出典 平凡社「普及版 字通」普及版 字通について 情報
古代、人間は物を運ぶのに自らの筋力に頼らざるをえなかった。やがて動力源としての筋力を変換・拡大させるためにさまざまな道具をつくり、さらに動物の筋力や自然の力(水力や風力など)を利用するようになった。風力を動力源とした帆もその一つである。
[内田 謙]
帆の原形を人は何から生み出したのであろうか。水に浮かんで風に吹かれ流される1枚の木の葉が、その源にあったのかもしれない。
舟を前進させるために自然の力を利用する方法として帆が用いられた歴史は古く、メソポタミアで発見された紀元前3500年ごろのものとみられる帆船(はんせん)模型の土器がある。また初期のエジプトの絵には両脚のマストにつけられた1本の短い帆桁(ほげた)に1枚の正方形の帆を広げた葦舟(あしぶね)が描かれている。葦舟は当時ナイル川を航行するのに用いられた。前1500年ごろ、エジプトのハトシェプスト女王の時代に交易に用いられた、史上最初と考えられる大型帆船には1本マストに大きな横帆(おうはん)が張られていた。
その後、天文学の発達や航海術の進歩とともに帆走技術も進展し、帆走による大航海時代を迎えるのである。
日本における舟の利用は古墳時代以前にまでさかのぼるが、帆に関する確かな記録ははるかに時代を下る。7世紀ころ遣唐使の派遣に伴ってつくられた遣唐史船に2本のマストが立てられ、長方形の帆が張られている絵巻がある。また『万葉集』には、「海人小舟(あまおぶね) 帆かも張られると見るまでに 鞆(とも)の浦廻(うらみ)に波立てり見ゆ」(巻7)と歌われているように帆を用いていたが、布製の帆は後世のことで、当時は苫(とま)帆や筵(むしろ)帆が使われていた。
[内田 謙]
帆は横帆と縦帆に分けられ、船が静止しているときの展帆装置の位置によって決まる。つまり船首と船尾を結ぶ線(船首尾線)に対して直角に交わる方向に置かれた帆桁(ヤード)に張る帆を横帆という。横帆の形態は多くが矩形(くけい)または台形のものが用いられている。船首尾線の方向に張る帆を縦帆といい、多くは三角形の帆が用いられている。
横帆は追い風による順走に強く、荒天の際にも帆を早く畳むことができ、縦帆よりも安全と考えられていたため、航海用の大型帆船に採用された。縦帆は向かい風に対する逆走性能に優れ、小形であれば操帆作業が容易であるが、大型になると操帆がむずかしく危険でもあったことから、その当初は沿岸用の小形船にもっぱら用いられていた。中世、地中海のレバント地方(エジプト、シリア、小アジアなどの沿岸地方)で漁船に用いられていた帆装は縦帆形式であり、これは今日のヨットの帆に継承されている。15世紀になって横帆と縦帆を組み合せることが始まり、効率的な風力の利用が可能となるとともに船の大型化も進み、大航海時代を生み出すのである。
[内田 謙]
帆走の原理を概説する。横帆は船首尾線に対して直角に張ると前記したが、帆走の際には風向に対して直角に帆を張るのではなく、わずかに帆を斜めに張って帆走したほうが効率がよく、実験では、帆に風を斜めに当てた場合、帆を押す力(加圧力)は減少するが、推進力は逆に大きくなり、その角度が38度のとき最大になるという結果が出ている。つまり風が帆に当たって圧力を加え、帆を押す働きをするが、このとき帆の裏側では一時的な空気の希薄状態が生じて空気圧が下がり、吸引力が生ずる。この吸引力と加圧力があわさって船の推進力となる。これは、ちょうど飛行機の翼における揚力と推力との関係に似ている。翼では膨らんだ翼の上側を流れる空気の流れが速くなって低圧となり揚力が生じる。この揚力が帆では横(前)への推進力となっているのである。
この原理を最大限に利用して推進力を得ているのが縦帆で、向かい風に対する逆走性能に優れているのもその点にある。しかし、風の方向と船の進む方向との角度は45度程度が限界といわれる。
[内田 謙]
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出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
…帆に風を受けて走る船。6000年をこえる船の歴史を通じて帆船はその中心的存在であったし,19世紀後半の急成長する工業と世界貿易を支えた動脈も近代的な大型商業帆船であった。…
※「帆」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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