原子核分裂によって生ずる放射性の核分裂生成物(核分裂片とその壊変生成物)の俗称。1954年3月、アメリカ政府が中部太平洋上のビキニ環礁で水爆実験を行った際、大気中に放出された放射性核分裂生成物などが爆発で粉々になったサンゴ礁の微小粒子に付着し、爆発地点周辺の海域に降り注いだ。爆発地点から百数十キロメートル離れたロンゲラップ環礁や近くで操業していた日本のマグロ延縄(はえなわ)漁船第五福竜丸の甲板などに強放射性の白い灰状粒子が降下・沈着し、その付近の島民と漁民に急性放射線障害を引き起こした。こうした経緯から当初、核爆発によって大気中に放出された後に地表などに降下・沈着した放射性降下物(フォールアウトfallout)を死の灰とよんだ。しかし、現在では原子力発電など原子炉の運転に伴って生ずる放射性核分裂生成物も死の灰とよんでいる。
放射性降下物は通常、3種類に分類される。一つ目は局地的フォールアウト(または初期フォールアウト)で、核爆発地点の周囲数百キロメートルの範囲に1日以内に降下するものをいう。ロンゲラップ環礁や第五福竜丸に降り注いだ死の灰や、広島・長崎で観測された放射性核分裂生成物などを含む黒い雨などがその実例である。二つ目は対流圏フォールアウトで、対流圏とよばれる地上14~15キロメートルまでの高さに運ばれたより小さな放射性微小粒子が、気流や風によって爆発地点から数百~数千キロメートルの範囲に数日~数十日にわたって降下するものをいう。三つ目は成層圏フォールアウトで、核爆発直後の上昇気流によってさらに高い成層圏にまで運ばれた非常に小さな放射性微小粒子が、地球的規模で北半球(または南半球)をぐるぐる回り、長期間にわたってすこしずつ降下するものをいう。成層圏フォールアウトは全地球的フォールアウト(グローバル・フォールアウト)とよばれることもある。フォールアウトによる人体の放射線影響を考える場合、局地的フォールアウトではおもに短半減期、対流圏フォールアウトではおもに中半減期、成層圏フォールアウトではおもに長半減期の放射性核分裂生成物などが被曝(ひばく)源として重要な放射性核種となる。短半減期のフォールアウトではストロンチウム91(半減期9.63時間)、ジルコニウム97(同16.9時間)、ヨウ素133(同20.8時間)など、中半減期のフォールアウトではヨウ素131(同8.02日)、バリウム140(同12.75日)、ストロンチウム89(同50.5日)など、長半減期のフォールアウトではストロンチウム90(同28.8年)、セシウム137(同30.2年)などが重要である。
原子放射線の影響に関する国連科学委員会(UNSCEAR(アンスケア))の2008年報告書(UNSCEAR 2008 Report)によれば、大気圏内核実験のフォールアウトによる世界全体の年平均被曝線量は、1963年の0.11ミリシーベルトをピークに減り続け、現在は0.005ミリシーベルトと評価されている。公益財団法人原子力安全研究協会により刊行された『新版 生活環境放射線(国民線量の算定)』(2011年12月発行)によれば、核実験フォールアウトによる日本人の年平均被曝線量は、世界平均の半分に相当する0.0025ミリシーベルトと評価されている。
[野口邦和 2015年8月19日]
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…核分裂生成物のほとんどすべてが放射能をもち,平均3回の放射性崩壊により安定な原子核となる。原水爆実験による放射性降下物,いわゆる死の灰の主体はこの放射性の核分裂生成物である。核分裂エネルギー1Mtあたり半減期27.7年のストロンチウム90 90Srが10万キュリー(1キュリー=3.7×1010ベクレル),30.0年のセシウム137 137Csが16万キュリー,8.05日のヨウ素131 131Iは1億キュリーが生じ,爆発が大気中で行われればその全量が環境中に放出される。…
…これらの放射線が生体に吸収されると放射線障害を起こす(図6)。残留放射線は,火の玉の急速な上昇によって形成される放射能雲から地表に降下する放射性降下物(フォールアウトfallout),いわゆる死の灰によって放射される。放射性降下物を形成するものは,核分裂生成物,未反応の核分裂物質および核爆発で生じた中性子によって誘起された誘導放射能を含む物質で,未反応の核分裂物質からのα線を除けばβ線とγ線が残留放射線となる。…
…原水爆実験によって生成され,大気中から降下する微細な放射性物質。死の灰,フォールアウトなどとも呼ばれる。内容としては核分裂生成物が主体で,ほかに爆弾構造物その他の放射化生成物およびプルトニウム239 239Puの爆発残渣などである。…
※「死の灰」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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