春駒(祝福芸)(読み)はるごま

日本大百科全書(ニッポニカ) 「春駒(祝福芸)」の意味・わかりやすい解説

春駒(祝福芸)
はるごま

正月に馬の作り物を携えて民家を訪れて回った門付(かどづけ)の祝福芸。江戸時代も中ごろに存在が明らかになるが、宮中の正月祝賀の一つで、白駒を見て邪気を祓(はら)う「白馬節会(あおうまのせちえ)」にちなむものとの説がある。現存するものはごくわずかである。佐渡島に残る民俗芸能ハリゴマには男春駒と女春駒があるが、男春駒は馬頭の作り物を腹部につけ、女春駒は小型の馬頭を手に持つという違いがある。双方とも男性が面をつけてはでな衣装を着て太鼓打ちの歌によって踊り、踊り手、地方(じかた)、付添い(米など祝儀を集める)の3人1組で門付して回った。群馬県利根(とね)郡の一部では青年行事となって残るが、女春駒の型をとる。養蚕地帯で馬をもって蚕の守護神とした伝承によるという。岐阜県の白川郷も養蚕地帯で女春駒が七福神と連れ立って家々を巡る。山梨県甲州市一ノ瀬高橋では小(こ)正月の道祖神祭りにホニホロ式(馬のひながたを人の胴を囲むようにつけて、馬に乗ったような形になること)の春駒を出す。春駒は『門出新春駒』のように江戸歌舞伎(かぶき)の変化(へんげ)舞踊にも取り込まれたが、沖縄では昔の辻遊廓(つじゆうかく)の旧正月に女たちが「ジュリウマ」といって馬頭の切出しを腹部につけ集団で踊る。沖縄でも男芸の「チョンダラー」の「馬舞者(うまめえさあ)」が明治期に芝居に取り込まれ、民俗芸能として残っている。八重山(やえやま)では馬乗(うまぬしゃー)という。また、馬頭の作り物に棒をつけてまたがって遊ぶ玩具(がんぐ)も春駒といった。

[西角井正大]


出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

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