紙子(読み)カミコ

デジタル大辞泉 「紙子」の意味・読み・例文・類語

かみ‐こ【紙子/紙衣】

紙子紙かみこがみで作った衣服律宗の僧が用いはじめ、のち一般に使用。軽くて保温性にすぐれ、胴着袖なし羽織を作ることが多い。近世以降、安価なところから貧しい人々の間で用いられた。かみぎぬ。 冬》「繕うて古き―を愛すかな/虚子
みすぼらしい姿、惨めな境遇形容
「生れて始めて、―になった大尽の無念さを」〈花袋・名張少女〉

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精選版 日本国語大辞典 「紙子」の意味・読み・例文・類語

かみ‐こ【紙子・紙衣・紙袍】

  1. 〘 名詞 〙
  2. 紙で作った衣服。上質の厚くすいた和紙柿渋をぬり、何度も日にかわかし、夜露にさらしてもみやわらげ、衣服に仕立てたもの。もと律宗の僧侶が用いたという。古くは広く貴賤の間で用いられていたが、近世ごろは、安価であるところから貧乏人などが愛用した。柿渋をぬらないものを白紙子(しろかみこ)という。かみぎぬ。《 季語・冬 》 〔文明本節用集(室町中)〕
    1. 紙子<b>①</b>〈絵本池の心〉
      紙子〈絵本池の心〉
    2. [初出の実例]「紙子一衣は夜の防ぎ」(出典:俳諧・奥の細道(1693‐94頃)草加)
  3. 粗末な衣服というところから、あわれな姿、おちぶれた状態のたとえ。
    1. [初出の実例]「色狂の果は紙衣(カミコ)、その糊離(のりばなれ)の時節ありて、幸助の母親死去(みまかり)ぬ」(出典伽羅枕(1890)〈尾崎紅葉〉五七)

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改訂新版 世界大百科事典 「紙子」の意味・わかりやすい解説

紙子 (かみこ)

紙衣とも書く。紙を用いて作った衣服。いわゆる腰の強い上質の紙を産する日本独特のもの。風を通さず暖かいために,古くから防寒衣料として,あるいは寝具として用いられ,《源平盛衰記》の後白河法皇大原御幸の条に,老尼が紙子の上に墨染の衣を着ていることが出ている。紙をはり合わせて作るので簡便なところから僧の間にも多く用いられたようである。戦国時代になると戦陣の衣料として陣羽織胴服などに作られた。江戸時代にはいっても紙子は貴賤を問わず一般に広く用いられたらしい。産地としては奥州の白石,駿州の安倍川,紀州の華井などが世に知られていた。和紙をコンニャク糊ではり合わせ,これをよくもんで柔らかにし,これに柿渋を塗って仕上げたもので,肩さきや脇尻(わきじり)などに裂(きれ)をつけて補強したものもある。防寒用の胴着や下着として用いる場合が多かったが,これに木版でさらさ形や種々の模様を刷りつけた美しいものもあり,上衣として用いられることもあった。紙子といえば,安価な実用衣が連想されるが,元来一度着たら洗うことも縫いなおすこともできない紙子は,一面ひじょうにぜいたくな趣味のものであったわけで,この点遊里などで,いわゆるしゃれ者が好んで用いた凝ったものもあったらしい。明治以後毛織物が広く行われるようになってからは,防寒の衣料としてもしだいに用いられなくなり,いまではほとんど見られなくなってしまった。ただ宗教的な儀式のものではあるが,奈良の東大寺の二月堂の修二会に参籠する僧たちの衣料として今日もなお用いられている。
紙布(しふ)
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百科事典マイペディア 「紙子」の意味・わかりやすい解説

紙子【かみこ】

紙衣とも書く。紙で作った衣服。上質の紙を産する日本独自のもので,古くから防寒衣料や,寝具に用いられた。はり合わせた和紙をよくもみ,柿渋を塗って仕上げたもので,防寒用の胴着や下着に用いられた場合が多いが,木版で美しい模様をつけ,上着にしたものもある。産地は奥州白石,駿河安倍川などであった。
→関連項目紙布奈良紙

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世界大百科事典(旧版)内の紙子の言及

【勘当】より

…正規の勘当はこのように煩雑な手続を必要としたから,地方によっては内証勘当にとどめ,正式の勘当は行わない慣習のところもあった。勘当に際しては,当時の歌舞伎や小説に見られるように,紙子(かみこ)に着替えさせて追い出す慣習もあった。勘当したりこれを宥免したりする権利は親(とくに父)の有するところで,父死亡後は母もしくは兄がこの権利を行使した。…

※「紙子」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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