朝鮮の被差別民。朝鮮語ではペクチョン。白丁という語は高麗時代には国家の職役についていない一般庶民を指したが,1423年に政府が非農耕民である禾尺(かしやく)(楊水尺)・才人を〈新白丁〉として戸籍に編入したことからしだいに差別語化した。早く分離して軽業などの大道芸人となった才人とともに,白丁は賤民の代表として厳しい迫害をうけた。結婚は白丁間のみに限定され,奴婢(ぬひ)などと異なって身分上昇の機会は閉ざされていた。職業の制限は厳しく,農業以外に主として柳細工の製造販売や畜獣の屠殺などに従事し,それがまた差別観念を再生産した。一般集落に居住することも許されず,町の郊外に彼らのみの集落を形成し,冠や衣服にいたるまで制限されて一般民衆から賤視された。1894年の甲午改革で身分解放が行われたが,5万~十数万人といわれる白丁に対する差別はその後も厳存した。1923年,日本の水平社に刺激されて彼らは衡平社を結成し,解放運動を開始した。現在は南北朝鮮ともに身分としての白丁は消滅した。
→衡平運動 →賤民[朝鮮]
執筆者:吉田 光男
日本古代の律令制のもとで,庸(よう)・調(ちよう)を負担する無位の成年男子。〈はくちょう〉ともいう。また律令官僚の出身法,つまり律令官僚に参加するときの階層的な資格身分についての一概念。その出身法では,蔭子孫(おんしそん),位子(いし),白丁という概念系列があり,蔭子孫・位子に対して,それ以外のものを白丁とよぶ。具体的には,内六位から内八位までの本格的な下級官僚の庶子,および内・外初位(そい)の者の嫡・庶子,外六位から外八位の官僚たちの嫡・庶子,ならびに庶人の子たちを指す。白丁のうち,外六位以下を帯びる郡司の大領・少領の子は,兵衛として貢進される資格があり,また内六位から内八位までの庶子は位子が不足した場合に兵衛に採用され,ほかは,親王の公的従者である帳内(ちようない),貴族官僚の公的従者である資人に任用されることができた。また特殊な技能をもつものは,その技能を職能とする下級職員に採用されたのである。
執筆者:野村 忠夫
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
朝鮮の身分呼称。本来、中国律令(りつれい)制の用語で、朝鮮では高麗(こうらい)時代(918~1392)から記録に現れる。高麗の白丁は、国家の支配下の民衆のうち、軍役や駅の役などの特定職役を負担せず、したがって、その代償としての土地の支給も受けない人々で、自己の保有地(民田)を耕作し、国家に対して田税、貢物、各種の一般的徭役(ようえき)などを負担していた。ただ、身分的には、良人(りょうじん)に限定されえない面をもっていた。しかし、高麗中期以後、王朝が良人自営農民を支配の基礎とするようになると、白丁もそれを意味するに至った。1424年の李朝(りちょう)世宗による、才人、禾尺(かしゃく)(従来、定住せず、狩猟、と畜、柳器製造などに従事していた)の白丁への改称も、本来彼らの良人自営農民化を意味した。ところが、この政策は成功せず、逆に、新たに白丁となった彼らに対する官民の賤視(せんし)、差別を増幅させた。こうして、これ以後しだいに、白丁は特定の被賤視・被差別民(才人、禾尺)の呼称に転化し定着していった。1894年の甲午(こうご)改革で身分解放されたが、差別はなくならず1923年に衡平社を結成し解放運動を開始した。
[北村秀人]
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出典 日外アソシエーツ「動植物名よみかた辞典 普及版」動植物名よみかた辞典 普及版について 情報
…宮廷の小舎人(こどねり),公家や武家の供人の車副(くるまぞい)や松明(たいまつ)持ちなどが着た。また,そういう人々をも白丁(白張)という。この装束は烏帽子(えぼし)に白張,草鞋(そうかい)をはく。…
…また律令官僚の出身法,つまり律令官僚に参加するときの階層的な資格身分についての一概念。その出身法では,蔭子孫(おんしそん),位子(いし),白丁という概念系列があり,蔭子孫・位子に対して,それ以外のものを白丁とよぶ。具体的には,内六位から内八位までの本格的な下級官僚の庶子,および内・外初位(そい)の者の嫡・庶子,外六位から外八位の官僚たちの嫡・庶子,ならびに庶人の子たちを指す。…
…しかし法的規定と社会通念には多くのずれがあり,社会通念にも幅があって一律な賤民規定は難しいが,おおむね次の7種が賤民と認められる。(1)白丁 賤民の代名詞であり,屠殺や柳器匠などに従事する被差別民。(2)才人 白丁から分化し,軽業などを業とする大道旅芸人。…
※「白丁」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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