菊人形
きくにんぎょう
人形の衣装を菊の花や葉を組み合わせてつくった細工物。古くは菊細工ともいった。芝居の当り狂言を題材にして人気俳優の似顔につくった生き人形の頭(かしら)を用いるようになってから菊人形とよぶようになった。劇や物語に仕組んだもの、世相風俗に取題したもの、鶴(つる)、唐獅子(からじし)など花鳥、動物類を扱ったものなど種類が多い。江戸時代、文化(ぶんか)年間(1804~18)前期、江戸で麻布狸穴(まみあな)の植木屋たちが手がけたのが始まりという。続いて巣鴨(すがも)の染井(そめい)の植木職の間でも流行、文化末年には巣鴨に菊細工を見せる家が50余軒も出現して、一枚摺(ず)りの番付が発行されるほどの隆盛を示した。1844年(弘化1)に巣鴨霊感院の会式(えしき)に「日蓮(にちれん)法難」などの菊細工の飾り物が評判になり、翌年には白山、駒込(こまごめ)、根津谷中(ねづやなか)一帯、団子坂(だんござか)を中心に見せ物として進出。植木職以外の家までがこの細工物を業とし、その数は60余軒に上った。
明治期に入ってもこの催しは盛んで、毎年10月から11月にかけて見物させ、1875年(明治8)からは入場料をとるようになった。さらに1910年(明治43)には両国の国技館で電気応用の菊人形大会が催され、以後東京の秋の催し行事の一つとなった。団子坂の菊人形は明治末年まで残存した。現在では遊園地などの客寄せ用に行われているが、二本松(福島県)、笠間(かさま)(茨城県)、万松寺(名古屋)、亀岡(京都府)、枚方(ひらかた)(大阪府)などの菊人形が知られている。
[斎藤良輔]
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菊人形
きくにんぎょう
色とりどりのキクの花を用い,種々に組合せて人物や鳥獣の形をつくり,観覧に供するもの。明治時代には,東京の本郷団子坂や浅草の花屋敷,両国の国技館,大阪の枚方,京都の亀岡,福島の二本松などの菊人形が有名であった。文化初年に江戸麻布の狸穴でキクを使って鶴や帆掛船が初めてつくられたといわれ,文化9 (1812) 年に巣鴨の菊細工人が狸穴にならってつくったのが評判となり諸所で行われるにいたったと『武江年表』にある。近時は郊外の遊園地などで催されるにとどまっている。
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菊人形【きくにんぎょう】
菊細工の人形およびその見世物。キクの花,葉を組み合わせて衣装とし人形にまとわせ,多くは歌舞伎などの名場面に仕組んで飾り,見世物とする。文化年間江戸で始められ,毎年秋多くの見物客を集めた。明治以後東京の団子坂,両国国技館のものが著名となったが,最近では各遊園地で催される。
→関連項目武生[市]
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きく‐にんぎょう ‥ニンギャウ【菊人形】
〘名〙 菊の花や葉を細工して人形の衣装とし、劇や物語の一場面をつくって見せるもの。古くは菊細工と称し、東京では団子坂や旧国技館(両国)、大阪では枚方(ひらかた)などのものが有名。《季・秋》
※風俗画報‐一五九号(1898)一〇月「菊人形(キクニンギャウ)の如きは近時益々盛大と為れり」
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きく‐にんぎょう〔‐ニンギヤウ〕【菊人形】
菊花で衣装部分をこしらえた人形。また、その見世物。主に歌舞伎の当たり狂言に題材をとる。《季 秋》「夜風たつ―のからにしき/蛇笏」
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きくにんぎょう【菊人形】
菊の花や葉を組み合わせ細工してつくった人形。古くは菊細工といった。多くは芝居の当り狂言を題材にしたりして,人気俳優の似顔につくったもの,劇や物語にしくんだもの,あるいは世相,流行,風俗などに取題したものや花鳥,動物類など種類はさまざまで見世物にする。起源ははっきりしないが,江戸時代の文化年間(1804‐18)前期に江戸麻布狸穴(まみあな)で始められ,続いて巣鴨の植木職の多い染井でも流行したという。やがて文化末年には巣鴨に菊細工を業とする家が50軒余も出現し,一枚刷りの番付が発行されるほどの隆盛を示したが,一時的な人気に終わった。
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