(読み)けん

精選版 日本国語大辞典 「拳」の意味・読み・例文・類語

けん【拳】

〘名〙
① 手の五本の指を折り曲げて握り固めたもの。にぎりこぶし。拳固(げんこ)。拳骨(げんこつ)
※明暦刊本句双紙抄(16C頃)「拳来踢報(ケンきたればてきほうず)」 〔晉書‐劉伶伝〕
② こぶしで突いたり足で蹴ったりする武術。空手(からて)の類。拳法。〔紀効新書‐拳経捷要〕
③ 遊技の名。二人が対座して、互いに右手の指を屈伸してすばやく出し、数をよんで、二人の伸ばした指の合計を言い当てたものを勝とする。寛永(一六二四‐四四)頃中国人が長崎に伝え、その後流行して酒宴の席などで行なわれ、負けたものに酒を飲ませたりした。長崎に伝えられたものを長崎拳または本拳といい、土地によって大坂拳、薩摩拳など少しく形を変え、さらに変化したものに三竦(さんすくみ)の虫拳、石拳(じゃんけん)、狐拳(庄屋拳・藤八拳)などがある。
※浄瑠璃・冥途の飛脚(1711頃)中「けんの手じなの手もたゆく、ろませさい、とうらい、さんな」

こぶし【拳】

〘名〙
① 五本の指を折り曲げて握り固めたもの。にぎりこぶし。げんこつ。げんこ。
※小川本願経四分律平安初期点(810頃)「仏言はく、綣(コブシ)、若竹筒を作ること聴す」
古事談(1212‐15頃)四「鷹を居移之後は〈略〉右の拳をにぎりて、足二の間にさし入て」
② 刀の柄を握るときの手。また、その形。転じて、剣の使い方、腕前。
※平家(13C前)八「水の底で倉光を取て押へ、鎧の草摺引上げ、柄もこぶしも透れ透れと三刀さいて頸をとる」
③ 矢を射るとき、弓を握る左手の形。転じて、弓の使い方、腕前。
※虎明本狂言・八幡の前(室町末‐近世初)「四はんまる物さげはりは、大方こぶしのさだまった物じゃ程に」
④ 鷹狩のときに鷹を据(す)える①の形をした手。また、転じて、狩猟の腕前や、狩猟の獲物。また、鷹狩。
※家忠日記‐天正一六年(1588)一二月二二日「殿様関白様より吉良へ御たか参候。殿様の御こふしにて御とらせ候て可給候由にて吉良へ御通候」

こぼし【拳】

〘名〙 「こぶし(拳)」の変化した語。
※梵舜本沙石集(1283)八「嫡子こぼしをもて、つらをはたと打に」

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デジタル大辞泉 「拳」の意味・読み・例文・類語

けん【拳】[漢字項目]

常用漢字] [音]ケン(漢) ゲン(呉) [訓]こぶし
〈ケン〉
握りこぶし。「拳銃空拳鉄拳
素手で行う武術や体操。「拳闘拳法太極拳
丸くかがんで慎むさま。「拳拳服膺けんけんふくよう
〈ゲン〉握りこぶし。「拳固拳骨
[名のり]かたし・つとむ
[難読]両拳じゃんけん

けん【拳】

手を握り固めたもの。こぶし。握りこぶし。
二人以上が、手や指でいろいろの形を作って勝敗を争う遊戯。江戸時代、中国から長崎に伝えられたもの。本拳虫拳狐拳きつねけん藤八拳とうはちけん)・じゃんけんなどがある。「を打つ」

こぶし【拳】

5本の手の指を折り曲げて握りしめたもの。にぎりこぶし。げんこつ。げんこ。「を振り上げる」「をかためる」
[類語]握りこぶし拳骨鉄拳拳固

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改訂新版 世界大百科事典 「拳」の意味・わかりやすい解説

拳 (けん)

両人相対し指,手,腕や体勢で形姿を示し,それによって勝敗を決める遊び。拳の種類によってそれぞれの取り決めがある。拳戯は中国からの渡来遊戯とするのが通説で,中国では拇戦,拇陣,中指之戯などと呼ばれ,酒宴の座興として行われた。日本では拳打あるいは○○拳と呼ばれ,江戸期に長崎から京坂,そして江戸へと伝えられた。現在では,拳といえば〈じゃんけん〉を想起するのが一般的だが,その他にもさまざまな拳がある。しかし,それらを遊事の内容から大別すると,数拳と三すくみ拳の2種類に分けることができる。

おもなものとして本拳(長崎拳,崎陽(きよう)拳ともいう),なんこ拳,四ッ谷拳,商人拳,太平拳などがある。数拳の典型である本拳は,まず両人相対して右手で手勢を示し,左手をあげて指を折り数取りを行う。が2指を出しながら5と呼んだとする。それに対してが3指を出せば,2と3で5となりの勝ちとなる。もしが2指を出し4と呼べば,2と2で4となりの勝ちとなる。もしが3指を出して5と呼べば,両者同数で勝負なし,つまり〈相声〉,俗にいう〈あいこ〉である。両者ともに呼数が合わないときは勝負なし。他の数もこの要領に準じて同様に行う。連続3拳勝ったとき勝者となる。なお,指の代わりに箸(はし)で数を示す方法も地方によって行われており,これを箸拳とも呼んでいる。数拳の呼声(掛声)は中国語音で行うのが常である。これについて《嬉遊笑覧》は〈拇戦(中略)又この憶(イ)(一)耳(ルウ)(二)散(サン)(三)思(スウ)(四)誤(ウ)、(五)柳(リウ)(六)砌(チ)(七)覇(パ)(八)救(キウ)(九)舎(ジ)(十)は数目にて拳にうつ唐音是なり。拳には無ありウヽといふ。今二をリヤンといふは両の音なるべし。二(ルウ)は六(リウ)と紛れやすき故に両に代たるか。又五(ウヽ)をゴといふは,スーリーなどの引く音のウと紛るるによりてなり〉と述べている。このように1から10までと〈無し〉の11種で,これを中国語音で呼ぶ。

おもなものとして狐拳(庄屋拳,藤八拳ともいう),虫拳,虎拳,石拳(じゃんけん)などがあるが,さらに狐拳から変容した柳拳,尾上拳,深川拳,ちょん脱拳,お上げのお手を,おいでなさい,廻り拳,供(とも)せ供せなどがある。また拳をつかわず,狐拳を言葉で行うめくら拳もある。三すくみ拳の典型である狐拳(庄屋拳)は全国に流布して人気を博した拳だが,名称が示すように庄屋,キツネ鉄砲の三すくみによって行われる。本拳のように指で数を示すのではなく,それぞれの姿態を示して行う。まず両人対座して,〈ヨイヨイヨイ〉あるいは〈ヨヨイのヨイ〉などと3拍子の掛声に合わせて調子よく行う。庄屋は両手をひざの上に置き,姿勢を正して旦那の風格を示す。キツネは両手の掌を前に向けて頭にかざし,狐のかっこうをする。鉄砲は左腕を伸ばして左ひじを曲げ,猟師が鉄砲を構えて撃つまねをする。庄屋は鉄砲に勝つがキツネに負け,キツネは庄屋に勝つが鉄砲に負け,鉄砲はキツネに勝つが庄屋に負ける。連続3拳勝った者が勝者となる。狐拳に準じ,三すくみを母親,和藤内(わとうない),トラの3種で行うのが虎拳で《国性爺合戦》を主題としたもの,カエル,ヘビ,ナメクジの3種で行うのが虫拳,石,紙,はさみの三すくみで行うのが石拳,俗にいう〈じゃんけん〉である。

 この他に数拳と虫拳を複合させた交(まぜ)拳や,歌に合わせてこっけいな動作をして,最後のところで拳をするまくら拳,軍人拳,幕の内拳などがあり,近年の野球拳もその一種である。拳戯は当初,姿勢を正しくしてきわめて厳格に打たれたといわれるが,一般に広がるにつれて,立って行ったりこっけいな身ぶり手ぶりが入ったりして形が乱れていった。これらのものを〈軟拳〉といい,形の正しいものを〈正拳〉という。もともと酒席を中心におとなの遊興として行われてきた遊びであるが,庄屋拳,虫拳,石拳などは,後に子どもの世界に継承されて行われるようになった。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「拳」の意味・わかりやすい解説


けん

2人が向かい合って掛け声をかけながら手や指の動作で勝負を争う遊び。元禄(げんろく)時代(1688~1704)の初め中国から長崎に伝えられ全国に広がっていったといわれる。中国から伝えられた拳は拇(ゆび)拳といい、もっぱら指の屈伸と掛け声で11種類の数の変化を表して勝負を争うもので、中国ではおもに酒宴の座興として行われている。この拳はわが国で考案されたいろいろな拳と区別して本拳、長崎に伝えられたことから長崎拳ともいう。わが国においてはその後、十数種の拳が考案されたが、大別して、数を当てて争うものと、三すくみで争うものとがある。数で争うものは、高知県地方で行われている何個(なんこ)拳または箸(はし)拳といわれるものが代表的で、互いに3本の箸または楊枝(ようじ)を持ち、両方で出した本数の合計を当てて争う。三すくみのものは、岡村藤八(とうはち)という薬商人の売薬の掛け声からつくられたとも、藤八という幇間(ほうかん)が考案したともいわれる藤八拳が代表的なもので、庄屋(しょうや)拳または狐(きつね)拳ともいわれる。庄屋が鉄砲に勝ち、鉄砲が狐に勝ち、狐が庄屋に勝つ三すくみで勝負し、普通は3回続けて勝ったほうを勝ちとする。この拳も初めは酒宴の座興として行われていたが、享保(きょうほう)年間(1716~36)のころから拳の流行を背景に相撲(すもう)に倣って「拳相撲」が行われるようになり、初めは本拳、のちにはもっぱらこの藤八拳で勝負をするようになった。現在も拳会などの大会ではこの藤八拳が行われている。拳にはこれらのほか、虫拳、虎(とら)拳、交(まじり)拳、片拳、源平拳、匕王(すくい)拳などがあり、日常広く行われている「じゃんけん」も拳の一種である。

[倉茂貞助]


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百科事典マイペディア 「拳」の意味・わかりやすい解説

拳【けん】

相対した2人が手や指でいろいろの形を示し,掛け声をかけながら勝負する遊戯。今日に伝わっている拳戯といえば〈じゃんけん〉がその代表例。その他には,狐拳,箸拳などが比較的よく知られている。このような拳戯は中国からの渡来遊戯とされており,酒宴の席などの座興として行われた。拳戯にはさまざまなものがあるが,大きくは〈数(すう)拳〉と〈三すくみ拳〉の二つに分けることができる。数拳には,本拳(長崎拳,崎陽(きよう)拳ともいう),なんこ拳,四ッ谷拳,商人拳,太平拳,箸拳などがある。三すくみ拳には,狐拳(庄屋拳,藤八拳ともいう),虫拳,虎拳,石拳(じゃんけん)などがある。
→関連項目だるまさんがころんだ

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山川 日本史小辞典 改訂新版 「拳」の解説


けん

指や手または姿勢を示して勝敗を決める遊び。江戸初期に中国から長崎へ伝えられたとされ,その後上方から江戸へ広まったという。数拳(かずけん)と三すくみ拳にわかれる。数拳は指で数を示し相手との合計数をよんで合致したほうが勝ちで,数の名は中国語でいうのが基本。両者同数の場合は相声(あいこ)で引分けとなる。数人ずつ2組にわかれる源氏拳,箸を指の代用にする箸拳もある。伝わった地方により薩摩拳・大坂拳など独特の変形がある。三すくみ拳は3種類の拳が互いに勝ち負けの関係にある庄屋・狐・鉄砲打の庄屋拳(狐拳・藤八拳(とうはちけん)とも)や,虎・和藤内(わとうない)・母親の虎拳,石拳(じゃんけん)などさまざまな種類がある。数拳・三すくみ拳はともに酒席で用いられた。明治維新以後も軍人拳などが考案され,近年の野球拳もその一種。文政年間に出版された「拳独稽古」に詳しい。

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「拳」の意味・わかりやすい解説


けん

2人が相対して,掌の開握・指の屈伸などで勝負を競う遊戯。両人の提示する数の和を言いあてる数拳と,互いに一方には勝つが一方には負けるという関係がある3つの型で競われる三すくみとの2つの系統に大別される。数拳は元禄 (1688~1704) の頃に中国から長崎に伝えられたといわれる長崎拳 (崎陽拳〈きようけん〉ともいわれ,のちに本拳と呼ばれた) を基にしたもので,薩摩拳,土佐の箸拳,盲人拳,四谷拳,太平拳,何箇拳,商人拳など,いずれも流布の過程で派生したもの。三すくみ拳は,庄屋・鉄砲・狐の3つの型で競われる藤八拳 (狐拳,庄屋拳) を基本とし,蛇・蛙・なめくじの虫拳,虎・和藤内 (わとうない) ・母の虎拳,紙・石・はさみの石拳 (じゃんけん) などが含まれる。

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動植物名よみかた辞典 普及版 「拳」の解説

拳 (コブシ)

学名:Magnolia kobus
植物。モクレン科の落葉高木,園芸植物,薬用植物

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