出典 平凡社「日本歴史地名大系」日本歴史地名大系について 情報
平家の落人(おちゅうど)が隠れ住み着いたとする伝説の地。熊本県の五家荘(ごかのしょう)、宮崎県の椎葉(しいば)・米良(めら)、徳島県の祖谷(いや)、岐阜県の白川、福島県の檜枝岐(ひのえまた)などのほかに、山形県、宮城県などの東北地方の僻村(へきそん)に及び、全国では150か所以上存在している。これらの地の特徴は、他との交通を途絶した秘境であって、一つの治外法権の世界をつくり、物売りたちの入り込むことも少なかった環境である。狩猟や箕(み)作り、木地屋など特殊な機能民が定住した邑落(ゆうらく)か、戦乱を逃れて隠れ住んだ武士の隠田(おんでん)百姓の村が、平家の伝承を口承の流伝のなかから取り入れ、このような伝説の地を生んだと思われる。徳島の祖谷には、安徳(あんとく)天皇が二位の尼と当地で没したとか、平国盛(くにもり)が手兵二百騎で逃れてきたという。熊本の五家荘は、平清経(きよつね)が郎党と隠れたと伝える。小松某の子孫とか、古墳や塔を祀(まつ)る地もある。それらのほとんどは下級宗教家による怨霊鎮撫(おんりょうちんぶ)の平家の語りが、いつしか隠れ里の自己に置き換えられ、さらにその邑落の旧家に武具でも保存されていれば、真実性を加えることになる。周囲にも都への憧憬(しょうけい)や貴種を尊重する心理が働いて、隔絶した地域差と時代差がいつしか平家の末裔(まつえい)を信じるようになったものであろう。
[渡邊昭五]
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