桐一葉
きりひとは
坪内逍遙(しょうよう)の戯曲。7段15場。1894年(明治27)から翌年にかけて『早稲田(わせだ)文学』に読本体(よみほんたい)として発表。のち1917年(大正6)実演用台帳として改作。当時の活歴劇の無味乾燥さに不満を抱いた逍遙が国劇刷新の意図をもって書いた新史劇で、逍遙の最初の戯曲。豊臣(とよとみ)家の衰運明らかな冬の陣直前の大坂城内。徳川家の策謀に老臣片桐且元(かたぎりかつもと)は事態の打開に腐心する。しかし年若い秀頼(ひでより)と、気位高くヒステリー性の母公淀君(よどぎみ)、これを取り巻く大野道軒ら老臣老女たちの疑心暗鬼、また石川伊豆守(いずのかみ)の軽挙などにより内紛と混乱が生じ、且元は誠忠の木村長門守(ながとのかみ)に後事を託して居城茨木(いばらき)へ退く。雄大な構想のもと歌舞伎(かぶき)の長所を生かした境遇悲劇で、人物の性格にシェークスピアの影響をみる。初演は1904年(明治37)3月の東京座。中村芝翫(しかん)(5世歌右衛門(うたえもん))の淀君、片岡我当(11世仁左衛門(にざえもん))の且元により好評を博し、9世団十郎、5世菊五郎ら名優没後の沈滞した歌舞伎界に新機運をもたらし、新歌舞伎への道を開いたその史的意義は大きい。続編に夏の陣と豊臣家の滅亡を扱った『沓手鳥孤城落月(ほととぎすこじょうのらくげつ)』がある。
[菊池 明]
『逍遙協会編『逍遙選集1』複刻版(1977・第一書房)』
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桐一葉
きりひとは
戯曲,歌舞伎作品。坪内逍遙作。初め7段 15場の読本 (よみほん) 体として『早稲田文学』に連載 (1894.10.~95.9.) 。 1904年3月東京座で,中村芝翫 (のちの5世歌右衛門) ,片岡我当 (のちの 11世仁左衛門) ,市川高麗蔵 (のちの7世松本幸四郎) らが初演。実演用台本 (6幕 16場) は 17年6月に刊行された。関ヶ原の戦いののち,徳川家からの難題を切抜けようと苦慮する片桐且元と,猜疑心が強くヒステリー性の淀君を中心に,崩壊していく豊臣家の運命を描いた境遇悲劇。当時の考証に偏した活歴にあきたらず,歌舞伎とシェークスピア劇の融合を試みた野心作であり,個性的な人間を描き出したことで,のちの新歌舞伎に道を開いた。
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きり‐ひとは【桐一葉】
[1] 〘名〙
初秋に
桐の一葉が散るのを見て、秋の
到来を知ること。転じて、
衰亡のきざしを表わすたとえに用いる。桐の一葉。《季・秋》
※俳諧・百歌仙(1756頃)「我宿の淋しさおもへ桐一葉」
[2] 戯曲。坪内逍遙作。明治二七~二八年(
一八九四‐九五)発表。同三七年初演。
豊臣氏の没落を
主題にした史劇。
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きりひとは【桐一葉】[戯曲]
坪内逍遥の戯曲。7幕。明治29年(1896)刊、37年初演。豊臣家の没落を描く史劇。
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桐一葉
きりひとは
明治中期,坪内逍遙の戯曲
1894〜95年,『早稲田文学』に連載。片桐且元と淀君との対立の悲劇を描いた新歌舞伎の代表作。
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桐一葉
きりひとは
歌舞伎・浄瑠璃の外題。- 作者
- 坪内逍遥
- 初演
- 明治37.3(東京・東京座)
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きりひとは【桐一葉】
戯曲。坪内逍遥作。読本体と実演用の2種類がある。はじめ作者は大坂夏の陣後の豊臣氏の末路を,淀君,片桐且元,木村長門守,石川伊豆守,大野修理,道軒ら大坂方の人物の交錯する思惑を介して描くという構想を立てた。この梗概を,作者のもとに出入りしていた早大(当時,東京専門学校)英語科の卒業生で,劇作を熱望していた沙石長谷川喜一郎に話し,6場ほどにまとめさせたが意に満たず,結局自身で執筆した。序幕の発表は1894年11月の《早稲田文学》で,〈沙石子稿,春のや補〉となっていたが,95年3月の〈三幕目下,片桐邸の場〉から春のや主人すなわち逍遥の単独名となった。
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世界大百科事典内の桐一葉の言及
【歌舞伎】より
… そのころ,シェークスピア劇の影響を受け,一方団十郎の〈活歴〉に飽き足らなかった坪内逍遥が中心になり,団十郎の方法とは別の新史劇を創造し,これを新時代の国民演劇にしようという運動を起こした。逍遥が1896年に発表した《桐一葉》は,いわゆる〈新歌舞伎〉の幕あけであった。これ以後,歌舞伎界の外部にいる文学者たちが,歌舞伎の脚本をさかんに執筆するようになる。…
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