(読み)むろ

精選版 日本国語大辞典 「室」の意味・読み・例文・類語

むろ【室】

[1] 〘名〙
① 土を掘り下げて柱を立て屋根をかぶせる方式の古代の家。転じて、古代の家。室屋。
古事記(712)中「其の家の辺に軍三重に囲み、室(むろ)を作りて居りき」
② 古代、家の奥にあって、土を盛ったり塗り込めたりして寝所などに用いた所。
書紀(720)神代下(鴨脚本訓)「故、鹿葦津姫、忿り恨みまつりて、乃ち無戸室(うつムロ)を作りて、其の内に入り居りて」
③ 山腹などに掘ってつくった岩屋。
※書紀(720)綏靖即位前(北野本訓)「手研耳(たきしみみ)の命、片丘(かたをか)の大(をほムロ)の中(うち)に有(ま)して、独(ひとり)大牀(おほみとこ)に臥(ま)しませるに会(あ)いぬ」
④ 住みこもる家。特に、僧の住まいをいう。僧房。庵室。
※書紀(720)白雉四年五月(北野本訓)「天皇、旻法師の房(ムロ)に幸して、其の疾を問ひたまふ」
⑤ 物を入れて、外気を防いだり暖めたりして、育成または保存するために特別の構造を施した所。麹室(こうじむろ)氷室(ひむろ)などがある。むろや。
※書紀(720)仁徳六二年是歳(前田本訓)「時に皇子、山の上より望せて、野の中を瞻たまふに、物有り。其の形廬(いほ)の如し。乃ち使者を遣(つかは)して視令む。還り来(まうき)て曰(まう)さく、窟(ムロ)なりとまうす」
⑥ 蒸し風呂のこと。〔名語記(1275)〕
⑦ 「むろあじ(室鰺)」の略。
浄瑠璃心中宵庚申(1722)上「焼物はむろの酢煎

しつ【室】

[1] 〘名〙
① 建造物の内で定まった人の用にあてる区画。また、小さな庵。室の間(ま)
※凌雲集(814)贈賓和尚〈嵯峨天皇〉「苦行独老山中室、盥嗽偏宜林下泉」 〔易経‐繋辞上〕
② 貴人の妻。奥方。内室。
※続日本紀‐天平元年(729)二月癸酉「令二レ王自尽、其室二品吉備内親王〈略〉同亦自経」 〔春秋左伝‐桓公六年〕
③ (「論語‐先進」の「由也升堂矣、未於室也」から) 学問や技芸の深奥な境地。また、学者の本領とするところ。
翁問答(1650)下「書をよまずして道徳の室(シツ)にいることはなりがたければ」
④ 刀剣の鞘(さや)。〔史記‐刺客伝〕
雌しべ子房雄しべの葯(やく)などの中にある空所。その数と形状は種類によって一定している。房。
[2] 二十八宿の北方第六宿。ペガスス座のα(アルファ)星とβ(ベータ)星からなる。室星。はついぼし。〔易林本節用集(1597)〕

しち【室】

〘名〙 (「しち」は「室」の呉音) =しつ(室)
※妙一本仮名書き法華経(鎌倉中)三「ほとけ室(シチ)(〈注〉ムロ)にいりて、寂然として禅定したまへりとしりて」

もろ【室】

〘名〙 アジ科の海魚。全長約三〇センチメートル。背部は青緑色で腹部は銀白色ムロアジに似ているが体側に黄色や赤みを帯びない。本州中部以南の暖海に分布。多く干物にする。あおむろ。むろ。みずむろ。

むろ【室】

姓氏の一つ。

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デジタル大辞泉 「室」の意味・読み・例文・類語

しつ【室】[漢字項目]

[音]シツ(漢) [訓]むろ
学習漢字]2年
〈シツ〉
部屋。「室内暗室客室居室教室個室茶室同室病室満室和室更衣室
一族。家族。「王室皇室宗室
貴人の妻。「正室側室令室
あなぐら。むろ。「玄室石室氷室
[補説]もと、奥まった部屋の意で、「堂」に対する。
〈むろ〉「岩室氷室ひむろ
[名のり]いえ・や

しつ【室】

家の中の区切られた区画。へや。
会社や官庁などの組織の一。「企画開発
妻。特に、身分の高い人の妻。奥方。内室。「豊臣秀吉の
刀剣のさや
二十八宿の一。北方の第六宿。ペガスス座のαアルファ星・βベータ星をさす。はついぼし。室宿。
[類語]部屋ルーム

むろ【室】

物を保存、または育成のために、外気を防ぐように作った部屋。氷室ひむろ麹室こうじむろなど。
山腹などに掘って作った岩屋。石室いしむろ
僧の住居。僧房。庵室。
古代、土を掘り下げ、柱を立て屋根をつけた家。室屋むろや
古代、周囲を壁で塗り込めた部屋。寝室などに使用した。

しち【室】

しつ(室)

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改訂新版 世界大百科事典 「室」の意味・わかりやすい解説

室 (むろ)

風の入らない温暖な部屋をいう。古代には,家の中で,特に風を通さないように作られた寝室を室と呼んでいたことが〈新室寿(にいむろほぎ)〉(《古事記》)などのことばから知られるが,その実際の形式は不明である。また,地中にうがたれた穴蔵や山腹などに掘ってつくった岩屋も室と呼ばれた。しだいに室が住宅の部屋を示すことはなくなり,冬期に得られる氷を夏期まで保存させておく氷室(ひむろ)や醸造に不可欠の麴室(こうじむろ)などに室ということばが使われている。

 氷室は具体的な形が残った遺跡としては発見されていないが,夏期に宮中へ毎日氷が供給された記録が残っている。それは土を3mほど掘り下げ,底や側壁に草を敷きその上に茅や粗朶(そだ)を並べ,氷を入れて土で覆ったもので,草と茅や粗朶の断熱層に守られて,冬期の氷を夏期まで保つことができた。麴室は土壁で塗られた建物の中に,周囲の壁から30cmから60cm離して四周を土壁で塗り,天井にも土を置いた囲いを作る。囲いの入口は1m幅くらいの狭い板戸で窓はない。外側の壁と囲いの間の空気が断熱層になって,一定の室内環境を保ち,酵母の育成を進める。麴室は,酒や醬油造りに欠くことのできない施設である。
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出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

世界大百科事典(旧版)内のの言及

【住居】より

…家族にはじまる社会組織と住居形態との対応の議論はL.H.モーガンをもって嚆矢とし,なお論じ続けられている。たとえばモーガンの扱ったアメリカ・インディアンのイロコイ族のロングハウスでは,母系リネージで結ばれた合同家族が集居し,各夫婦単位が寝室を保有していた。より一般的に大型住居と母系集団との相関関係を説く者もいる。…

※「室」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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