慶3)に五畿内諸国に設置された計4000町の田地の名称で,官人給与にあてる田地。この官田は正長に請け負わせ,営料を与えて所定の穫稲を収取する直営的経営の方式と,地子(じし)制または賃租制による方式とがある。881年(元慶5)には官田の一部を割いて,諸司要劇(ようげき)料(もとは多忙な劇官に給銭,後に一般化した)と番上粮料等にあてた。
執筆者:

宋代以後における王朝国家所有の土地(農地)を官田という。唐中葉,8世紀半ばの両税法施行以来,民間の私的土地所有権がこれまでになく法的に明確なものとなり,〈税〉と称される土地税の徴収率自体も比較的低い水準に抑制されるようになった。他方,中央集権制の強化にともなう官僚機構の膨張,周辺諸民族の自立化の発展にともなう防衛体制の強化が必要になると,王朝国家は,莫大な財源をまかなうため専売制度を整備するほか,国家の直接所有地を設定し,小作料としての性格をもつ高率の公課を徴収するようになった。この公課は宋代までは〈租〉と呼ばれた。民有地たる民田と截然と区別された官田がここに生まれた。

 宋代の官田は,(1)低湿地・砂地などの国家の手による開墾,(2)国家による民有地の半強制的買上げ,(3)戦乱・逃亡後の荒廃地の収用,(4)犯罪者とされた官僚・土豪の財産没収,などによって形成されたが,元代からは(3),(4)が主流になった。宋代の官田は,民田が州・県などの一般的地方行政機関によって管理されるのに対して,しばしばそれを専管する機関の下に置かれ,国家は契約した小作人(官佃戸)から〈租〉(官租)を徴収した。元,明と下るにつれて,官田の多くは民田とともに地方行政機関の手で管理されるようになり,明代になると官田の〈租〉も〈税〉(官田税糧)と呼ばれていた。官田の小作人は零細な小経営農民だけでなく,地主層も少なくなかった。地主層の中には特権的地位と資力にものをいわせて大量の官田の経営を国家からゆだねられるものもあった。また官田の耕作権は,民田の所有権と同様に売買が可能であったから,地主層による官田の耕作権集積も行われた。地主は,このようにして国家から官田の小作を請け負い,これを又小作(またこさく)に出した。したがって,官田においても,民田の場合と同じく小作制地主佃戸制(じぬしでんこせい))が発達した。官田は全国各地に置かれたが,最も農業生産力が高い長江(揚子江)下流南岸のデルタ地帯では,南宋ころから多くの土地が官田化され,明初には,常州,鎮江,蘇州,松江,湖州,嘉興の六つの府の農地の4割5分強を官田が占めた。明代の官田の〈税〉は民間の小作料よりは低かったが,それでもたとえば蘇州府では毎畝当りの平均額がその4割程度に達し,官倉への輸送費用とあいまってその負担はかなり重く,官田の〈税〉の納入者へのいくつかの優遇措置も,官田と民田のあいだの負担の格差を是正しきれなかった。このため,小経営農民や中小規模の一般地主層を問わず,滞納や逃亡,民田への不正な登録変更などがあいつぎ,明朝は安定した収入をあげることができなくなった。16世紀前半期には,各地で県を単位とした官田と民田の税率一本化が進められ,中葉には官田は基本的には消滅した。

 明・清時代の官田としては,ほかに皇室の直轄地として,明代の皇荘,清代の内務府官荘があり,両代とも各軍営や辺境の要地には屯田がおかれ,府学,州学,県学など地方の国立学校にも学田が付設されていた。清代には満州族の扶養のための旗地が設けられた。しかしこれらには宋~明中葉の一般官田のように国家財政収入を支える国有地としての意味はほとんどなく,学田を除くと利用をみとめられた個人の私有地に近い性質をおびていた。官田の消滅には,明代後半期から上記デルタ地帯を中心に各地で強まった土地に対する公課負担均等化への社会的要請が大きな役割を果たした。ちなみに金花銀(きんかぎん)賦課を嚆矢とする租税の銀納化や一条鞭法(いちじようべんぼう)による金公課の一元化も官田問題の解決を重要な契機として推進された。
公田
執筆者:

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「官田」の意味・わかりやすい解説

官田
かんでん

(1)律令(りつりょう)制下における天皇の供御田(くごでん)。大宝(たいほう)令では屯田(みた)といい、大化前代の大和六県(やまとのむつのあがた)や屯田(屯倉(みやけ))に系譜的につながる。合計100町で、大和、摂津、河内(かわち)、山背(やましろ)の諸国に散在した。宮内省が管理し、同省所管諸司の雑任(ぞうにん)(伴部(ともべ)、使部(つかいべ)など)が1年交代で田使(でんし)として派遣され、その経営にあたった。2町ごとに耕牛1頭をあて、耕営の方式は、国司を通じて徴発した雑徭(ぞうよう)を用い、営種料を除いた全収穫物を収納するという直接経営であった。

(2)879年(元慶3)、支給困難に陥った官人の俸禄(ほうろく)の財源にあてるために、五畿内(ごきない)諸国の良田4000町を割きとって設定したもの。直営方式と土地を貸して代価を得る賃租(ちんそ)経営方式とを併用した。その後、元慶(がんぎょう)官田の大部分は諸司田化し、官衙(かんが)領を形成した。

[村山光一]

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百科事典マイペディア 「官田」の意味・わかりやすい解説

官田【かんでん】

古代における官有の耕地。日本では古くからの皇室料地が律令時代に官田と呼ばれ,畿内に100町歩を設定,宮内省が一般人民の徭役(ようえき)労働で直営した。879年皇族・貴族の収入に当てるため4000町歩を設定,徭役労働および小作によって経営した。これを元慶(がんぎょう)官田という。官田・元慶官田ともに,その後一部は官庁の諸経費のための諸司田に転化しつつ中世に消滅した。
→関連項目公営田皇室領

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山川 日本史小辞典 改訂新版 「官田」の解説

官田
かんでん

宮内省管轄の天皇に供するための食料田。大和・摂津両国に各30町,河内・山城両国に各20町あり,2町ごとに牛1頭がおかれ,中中以上の戸に飼育させた(戸の雑徭(ぞうよう)は免除)。耕作には雑徭をあて,宮内省管轄諸司の伴部(ともべ)・使部(しぶ)から選ばれた田司(たのつかさ)が管理した。768年(神護景雲2)に宮内省直轄の省営田と国司管轄の国営田にわけられたが,以後の変遷は不明。なお大宝令では令前の遺制から屯田(みた)とよばれた。また元慶(がんぎょう)官田を略称して官田とよぶ場合もある。

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「官田」の意味・わかりやすい解説

官田
かんでん

令制による宮内省の直営田。当初天皇の供御田として畿内に 100町あったが,元慶3 (879) 年には,位禄季禄などの公用にあてるため畿内に 4000町を設定した。 (→供御 )

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旺文社日本史事典 三訂版 「官田」の解説

官田
かんでん

①律令制下,天皇の供御田 (くごでん)
②平安前期,畿内に置かれた政府直営田
大化以前の屯田 (みた) の系統。宮内省管轄の直営田で,耕作には農民の雑徭をあてた。大和・摂津・河内・山城に計100町歩あった。
879年位禄・季禄にあてるため,4000町歩を設定した。

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普及版 字通 「官田」の読み・字形・画数・意味

【官田】かんでん

公田。

字通「官」の項目を見る

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世界大百科事典(旧版)内の官田の言及

【御稲田】より

…宮内省大炊寮の所管する供御(くご)田。大宝令では,〈供御造食料田〉を屯田(みた)と名づけて畿内に分置し,宮内省より屯司を差遣して営造に当たらせると定めたが,養老令では,官田・田司と改称し,大和・摂津両国に各30町,河内・山背両国に各20町,計100町の官田を置くと定めた。ついで平安遷都後,《延喜式》の制では,山城20町,大和16町,河内18町,和泉2町,摂津30町,計86町の官田を配置し,それを国営田46町と省営田40町に分けて,天皇の供御および中宮・東宮の年料の稲・粟・糯は宮内省営田の収穫をもって充てることとした。…

【屯田】より

…しかし管理人を派遣する方式は新しいもので,垂仁~仁徳天皇当時のものとすることはできない。この〈倭の屯田〉をはじめ畿内地方にあった〈屯田〉の後身が大宝令制下の屯田(養老令では官田)と考えられる。これは天皇の供御稲をつくる田で,養老令では,大和・摂津各30町,河内・山背各20町の計100町であった。…

※「官田」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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