染色体以外の主として細胞質内の因子が雌性配偶子(卵など)を通じて子孫に伝わる現象。これには2種類あって、その一つは、母親の遺伝子により卵子の細胞質中に蓄えられた因子が受精卵に伝えられる母性効果maternal effectで、その効果は受精卵の発生初期のみに限られ、発生が進むと胚(はい)自身の遺伝子によって種々の形質が支配される。カイコでは、越年卵という黒色の系統が普通であるが、褐色をした第一褐卵brownという系統がある。褐色卵の雌と正常の黒色卵の雄とを交配すると、雑種第一代は褐色卵となり、この逆交配では、雑種第一代は正常の黒色卵となる。雑種第二代はどちらの交配でも全部正常の黒色卵となる。この交配では正常黒色卵は褐色卵に対して顕性であり、雑種第一代では、遺伝子型は両方の遺伝子がヘテロであるにもかかわらず、表現型は雌親の遺伝子型と同じになる。つまり、雑種第一代では母親の遺伝子が細胞質を通じて雑種第一代に伝わり、その形質に現れる。もう一つは、細胞質内のミトコンドリアやプラスミドに存在する遺伝子が雌性配偶子を通じて子に伝えられる細胞質遺伝cytoplasmic inheritanceである。この例としては、トウモロコシやダイズの斑(ふ)入りなどがある。またトウモロコシやタマネギの雄性殖不能という性質も母植物の胚乳の細胞質を通じて子孫に伝えられ、核の染色体遺伝子によっては支配されない。細胞質の中のミトコンドリアにも遺伝子DNAが存在し、細胞のエネルギー生産に関与する。ヒトのミトコンドリアには、環状のDNAがあり、1981年にこのミトコンドリアDNAの1万6569個の全塩基の配列が決定された。ミトコンドリアは、ほとんどが母親から卵の細胞質を通じて子孫に伝えられるので、ミトコンドリアDNAの塩基配列の変化を調べて、人類の起源、進化の過程をたどる研究も行われている。
[黒田行昭]
『高橋信孝編『植物生活環の調節』(1990・東京大学出版会)』▽『黒岩常祥著『ミトコンドリアはどこからきたか――生命40億年を遡る』(2000・日本放送出版協会)』▽『林純一著『ミトコンドリア・ミステリー――驚くべき細胞小器官の働き』(2002・講談社)』
父(雄)親の遺伝子が関与せず,母(雌)親の遺伝子だけで子どもの表現型が決定される遺伝様式をさし,細胞質遺伝と遅発遺伝delayed inheritanceに分かれる。
遅発遺伝は母親の遺伝子型が直接子どもの表現型を決定するもので,したがって雑種第2代では表現型の分離が起こらず,第3代にもちこされるためにこう呼ばれる。モノアラガイの貝の巻き方は遅発遺伝の好例である。この貝には右巻きと左巻きがあり,右巻きはD遺伝子に,左巻きはd遺伝子に支配されている。子貝の巻き方は受精卵の最初の体細胞分裂の赤道板の傾きで決まる。この傾きの方向が母貝の遺伝子型で決定されるため,貝の巻き方が遅発遺伝を示すことになる。遅発遺伝をするものとしては,ほかに,カイコの卵色などが知られている。
細胞質遺伝をする形質の発現は,遅発遺伝の場合と違って,その個体の細胞質遺伝子によって決定される。しかし,この遺伝子は原則的に母親からだけ伝達されるので,見かけ上は母親の遺伝子が子どもの形質を決定することと変わらない。
→遺伝
執筆者:常脇 恒一郎
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
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