捨・棄(読み)すてる

精選版 日本国語大辞典 「捨・棄」の意味・読み・例文・類語

す・てる【捨・棄】

〘他タ下一〙 す・つ 〘他タ下二〙
[一]
① 不用のものとして投げだす。また、使わないでほうりだす。うっちゃる。
書紀(720)皇極三年七月(岩崎本平安中期訓)「都鄙(ひな)の人、常世の虫を取りて清座(しきゐ)に置きて歌儛ひて福を求めて珍財棄捨(スツ)
※伊勢物語(10C前)六二「衣ぬぎてとらせけれど、すてて逃げにけり」
② 心をとめないでそのままにする。今まで維持してきた情愛の心を放棄する。
(イ) 気にとめないまま放置する。心にかけないでおく。ほうっておく。
※書紀(720)欽明一六年二月(寛文版訓)「頃(このころ)聞く。汝(いましが)国輟(ステ)て祀らすと。方今に前の過(あやまり)を悛悔(あらた)めて神(かむつ)宮を脩理めて神の霊(みたま)を祭り奉らば国昌盛(さか)えぬへし」
徒然草(1331頃)五九「大事を思ひたたん人は、去りがたく心にかからん事のほいを遂げずして、さながら捨つべき也」
(ロ) 愛情をかけていたものを見はなす。保護しないで見はなす。人などをみすてる。
※書紀(720)神代下(鴨脚本訓)「乃ち、草(かや)を以て児(みこ)を褁(つつ)みて海辺に棄(ステまつり)
※竹取(9C末‐10C初)「我をいかにせよとて捨てはのぼり給ふぞ」
梁塵秘抄(1179頃)二「帰命頂礼大権現、今日より我等をすてずして、生々世々に擁護して」
※大慈恩寺三蔵法師伝院政期点(1080‐1110頃)一「親を損(ステテ)道に入り」
(ハ) 試合や試験にあたって、よい成果が得られないと認めて、それ以上の努力をあきらめる。
俗世間から離れる。この世をのがれる。出家する。世をすてる。
※宇津保(970‐999頃)俊蔭「頭おろしすてて、罷り籠らむとなむ思ひ給ふる」
山家集(12C後)上「すてて往にし憂世に月のすまであれなさらば心の留らざらまし」
④ 国や故郷などを離れる。そこに住むことをあきらめる。
※海辺の光景(1959)〈安岡章太郎〉「さきで故郷を棄てることになりますに」
身命を投げ出す。命を失う。犠牲にする。
万葉(8C後)一一・二五三一「吾が背子が其の名のらじとたまきはる命は棄(すて)つ忘れたまふな」
⑥ とりのぞく。しりぞける。
※金剛般若経讚述仁和元年点(885)「背といは煩悩を担(スツル)ぞ」
源氏(1001‐14頃)若菜下「月頃とぶらひものし給はぬ怨もすててける」
⑦ 職をやめさせる。廃する。また、仕事などをやめる。
※書紀(720)皇極二年一〇月(図書寮本訓)「蘇我の臣入鹿、独、上(かむつ)宮の王等(みこたち)を廃(ステム)と将(す)ることを謀りて古人大兄(おほね)を立てて天皇と為」
※阿部一族(1913)〈森鴎外〉「いっその事武士を棄(ス)てようと決心いたした」
⑧ 人を葬る。
今昔(1120)一七「其の後、夫、幾の程を不経して病を受て死ぬ。然れば、金の山崎の辺に弃てつ」
⑨ 体からはずす。とく。ぬぐ。
※冥報記長治二年点(1105)中「冠帯を釈(ステ)ずして養ふことややひさし」
⑩ (スツル) 室町期の謡曲の曲譜の一つ。
※世阿彌筆本謡曲・江口(1384頃)「一樹の蔭にやスツル宿りけん」
⑪ 乗り物から降りる。特に、タクシーから降りる。
※小さい田舎者(1926)〈山田清三郎〉五「どこかで電車を捨ててから、埃ッぽい、路地のやうな薄暗い街を二三町行くと」
⑫ 鉄道用語。車両を切り離して置いてくる。
[二] 動詞連用形、または動詞に助詞「て」を添えたものに付いて補助動詞的に用いる。…てしまう。…てのける。
平家(13C前)八「是は鼓判官が凶害とおぼゆるぞ。其鼓め打破て捨よ」
[語誌]大きく分けて、(イ)対象物を積極的に投げ出す意と、(ロ)対象物をそのままにしておく意の二つがある。(イ)の意味では他に「うつ(棄)」がある。「うつ」は上代すでに「脱きうつ」などの複合語にしか現われず、中古以降用例が少なくなるところから、古くは(イ)の意を「うつ」が、(ロ)の意を「すつ」が表わし、徐々に「すつ」が「うつ」にとってかわっていったのではないかと考えられる。

す・つ【捨・棄】

〘他タ下二〙 ⇒すてる(捨)

出典 精選版 日本国語大辞典精選版 日本国語大辞典について 情報

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