(読み)たもる

精選版 日本国語大辞典 「賜」の意味・読み・例文・類語

たも・る【賜】

〘他ラ四〙 (「たまわる(賜)」の変化した「たもうる(賜)」がさらに変化したもの。命令形は「たも」の形になることもある。→たもたもうる)
[一] 下さる。くれる。
※虎明本狂言・連歌毘沙門(室町末‐近世初)「二人に下さるると仰られたとおしゃったほどに、半分はみどもにもたもれ」
[二] 動詞に「て」のついた形について、補助動詞として用いる。多く、目下に対し丁寧に言う気持を表わし、敬意はあまり高くない。…て下さる。…てくれる。
※虎明本狂言・人馬(室町末‐近世初)「馬にかっこうするほどのましてたもらうず」

たもう・る たまうる【賜】

〘他ラ四〙 (「たまわる(賜)」の変化したもの) 下さる。補助動詞としても用いる。
史記抄(1477)七「酒ての手しるしをはとてもたまうるまいものゆへ」
[補注]「ロドリゲス日本大文典」で「タマワル・タマウル」について「尊敬せられる事の高い人から低い者へ物を与へることを意味する。tamǒru(タマウル)話し言葉に、タマワルは書き言葉に使はれる。例えば、カイテ tamǒre(タマウレ)等は同輩の間に使はれる〈土井忠生訳〉」とあることから、当時、「たまわる」「たもうる」が「いただく」の意ではなく「下さる」の意であること、「たもうる」の敬度は「たまわる」に比べあまり高くないことがわかる。後に「たもる」となる。

たまわ‐・す たまは‥【賜】

〘他サ下二〙 (四段活用動詞「たまう(賜)」の未然形に敬意を強める助動詞「す」のついてできたもの) 「たまう(賜)」の尊敬の度合いを強めて表わす。お与えになる。下賜なさる。補助動詞としても用いる。
※竹取(9C末‐10C初)「かの奉るふしの薬にまた壺ぐして御使にたまはす」
[語誌](1)中古に成立し、「たまふ」および「たぶ」「たうぶ」に対し、最高敬語として用いられた。中世においても使われることもあったが、やがて衰退した。
(2)敬意を強める助動詞「す」は、本来使役を表わすものであり、「たまはす」の動作主が高位の人物であることや、授与という行為の性質などから、「す」に使役性の感じられる用例も少なくない。

たば‐・す【賜】

〘他サ下二〙 (動詞「たぶ(賜)」の未然形に敬意を強める助動詞「す」の付いてできたもの)
[一] おあたえになる。下賜される。たまわす。
※京大本竹取(9C末‐10C初)「此女若し奉る物ならば翁にかうぶりをなどかたばせざらん」
[二] 特に「たばせたまう」の形で補助動詞的に用いる。…して下さる。
※平家(13C前)一一「あの扇の真中射させてたばせ給へ」

たも【賜】

(動詞「たもる(賜)」の命令形「たもれ」の変化したもの)
[一] 下さい。おくれ。
浮世草子・新色五巻書(1698)三「『又は盃こちへたも』といへば」
[二] 動詞に「て」のついた形について、補助動詞として用いる。…て下さい。…ておくれ。
※俳諧・西鶴五百韻(1679)何餠「見世の先へ朝毎には来れとも〈西六〉 お帰りやったらかういふてたも〈西吟〉」

たまわり たまはり【賜】

〘名〙 (動詞「たまわる(賜)」の連用形名詞化) いただくこと。また、いただくもの。「御たまわり」の形で、貴人などの特別の恩顧によって官職などをいただくことをいう。とうばり。
※宇津保(970‐999頃)国譲下「かれこれの御たまはり、しに侍るなれど」
※源氏(1001‐14頃)賢木「つかさめしのころこの宮の人は給はるべきつかさもえず、大方の道理にても、宮の御給はりにても、かならずあるべき加階などをだにせずなどして嘆く類いと多かり」

とうば・る たうばる【賜】

〘他ラ四〙 (「たまわる(賜)」の変化した語) たまわる。いただく。頂戴する。
※書紀(720)天武一二年一二月(北野本訓)「是を以て百寮の者各往りて家地を請(タウハレ)

たま・る【賜】

〘他ラ四〙 =たばる(賜)
※浮世草子・武道伝来記(1687)六「母親に刀給(タマ)れといへるに」

出典 精選版 日本国語大辞典精選版 日本国語大辞典について 情報

デジタル大辞泉 「賜」の意味・読み・例文・類語

たま‐もの【賜/賜物】

恩恵や祝福として与えられたもの。たまわりもの。「水は天からの―」
あることの結果として現れたよいもの、または事柄。成果。「努力の―」
[類語]恩義芳恩恩恵恩沢恵沢恵みお蔭

し【賜】[漢字項目]

常用漢字] [音](呉)(漢) [訓]たまわる たまもの
上位の者が下位の者に物などを与える。たまう。たまわる。たまもの。「賜暇恩賜下賜賞賜天賜
[名のり]たま・ます

出典 小学館デジタル大辞泉について 情報 | 凡例

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