拳法(読み)ケンポウ

デジタル大辞泉 「拳法」の意味・読み・例文・類語

けん‐ぽう〔‐パフ〕【拳法】

こぶしによる突きや打ち、あるいは足による蹴りを主とした格闘術。中国古代から発達し、日本には江戸時代初め陳元贇ちんげんぴんらによって伝えられた。「少林寺拳法

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精選版 日本国語大辞典 「拳法」の意味・読み・例文・類語

けん‐ぽう‥パフ【拳法】

  1. 〘 名詞 〙(こぶし)や足による突き、打ち、蹴りを主とした格闘術。五世紀ごろ、中国の少林寺で禅宗の祖達磨(だるま)大師が僧に授けたものといわれる。日本へは寛永五年(一六二八陳元贇(ちんげんぴん)が伝えた。
    1. [初出の実例]「再び場に出でて、剣法、蹴足、拳法を習はし」(出典:米欧回覧実記(1877)〈久米邦武〉三)

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改訂新版 世界大百科事典 「拳法」の意味・わかりやすい解説

拳法 (けんぽう)

拳をにぎり,または開いて,打ち,突き,あるいは足も用いて行う徒手武術広義には世界各地にある徒手の武術を含めて考えられるが,一般的には,中国で体系化され発展した武術をさす。中国武術の歴史は非常に古く,史実かどうか疑わしい俗説や伝説も多いが,拳法を中国に伝えたのは達磨(だるま)大師であるという説が最も有名である。520年ころ,インドから嵩山(すうざん)少林寺に来た達磨大師はここで面壁(めんぺき)し,仏法を説くかたわら,修行僧に《洗髄経》《易筋経》の2経を与え,心身鍛練の秘法を授けたといわれる。これが少林拳(少林寺拳法)の起源となったとするものである。このように中国では古くから,自衛術として,あるいは心身の鍛練術,健康術として拳法が盛んに行われ,現代にも数多く伝えられている。流派も数多くあるが,中国拳法の分類は,普通,行われてきた地域と技術の性質上の違いによって分けられる。地域的には広東省,福建省あたりを中心とした南派拳術と,黄河流域の河北省,山東省を中心とした北派拳術の2派に分かれる。また拳法を技の性質からみると,内家(ないか)拳と外家(がいか)拳に区別できる。内家拳とはその威力が内に隠れている拳法のことで,柔拳ともいい,太極拳,形意拳,八卦掌(はつけしよう)などがある。力を抜いて体を柔らかくし,動作も呼吸と合わせて緩慢に行う。外家拳は,その威力が外に表れている拳法で,剛拳ともいい,少林拳,洪拳六合(ろくごう)拳などがある。力をこめて激しく勇猛に行う攻撃的な拳法である。これらの関係は,剛から入る拳法もやがて柔の理を会得して完成するのであり,柔の拳法も実戦になれば攻撃の瞬間はきわめて剛になるとする。また拳法の健康法的側面も注目に値する。道教の養生術として有名な不老長生の神仙術や導引とも密接に関連している。呼吸法の研究による気の技法と拳法の動作が結びついて,〈八段錦〉〈十八路羅漢功〉などの技法が数多く考案され,現代まで伝えられている。この中国拳法を日本に伝えたのは,元和~正保年間(17世紀前期)日本に渡来した明(みん)の人陳元贇(ちんげんぴん)であるといわれる。彼は日本の武芸者である福野七郎右衛門磯貝次郎左衛門,三浦与次右衛門に拳法を教え,この門弟たちが,日本の柔術をつくり発展させたとされている。突き,蹴りを中心とした中国拳法の技法が,日本の柔術に大きな影響を与えたのである。また沖縄に独自に発展した空手もその基に拳法があることはいうまでもない。現代徒手による格闘技としての武術は数多く盛んであるが,これらの源に中国古代以来伝えられる拳法が大きな影響を与えているといえる。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「拳法」の意味・わかりやすい解説

拳法
けんぽう

拳(こぶし)を用いて突き、打ち(拳術)、あるいは足で蹴(け)る(蹶(けつ)術)などの格技を主とした体術。中国では、すでに古代から手搏(しゅばく)、白打(はくだ)などとよばれる自然発生的な護身武術が各地で行われたが、960年ごろ、宋(そう)の太祖趙匡胤(ちょうきょういん)によって長拳(ちょうけん)三十二勢法(せいほう)(技を連続して行う拳法の形(かた))が結成され、やがてこれが民間に広がって、各地に門派を生じた。

 さらに14世紀の後半、明(みん)代の初め、武当山(ぶとうさん)の道士張三丰(ちょうさんぽう)が、道教思想に結び付いた拳法を始め、また河南の嵩山(すうざん)少林寺では棍(こん)法と結合した拳法が、武僧の間で盛んに行われるようになった(のちに前者を武当派、後者を少林派という)。明末、倭寇(わこう)の鎮圧に活躍した武将の一人、戚継光(せきけいこう)は拳法の効用を積極的に認め、軍隊強化の基礎訓練にこれを採用した。彼が1584年(万暦12)に著した兵書『紀効新書(きこうしんしょ)』には、全18編のうち1編を「拳経(けんけい)」にあて、各門派の技法から選んだ三十二勢法の図を載せている。これよりやや遅れて、1621年(天啓1)茅元儀(ぼうげんぎ)が大成した『武備志(ぶびし)』には、拳の項はほぼ前書を踏襲し、棍法の部に「少林棍法闡宗(しょうりんこんぽうせんそう)」を図示して収録している。これら明代の兵書が日本に輸入された年月は明らかではないが、江戸時代の初め、わが柔術の流派形成期に、陳元贇(ちんげんぴん)(江戸)、王道元(おうどうげん)(長崎)らによってその技法が紹介され、拳法、手搏、把勢(はせい)(活殺法を含む)などとよばれて、諸派に取り入れられた。

[渡邉一郎]

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「拳法」の意味・わかりやすい解説

拳法
けんぽう

打,突,蹴の 3技を主とする格技。古代インドに始まったものが仏教とともに中国に伝わり,独特の発達を遂げたとされる。特に禅門(→禅宗)では身体を鍛練するための修行法とされ,ソン(嵩)山少林寺では,開祖の達磨大師の遺法として坐禅とともに盛んに行なわれた。この少林拳(少林武術)は門外不出のであったが,相次ぐ戦火と北周の武帝が行なった廃仏政策により修行僧が多数門外へ流出するに伴い,拳法も民間に伝わり多くの流派を生んだ。太極拳や,沖縄で発達した空手もこの流れをくむ。日本には鎌倉時代に帰化僧によってもたらされ,練胆増健の行として一部の修行僧の間で行なわれたとする説もある。のちに柔術など日本武術(→古武術)にも取り入れられた。

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百科事典マイペディア 「拳法」の意味・わかりやすい解説

拳法【けんぽう】

拳(こぶし)あるいは足などでの突き,打ち,蹴(け)りを中心とする徒手による武術。一般に中国で体系化されたものをさす。5世紀中ごろ達磨(だるま)が少林寺で門弟を鍛えたことに始まるとされる。内家拳(太極拳など)と外家拳(小林拳など)に大別される。日本には江戸初期に伝えられ,柔術に大きな影響を与えた。また,少林寺拳法は,宗道臣(1911−80)が少林寺で従来の拳法を学んだ後,日本帰国後の1947年から指導を始めたもの。→空手(からて)
→関連項目護身術太極拳

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普及版 字通 「拳法」の読み・字形・画数・意味

【拳法】けんぽう(ぱふ)

拳を振るう闘技。〔紀効新書、十四、拳経〕法は大戰の技に預かる無きに似たるも、然れども手足を活動し、肢體を慣す。此れを初學入の門と爲すなり。

字通「拳」の項目を見る

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世界大百科事典(旧版)内の拳法の言及

【空手】より

…身に武器を帯びず,徒手空拳,手と足を組織的に鍛練して,あたかも武器のような威力を発揮させ,身を守り敵を倒す沖縄古来の武術。
【発生と歴史】
 空手の起源は史的文献に乏しく定説がないが,形の名称に中国名が多いことからみても,中国拳法の影響を受け,沖縄古来の闘技と消化吸収しあって沖縄独自の武術となり,現在に至ったと考えられる。拳法は中国古来の闘技で,古くは春秋時代にさかのぼり,唐代には少林寺その他の寺院の僧兵などを中心に護身術として発達していた。…

【少林寺拳法】より

…拳法の一つ。現在日本で行われている少林寺拳法は,宗道臣(そうどうしん)(1911‐80)の創始によるものである。…

【太極拳】より

…このような競技化の動きは,新しい太極拳だけではなく各派伝統拳への関心をも呼び起こし,その普及を促している。拳法【中藤 保則】【三井 悦子】。…

※「拳法」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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