(読み)ハン

デジタル大辞泉 「帆」の意味・読み・例文・類語

はん【帆】[漢字項目]

常用漢字] [音]ハン(漢) [訓]
ハン
船のほ。「帆影帆船順風満帆
帆かけ船。船。「帰帆孤帆
ほをあげて走る。「帆走出帆
〈ほ〉「帆柱白帆

ほ【帆】

帆柱に高く張り、風を受けて船を進ませる船具。張る方向により横帆おうはん縦帆じゅうはんがある。セール。「風にをはらませる」「順風を上げる」
紋所の名。1図案化したもの。

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精選版 日本国語大辞典 「帆」の意味・読み・例文・類語

ほ【帆】

  1. 〘 名詞 〙
  2. 風力を利用して船を走らせるための船具。帆桁(ほげた)によって横に展張し、帆柱を使って高くはり揚げる。古代より中世末期までは筵帆を用い、近世以降は木綿帆を主用したが、木綿帆には刺(さし)帆と松右衛門帆と呼ばれる織帆の二種があり、近世末期では丈夫な後者が重用された。木綿帆は二尺五寸(約七六センチメートル)から三尺(九一センチメートル)程度の幅で作られ、これを長さに無関係に一反とし、帆の大きさに応じて横につなぎ、その反数で何反帆と呼び、船の大きさをあらわす。幕末期から明治・大正期にかけて使われた西洋型帆船の場合は枚数が多く、横帆と縦帆を組み合わせるのを通例とした。
    1. 帆<b>①</b>(江戸時代大型船)
      (江戸時代大型船)
    2. [初出の実例]「海人小船帆かも張れると見るまでに鞆の浦みに浪立てり見ゆ」(出典:万葉集(8C後)七・一一八二)
  3. 紋所の名。を図案化したもの。霞に帆、丸に帆、五つ帆などがある。
    1. 霞に帆@丸に帆
      霞に帆@丸に帆

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普及版 字通 「帆」の読み・字形・画数・意味


常用漢字 6画

(旧字)
6画

[字音] ハン
[字訓] ほ・ほかけ

[字形] 形声
声符は(凡)(はん)。は風の声符に用いる字で、卜文の風は鳳形の鳥に、声符としてを加えた字であった。はもと舟の形で盤形の器をいい、盤旋(ばんせん)(めぐる)の意がある。風によって風行し、盤旋するものをいう。〔釈名、釈船〕に「は泛(へん)なり。風に隨ひて幔を張るをと曰ふ。舟をして疾(はや)きこと汎汎然たらしむるなり」とあって、帆船をいう。江南が急速に拓かれた六朝期には旅行に水行のことが多く、その消息の文に「布恙(つつが)無し」という挨拶語が用いられた。

[訓義]
1. ほ。
2. ほかけ、ほかけ舟、ほをかけて走る。

[古辞書の訓]
和名抄 保(ほ)。風衣なり。一に云ふ、檣上に掛けて風を取り、むる幔なり 〔名義抄 シブカス 〔立〕 シブク

[語系]
・汎・氾・泛biumは同声。みな水にただようことをいう。biumも同声で、風piumの初文。風の旋り吹くことを般・盤buanといい、ひらひらすることを番biuan、飜(翻)phiuanという。

[熟語]
帆影・帆海・帆竿・帆脚・帆弱・帆・帆衝・帆檣・帆色・帆勢・帆席・帆舶・帆幅・帆腹・帆葉・帆力
[下接語]
一帆・雲帆・遠帆・解帆・危帆・帰帆・客帆・去帆・挙帆・漁帆・挂帆・軽帆・健帆・孤帆・江帆・高帆・秋帆・出帆・征帆・千帆・双帆・張帆・半帆・晩帆・飛帆・布帆・風帆・片帆・暮帆・満帆・夜帆・揚帆・落帆・旅帆

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「帆」の意味・わかりやすい解説


古代、人間は物を運ぶのに自らの筋力に頼らざるをえなかった。やがて動力源としての筋力を変換・拡大させるためにさまざまな道具をつくり、さらに動物の筋力や自然の力(水力や風力など)を利用するようになった。風力を動力源とした帆もその一つである。

[内田 謙]

帆の起源

帆の原形を人は何から生み出したのであろうか。水に浮かんで風に吹かれ流される1枚の木の葉が、その源にあったのかもしれない。

 舟を前進させるために自然の力を利用する方法として帆が用いられた歴史は古く、メソポタミアで発見された紀元前3500年ごろのものとみられる帆船(はんせん)模型の土器がある。また初期のエジプトの絵には両脚のマストにつけられた1本の短い帆桁(ほげた)に1枚の正方形の帆を広げた葦舟(あしぶね)が描かれている。葦舟は当時ナイル川を航行するのに用いられた。前1500年ごろ、エジプトのハトシェプスト女王の時代に交易に用いられた、史上最初と考えられる大型帆船には1本マストに大きな横帆(おうはん)が張られていた。

 その後、天文学の発達や航海術の進歩とともに帆走技術も進展し、帆走による大航海時代を迎えるのである。

 日本における舟の利用は古墳時代以前にまでさかのぼるが、帆に関する確かな記録ははるかに時代を下る。7世紀ころ遣唐使の派遣に伴ってつくられた遣唐史船に2本のマストが立てられ、長方形の帆が張られている絵巻がある。また『万葉集』には、「海人小舟(あまおぶね) 帆かも張られると見るまでに 鞆(とも)の浦廻(うらみ)に波立てり見ゆ」(巻7)と歌われているように帆を用いていたが、布製の帆は後世のことで、当時は苫(とま)帆や筵(むしろ)帆が使われていた。

[内田 謙]

帆の種類

帆は横帆と縦帆に分けられ、船が静止しているときの展帆装置の位置によって決まる。つまり船首と船尾を結ぶ線(船首尾線)に対して直角に交わる方向に置かれた帆桁(ヤード)に張る帆を横帆という。横帆の形態は多くが矩形(くけい)または台形のものが用いられている。船首尾線の方向に張る帆を縦帆といい、多くは三角形の帆が用いられている。

 横帆は追い風による順走に強く、荒天の際にも帆を早く畳むことができ、縦帆よりも安全と考えられていたため、航海用の大型帆船に採用された。縦帆は向かい風に対する逆走性能に優れ、小形であれば操帆作業が容易であるが、大型になると操帆がむずかしく危険でもあったことから、その当初は沿岸用の小形船にもっぱら用いられていた。中世、地中海レバント地方(エジプト、シリア、小アジアなどの沿岸地方)で漁船に用いられていた帆装は縦帆形式であり、これは今日のヨットの帆に継承されている。15世紀になって横帆と縦帆を組み合せることが始まり、効率的な風力の利用が可能となるとともに船の大型化も進み、大航海時代を生み出すのである。

[内田 謙]

帆走の原理

帆走の原理を概説する。横帆は船首尾線に対して直角に張ると前記したが、帆走の際には風向に対して直角に帆を張るのではなく、わずかに帆を斜めに張って帆走したほうが効率がよく、実験では、帆に風を斜めに当てた場合、帆を押す力(加圧力)は減少するが、推進力は逆に大きくなり、その角度が38度のとき最大になるという結果が出ている。つまり風が帆に当たって圧力を加え、帆を押す働きをするが、このとき帆の裏側では一時的な空気の希薄状態が生じて空気圧が下がり、吸引力が生ずる。この吸引力と加圧力があわさって船の推進力となる。これは、ちょうど飛行機の翼における揚力と推力との関係に似ている。翼では膨らんだ翼の上側を流れる空気の流れが速くなって低圧となり揚力が生じる。この揚力が帆では横(前)への推進力となっているのである。

 この原理を最大限に利用して推進力を得ているのが縦帆で、向かい風に対する逆走性能に優れているのもその点にある。しかし、風の方向と船の進む方向との角度は45度程度が限界といわれる。

[内田 謙]


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百科事典マイペディア 「帆」の意味・わかりやすい解説

帆【ほ】

船のマストなどに張り,風をはらませて船を推進,操縦するもの。最初に登場したのは横帆で,四角形の帆を左右両玄にわたって対称に張ったものである。この横帆は,追風だけでなく,斜め後方からの風,少し前寄りから吹く風に対しても使用できるが,鋭い角度での風上への航走はできない。そこで帆の上辺を支える横木を傾け,風上になる縁を短くしたり(ラテン帆),短い方の縁をなくしたり(三角帆)し,短い方の縁をつねに風上側に向ける帆が生まれた。これが縦帆と呼ばれるものである。帆船にはこの横帆と縦帆をどのように帆装するかによってさまざまな種類があり,また帆自体も装備位置により固有の名がつけられている。ちなみに中国のジャンクの帆は縦帆,日本の江戸時代の弁財(べざい)船の帆は横帆である。→帆走ヨット

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「帆」の意味・わかりやすい解説



sail

風力を利用して船を進ませる役をする荒く織った布。ヨットなど小型船では木綿,ナイロン,ビニロンなど,大型船ではまわりをロープで補強した麻布などが使われる。帆とそれを操作するために必要な付属具を装備すること,またはその帆装具 (帆,帆柱,帆桁,静索,動索をはじめとする索類およびその付属品) 一式を帆装と略称する。帆装様式には大別して横帆様式と縦帆様式の2つがある。

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世界大百科事典(旧版)内のの言及

【帆船】より

…帆に風を受けて走る船。6000年をこえる船の歴史を通じて帆船はその中心的存在であったし,19世紀後半の急成長する工業と世界貿易を支えた動脈も近代的な大型商業帆船であった。…

※「帆」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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