紙衣とも書く。紙を用いて作った衣服。いわゆる腰の強い上質の紙を産する日本独特のもの。風を通さず暖かいために,古くから防寒衣料として,あるいは寝具として用いられ,《源平盛衰記》の後白河法皇の大原御幸の条に,老尼が紙子の上に墨染の衣を着ていることが出ている。紙をはり合わせて作るので簡便なところから僧の間にも多く用いられたようである。戦国時代になると戦陣の衣料として陣羽織,胴服などに作られた。江戸時代にはいっても紙子は貴賤を問わず一般に広く用いられたらしい。産地としては奥州の白石,駿州の安倍川,紀州の華井などが世に知られていた。和紙をコンニャク糊ではり合わせ,これをよくもんで柔らかにし,これに柿渋を塗って仕上げたもので,肩さきや脇尻(わきじり)などに裂(きれ)をつけて補強したものもある。防寒用の胴着や下着として用いる場合が多かったが,これに木版でさらさ形や種々の模様を刷りつけた美しいものもあり,上衣として用いられることもあった。紙子といえば,安価な実用衣が連想されるが,元来一度着たら洗うことも縫いなおすこともできない紙子は,一面ひじょうにぜいたくな趣味のものであったわけで,この点遊里などで,いわゆるしゃれ者が好んで用いた凝ったものもあったらしい。明治以後毛織物が広く行われるようになってからは,防寒の衣料としてもしだいに用いられなくなり,いまではほとんど見られなくなってしまった。ただ宗教的な儀式のものではあるが,奈良の東大寺の二月堂の修二会に参籠する僧たちの衣料として今日もなお用いられている。
→紙布(しふ)
執筆者:山辺 知行
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…正規の勘当はこのように煩雑な手続を必要としたから,地方によっては内証勘当にとどめ,正式の勘当は行わない慣習のところもあった。勘当に際しては,当時の歌舞伎や小説に見られるように,紙子(かみこ)に着替えさせて追い出す慣習もあった。勘当したりこれを宥免したりする権利は親(とくに父)の有するところで,父死亡後は母もしくは兄がこの権利を行使した。…
※「紙子」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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