熊野神社、高野山(こうやさん)、八坂(やさか)神社をはじめ、山王、白山、熱田(あつた)、富士浅間(せんげん)など各地の社寺で出す災厄除(よ)けの護符をいう。略して牛王ともいう。熊野のものがもっとも有名で、半紙大の紙に熊野神の御使(おつかい)といわれている八咫烏(やたがらす)のしるしがかかれている。熊野の神は虚言を正すとの信仰から、中世以後の武士は起請文(きしょうもん)を書くのにこの牛王宝印の裏に署した。『吾妻鏡(あづまかがみ)』元暦(げんりゃく)2年(1185)の条に、源義経(よしつね)が大江広元(おおえのひろもと)を通じて兄頼朝(よりとも)に対して異心なきことを、牛王宝印の裏に起請文を書いて差し出したことがみえる。熊野牛王が民間に広く行き渡ったのは熊野比丘尼(びくに)が諸国にこの信仰を宣伝して歩いたことが考えられる。牛王ということばについては諸説があって決めがたい。ウシの胆嚢(たんのう)にできるもので薬品に使われる牛黄(ごおう)というものに由来するという説があるが、牛王と牛黄とはまったく別物だという説もある。『和漢三才図会(わかんさんさいずえ)』など江戸時代の諸書には、牛王はウブスナ(生土)の生の字の下部の一が誤って土の字の上についたものだといい、仏教のほうでは牛頭天王(ごずてんのう)に由来すると説く者もあった。今日では護符として身に帯びたり、門口に貼(は)ったりしている。正月に寺から受けてくる牛王杖(じょう)、牛王串(ぐし)などといわれるものがある。木の棒で、先を割って牛王札が挟んである。和歌山県東牟婁(ひがしむろ)郡那智勝浦(なちかつうら)町・熊野那智大社では、宮司が祝詞(のりと)を奏しながら柳でつくった牛王杖で打盤を激しくたたき、その音で魔よけをする「牛王神璽(しんじ)祭」が行われる。福島県いわき市の北神谷では、田の水口祭(みなくちまつり)にニワトコの木に牛王札を三角に折ったものを挟んで水口に立てるという。ここのもカラスを図案化したものがかかれている。
[大藤時彦]
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
出典 株式会社平凡社百科事典マイペディアについて 情報
年齢を問わず、多様なキャリア形成で活躍する働き方。企業には専門人材の育成支援やリスキリング(学び直し)の機会提供、女性活躍推進や従業員と役員の接点拡大などが求められる。人材の確保につながり、従業員を...
10/29 小学館の図鑑NEO[新版]動物を追加
10/22 デジタル大辞泉を更新
10/22 デジタル大辞泉プラスを更新
10/1 共同通信ニュース用語解説を追加
9/20 日本大百科全書(ニッポニカ)を更新