[1] 〘他カ五(四)〙
[一] 火・光・薬品などによって、物の状態を変える。
① 火をつけて燃やす。燃焼させる。たく。
※古事記(712)下・歌謡「枯野を 塩に夜岐(ヤキ) 其が余り 琴に作り」
② 燃やして形をなくす。燃やして灰にする。焼失する。
※書紀(720)天智二年二月(北野本訓)「新羅人、百済の南の畔の四の州を焼燔(ヤク)」
③ 火にあてたり、くべたりして、つくりあげる。加熱して、食べたり、使用したりできるようにする。
※書紀(720)皇極二年一〇月・歌謡「岩の上に小猿米野倶(ヤク)米だにも食げて通らせ山羊の老翁」
④ 灸をすえる。
※天理本金剛般若経集験記平安初期点(850頃)「遂に便ち灸三十余処を炯(ヤケ)り」
⑤ 日光にあてて、変色させる。日光に曝して皮膚を黒くする。
※夏の流れ(1966)〈丸山健二〉五「私は泳ぎ疲れて、〈略〉腹這いになり、背中を焼いた」
⑥ 写真で原版に光をあてて陽画をつくる。
※坑夫(1908)〈夏目漱石〉「顔の先一間四方がぼうとして何だか焼(ヤ)き損なった写真の様に曇ってゐる」
⑦ 薬品で物などをこがす。
※文明東漸史(1884)〈藤田茂吉〉内篇「自ら硝石精を以て額上を焼き、其面貌を変じて」
⑧ 強い、火のついたような刺激を与える。
※夜と霧の隅で(1960)〈北杜夫〉八「粗悪なブランデーの刺戟が彼の喉をやいた」
[二] 心の働かせかたを比喩的にいう。
① 心を悩ます。胸をこがす。
※万葉(8C後)七・一三三六「冬ごもり春の大野を焼く人は焼きたらねかも吾が情熾(やく)」
② 種々に気を配る。あれこれめんどうをみる。
※虎寛本狂言・止動方角(室町末‐近世初)「おのれが世話をやかするに依て落まい馬にまで落る」
③ (「妬」とも書く) 嫉妬する。悋気する。
※浮世草子・新竹斎(1687)四「だみたる恋を柴や町、やかるるたねと知ながら、猶もえくゐの燃やすき」
④ うれしがらせを言う。おだてる。江戸前期、上方の遊里で用いた語。
※評判記・剥野老(1662)山中山三郎「うちつけより人をやくこと上手也」