翻訳|gesture
身ぶり,しぐさなどの日本語に相当する。明治時代の初めから,西洋風の身ぶりをさす外来語としてひろく使われるようになったが,これは西欧の議会制度とともに発達した〈演説〉が明治時代以後に日本に入ってきて,欧米人が演説にまじえる身ぶりをまねたことに始まる。演説の練習を積んだ若い人々をとおして西洋風の身ぶりは都会を中心にひろまった。また並行して,西欧の事物・風俗の流入による生活環境の変化とともに,西洋風の身ぶりは若い人々を中心としてとりいれられていった。それには,小学校の与えた影響は大きい。小学校がいす(椅子)を用いたことで,いすに座ることが全国普通のこととなり,また和服から洋服への切替えも小学校からひろまり,下着までも西洋風になるにつれて歩きかたも変わっていった。大正時代に入ってからは欧米,とくにアメリカの映画がひろく見られるようになり,野球とか他の西洋スポーツの発達などとともに若い人々の間に西洋風の身ぶりをうえつけた。食生活でも,コロッケやカツレツのような〈洋食〉やナイフ,フォークなどが日本人の普通の食事に入ってきて食事のさいの身ぶりも洋風に近づいた。こうして明治時代初期には〈バタくさい〉と感じられて,日本風の身ぶりの中で浮きあがっていたジェスチャーは,少しずつ日本人の普通の身ぶりの中にとけこんだ。ことに第2次大戦後の占領下にアメリカ人の実物の身ぶりを日常生活の中で見るようになり,そのあと1960年代以後の高度成長期に日本人の生活水準が欧米にさらに近づくにいたって,テレビをとおして同時にながされる東京中心のジェスチャーは,日本各地の若い人々の共有するものとなった。
人間の身ぶりは,動物の身ぶりと比較して人間の生活上の必要とむすびついて大きく区分してとらえることもできるし,それぞれの民族文化の流れの中でどのようにちがう身ぶりが発達してきたかを考えることができる。ジェスチャーはそのひとこまである。
→コミュニケーション →身ぶり語
執筆者:鶴見 俊輔
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
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