(読み)オケ

デジタル大辞泉 「桶」の意味・読み・例文・類語

お‐け〔を‐〕【×桶/×笥】

2が原義》
(桶)細長い板を縦に円形に並べて底をつけ、たがで締めた筒形の容器。「手―」「洗い―」
(麻笥)紡いだ麻糸を入れる容器。ひのきの薄板を曲げて作る。
娘子をとめらが―に垂れたる続麻うみをなす長門の浦に」〈・三二四三〉
[類語]たらいバケツ水桶溜め桶手桶洗い桶湯桶風呂桶水槽

とう【桶】[漢字項目]

人名用漢字] [音]トウ(漢) [訓]おけ
〈トウ〉おけ。「鉄桶湯桶ゆとう
〈おけ〉「棺桶手桶
[難読]担桶たご面桶めんつう

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精選版 日本国語大辞典 「桶」の意味・読み・例文・類語

お‐けを‥【桶・麻笥】

  1. 〘 名詞 〙
  2. ( 麻笥 ) 細く裂いて長くつないだ麻を入れておく円筒形のうつわ。檜(ひのき)の薄板を曲げてつくる。おごけ。
    1. 麻笥<b>①</b>〈絵本花葛蘿〉
      麻笥〈絵本花葛蘿〉
    2. [初出の実例]「麻苧(あさを)らを遠家(ヲケ)にふすさに績(う)まずとも明日(あす)来せさめやいざせ小麻に」(出典:万葉集(8C後)一四・三四八四)
  3. ( から転じて ) 杉または椹(さわら)の細長い板を縦に並べ合わせて輪にして底をつけ箍(たが)でしめた円いうつわ。柄(え)のあるものもあり、つるをつけてさげるものもある。古くは板をまげて作った。火桶、水桶などがある。
    1. [初出の実例]「笥(ヲケ)に入れて山の石の中に蔵め置き〈真福寺本訓釈 笥 乎介〉」(出典:日本霊異記(810‐824)下)
    2. 「五かうにてんもひらくれば、かまとおうこと、をけとひしゃくをまいらする」(出典:説経節・さんせう太夫(与七郎正本)(1640頃)上)
  4. 能楽の舞台で役者が腰をかける床几(しょうぎ)。鬘桶(かつらおけ)
    1. [初出の実例]「おけにこしをかけるまへより小袖のかたをよくとち候」(出典:禅鳳雑談(1513頃)中)

桶の語誌

( 1 )正倉院文書によると、「笥」に「笥坏・盤代笥・田笥・大笥・小笥」等があり、食膳で米や副食物調味料等を盛る曲物(薄板をまげて作った容器)を総称している。
( 2 )板を並べて箍(たが)でしめたものは、中国では一二世紀頃から製造が確認でき、日本では鎌倉後期の絵巻物に描かれている。醸造業発達や商品流通の拡大に伴い、室町期に広く普及する。

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改訂新版 世界大百科事典 「桶」の意味・わかりやすい解説

桶 (おけ)

木製円筒の容器。曲物(まげもの)桶と結(ゆい)桶とがある。どちらもスギ,ヒノキ,サワラなどが使われるが,曲物は片木(へぎ)に割裂したものを円筒形に巻き,合せ目をサクラやカバの皮の紐で縫い合わせ,底をつけたものである。一方結桶は鉈で割って作った短冊形の側板を円筒形に並べて竹などの箍(たが)でしめ,底を入れたものである。なおこの場合側板の木取り法には板目取りと柾目取りとがあり,板目取りは丈夫で水も浸透しないため漬物桶や水桶などに用い,柾目取りは目が揃ってきれいなので飯櫃やすし桶,手桶などに用いる。歴史的には曲物桶の方が古く,すでに奈良時代の平城京趾から数多く出土している。〈おけ〉は麻笥(おけ),すなわち麻苧(あさお)を績(う)んで入れる容器から出た言葉といわれる(本居宣長《答問録》)。中世まではこの曲物桶が水,油などの液体,穀類や野菜,飯や饅頭などの食物から衣類まで生活用のもの入れとしてもっとも広く使われていた。これに対し結桶は鎌倉時代末ごろに出現し,室町時代に入って急速に普及したものである。桶ととがよく似たものとなったのもこのころからである。それまでの樽はおもに壺形で,結桶の発達により,結桶に注口のある蓋を固定した樽が作られるようになった。曲物桶に比較すると結桶,結樽は,強度,密閉性,耐久性などの点で格段にすぐれている。また20石,30石入りなどという大きなものまで製作が可能である。このため結桶,結樽が作られるようになると,桶・樽の用途は飛躍的に拡大した。なかでも桶樽を必要としたのは醸造業と運輸業である。たとえば酒造の場合に使う桶を工程順に並べると,はす桶-踏み桶-清(すまし)桶-飯溜-半切(はんぎり)桶-酛卸(もとおろし)桶-暖気(だき)樽-仕込桶-試桶-荷桶-小出桶-狐口桶-酒槽-清桶-滓引桶-夏囲桶となり,酒槽以外はすべて桶である。まさに酒造りは桶に始まり桶に終わるといってよい。その上でき上がった酒も樽に詰めて各地に送る。結桶,結樽の出現により,それまで小規模な地方産業であった酒造業が,江戸初期ころから灘や伊丹を中心に全国に販路を持つ一大産業として勃興することになる。これは酒造だけではなく他の産業についてもいえることで,その意味では逆に室町時代ごろからしだいに生産力が上昇し,商品流通も活発化しはじめ,結桶,結樽の発展をうながしたともいえるだろう。江戸時代から明治・大正にかけての桶・樽の主な用途は次のようである。(1)生活用具 井戸側および釣瓶(つるべ),入浴用の風呂桶や小桶,盥(たらい),炊事用の洗桶,手桶,水桶,飯櫃,浅い円形の半切桶,半台,漬物桶,量器,死体を入れる早桶(棺桶)。(2)貯蔵・運搬容器 食品,酒類,調味料,油,塩蔵海産物,工芸材料(漆,柿渋,砥粉)を入れる各種桶,農業用のにない桶(水,肥(こえ))・柄杓・肥溜桶,牛馬の飼料を入れる飼葉(かいば)桶,漁業用の海女桶・浮樽・盥舟,商業行商用の天秤棒を併用した荷桶・岡持など。(3)醸造用 酒類,しょうゆ,酢,みそ用の大桶。このほかにも業種に応じて専用の桶・樽類が各種使われている。しかし昭和に入ると,しだいにホウロウ(琺瑯)やアルマイトの容器に代わりはじめ,さらに第2次大戦後は合成樹脂の進出によって木製の桶は急速に減少した。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「桶」の意味・わかりやすい解説


おけ

木製で円筒形の容器の総称。コガともいう。桶は績麻(うみお)(紡いだ麻糸)を入れる麻笥(おけ)の意で、古くは、ヒノキの薄板を曲げてサクラ、カバの皮でとじ、底板をつけた棬桶(わげおけ)であった。今日みるような細長い板を円筒形に並べて、箍(たが)で締め、底板をつけた構造になったのは、室町時代になってからである。桶は桶側(おけがわ)、箍、底板(そこいた)の3部からなり、一般に蓋(ふた)は用いないが、特殊の用途のものには蓋があり、この蓋板の固着したものをとくに樽(たる)とよんで区別している。桶の材料には、桶側および底板ともに、主としてスギ、ヒノキ、サワラなどが用いられ、酒、しょうゆ、みそなどの液体や塩分の浸透を防ぐ目的のものには板目(いため)を、その必要のないものには木目(もくめ)の美しい柾目(まさめ)の板を使った。桶側は特殊な丸鉋(まるがんな)を用いて削り、タケの合釘(あいくぎ)でつなぎあわせて、箍をかけた。箍は古くからタケが用いられたが、明治以後、金属製のものが用いられるようになり、ことに銅製はアカタガとよばれて愛好された。

 桶には、その形状、用途によって多くの種類、さまざまな名称があるが、たとえば、典型的な円筒形の桶には、入浴用の小桶、炊事用の米とぎ桶、洗い桶、漬物桶から棺桶、醸造用の大桶まで大小ある。ご飯を入れる飯櫃(めしびつ)は蓋付きであるが、これも一種の桶である。浅い円形の桶には半切(はんぎり)桶があり、洗濯用の盥(たらい)も一種の桶である。楕円(だえん)形の桶には、浅い小判なりのとめ桶や半台(はんだい)(板台)、深い風呂(ふろ)桶などがある。桶の1か所に取っ手をつけたものを片手桶、2か所の取っ手に横木を渡したものを手桶という。手桶より広く浅く食物の持ち運びに用いられる岡持(おかも)ちも桶の一種である。横木のかわりに縄やタケなどのつるをかけたものに飼葉(かいば)桶や担い桶がある。釣瓶(つるべ)(釣桶(つりおけ))は小形の手桶の取っ手の横木が回転式で、これに竹竿(ざお)あるいは縄がつけられたものである。桶は酒、酢、しょうゆ、油など液体商品を入れて、密封し、貯蔵し、輸送する必要から桶結(おけゆい)技術の発達を大いに促した。しかし現在では、金属製の容器やタンクなどの使用により、桶類の使用はほとんどみられなくなりつつある。

[宮本瑞夫]

『宮本馨太郎著『めし・みそ・はし・わん』(1973・岩崎美術社)』


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普及版 字通 「桶」の読み・字形・画数・意味


人名用漢字 11画

[字音] トウ・ヨウ・ツウ
[字訓] おけ・つつ

[説文解字]

[字形] 形声
声符は甬(よう)。甬に(通)・痛(つう)の声がある。通筒の形のものをいう。〔説文〕六上に「木の方にして六升を受くるもの」とする。方斛(ほうこく)というものであろう。〔広雅、釈器〕に「方斛、之れを桶と謂ふ」とする。〔正字通〕には「今、圜(ゑんき)を桶と曰ふ」とみえる。

[訓義]
1. おけ、量器、六斗を入れる方器。
2. つつ型のおけ、まるおけ。
3. 水くみおけ。

[古辞書の訓]
和名抄〕桶 水を井にむのなり。乎計(をけ)〔名義抄〕桶 ヲケ

[語系]
桶・同・筒・dongは同声。同は酒器。みな筒の形をした器。(とう)は断竹、竹筒をいう。

[下接語]
桶・漆桶・小桶・石桶・斗桶

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「桶」の意味・わかりやすい解説


おけ

木製円筒状の容器。麻笥が原義で,もとは紡いだ麻糸を入れる器をさしたが,その後家庭の各種の作業のための用具として用いられるようになった。台所の炊事作業用の米とぎ桶,洗い桶,手桶,暖をとるための火桶,入浴のための風呂桶,あるいは水などを運搬するためのにない桶などがある。古くはヒノキその他の薄板を曲げて,サクラなどの木皮で綴じて円筒部をつくり,これに底をつけた曲げ物であったが,後世には細長い木片を円筒状に並べて,たがをはめて締めつけ,これに底をつけた構造になった。明治中頃以後は,鉄板製のバケツが使われるようになり,最近はプラスチック製容器が普及したので,木製の桶はあまり使われなくなった。

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百科事典マイペディア 「桶」の意味・わかりやすい解説

桶【おけ】

木製の円形容器。細長い板を縦に並べ,竹や金属の箍(たが)で締め,底をつけた結桶(ゆいおけ)と,木材を薄く割裂したものを円筒形に巻き,合わせ目をサクラやカバの皮の紐で縫い合わせた曲物(まげもの)桶がある。用材にはいずれの場合もスギ,ヒノキ,サワラなどが用いられる。また,形態上は底の浅い半切桶,取手のある片手桶,2本の取手に横木を渡した手桶,手桶より浅く蓋(ふた)つきの岡持(おかもち)などに分けられる。

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食器・調理器具がわかる辞典 「桶」の解説

おけ【桶】

木製で円筒形の容器。杉・檜(ひのき)などの板を縦に並べて底をつけ、箍(たが)でしめたもの。こんにちでは、同様のプラスチック製などの容器もいう。◇古く、麻の皮を裂いて作った糸(麻(お))を入れるうつわ(笥(け))をいった「麻笥」から転じたもの。

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事典 日本の地域ブランド・名産品 「桶」の解説

桶[木工]
おけ

関東地方、千葉県の地域ブランド。
野田市で製作されている。たがに洋銀を用いるのは、野田の桶独自の工夫。現在では、伝統的な技術を生かした工芸的な桶の製作に力が注がれている。千葉県伝統的工芸品。

出典 日外アソシエーツ「事典 日本の地域ブランド・名産品」事典 日本の地域ブランド・名産品について 情報

世界大百科事典(旧版)内のの言及

【桶屋】より

…桶や樽をつくる職人。桶結師(おけゆいし)とか桶大工ともいわれた。…

※「桶」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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