ある物とくに不動産をいったん売却した人が,あらかじめ相手方と結んだ特約に基づき,後日その売買契約を解消して物件を取り戻すこと。およそ売却は売切りとなるのが通例であり,いちど売っておきながら後でまたわざわざ買い戻すというのは,単に物を金銭に替えてしまうこと以外の目的が存するわけである。
(1)買戻しの役割・機能 不動産をかたにして融資を受ける方法としては,抵当権(民法369条)が最も代表的である。しかし,金銭を貸す側が強い立場を利用して抵当以上に有利な担保を要求する場合もあれば,借りる側の返済見込みが不確実なため後始末の簡便な担保手段を貸し手から求められる場合もある。こういう際には,貸し手が物を買い取る形で実質上の融資を行い,返済されないときは,競売といったやっかいな公的手続を経ないで物を確定的に貸し手の所有とし,また,返済によって売り手が担保物件を取り戻すときは,売買契約の解除という方法による。これが買戻しの経済的作用であり,日本では中世以来,本銭返し,本物返しの名のもとで,質入れとならんで行われてきた。現在の法律にも規定が設けられている(579条以下)。ただし,実際の取引で,このような所有権をあらかじめ貸し手(債権者)に移しておく方法(権利移転型の担保)としては,買戻しよりも再売買予約(後述)や譲渡担保によることが多いといわれる。
なお買戻しは,貸金の担保とは無関係に用いられる場合もある。住宅・都市整備公団や住宅供給公社が住宅・土地を分譲する際,買い手に分譲契約の条件(たとえば一定地域での居住とか勤務を要求し,一定期間は他人への転売を禁ずる)に対する違反があれば,公団・公社は買い戻すことができる,という特約(買戻し特約)を付けておくのがその例である。これは契約違反を理由とする通例の解除にほかならず,以下では説明しない。
(2)買戻しの内容 売り手と買い手の間の特約で行われるが,それは売買契約と同時に締結しなければならず,買い手が受け取れる金額は彼の支払った代金と契約のためにかかった費用とに限られる,など窮屈な枠がある(579条参照)。また,条文をみると不動産について認められ,動産は規定がない。売り手が,買い手から譲り受けた人に対して,自分には買い戻す権利があると主張するには,買戻しの特約を登記しておかなければならない(581条1項,不動産登記法37条)。買い戻すことができる期間は,特約で定めていなければ5年内であり,定めるときでも10年を超えてはならない(民法580条)。これは,長期間に不動産の権利関係を不安定にしておかないためである。この期間内に,売り手は代金と契約にかかった費用とを買い手に〈提供〉しなければ買い戻せない(583条1項)。
(3)再売買の予約 買戻しは上記のとおり条件がきびしいため,あまり利用されていないのが現状である。そこで,直接の規定はないが,第1の売買における売り手(実質は金銭の借り手)が第2の売買(買戻しにあたる再売買)について買い手との間で予約を締結する,という方法が考えられる。この再売買予約は,買戻しと異なり,動産でもかまわないし,第1の売買と同時に締結しなくてもよい。また,再売買代金も,買戻しのような制限がなく,時価と定めてよい。なお,この予約は仮登記によって他人に対しその存在を公示し,取戻しは予約完結権の行使という形をとる。
(4)売渡担保 買戻しと再売買予約とを合わせて売渡担保と呼ぶことがある。その場合,買戻権や再売買予約完結権は,実質上の担保物を金銭の返済によって取り戻す権利をさすことになる。買戻し,再売買予約と売渡担保との関係がどうであれ,現在最大の問題点は,実質上の担保権者である買い手ないし第1売買の買い手が,実際には貸金とその利息や費用を超えてまるまる物件をもらってよいか,という点に存する。これは担保権者の〈清算義務〉と呼ばれ,譲渡担保や仮登記担保ではすでに肯定されている。
執筆者:椿 寿夫
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
売買契約の際に、売り主が将来目的物を買い戻すことのできる権利を留保しておくことを買戻しの特約といい、そのような特約に基づいて、いったん買い主に帰属した目的物を取り戻すこと、およびそのような制度を買戻しという(民法579条~585条)。その経済的作用は、所有権移転の形式による債権担保であり、目的物を金融などのために一時手放す場合に用いられる。
買戻しとなるための要件は、目的物が不動産に限られ、買戻し代価は売買代金に契約の費用を加えたものであること(民法579条)。買戻し期間は10年を超えることができない(580条1項)などであり、以上の要件を満たした買戻しの特約は、登記することによって、第三者に対抗することができる(同法581条1項)。買戻し権は他人に譲渡することができ、登記によって第三者に対抗することができる。
買戻しの実行方法は、買戻し義務者に対する意思表示によって行われる。その際、買い主の支払った代金と契約費用とが返還されなければならない。買戻しの効果は各当事者に原状回復義務が生じることである。したがって、目的の不動産の所有権は、買戻し権者に当然に復帰する。買戻しの制度は、不動産に限られ、買戻しの期間の限定、買戻し代価などの点で、その要件が厳しいため、「再売買の予約」(売買に際して売り主が将来ふたたび買い戻す旨を予約すること)などに比べて利用度は低い。
[淡路剛久]
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
出典 (株)外為どっとコムFX用語集について 情報
…具体的には,顧客が株式の売買を行う際に,証券会社が売付株券または買付代金を貸与し,これによって現株または資金の全額をもたない者にも売買を可能にした取引である。信用取引の決済は,反対売買(信用買いの場合は転売,信用売りの場合は買戻しという)を行い差金の授受で済ますのが通例で,その意味では,第2次大戦前行われていた清算取引とも似ているが,証券会社間の売買はあくまで普通取引(4日目受渡し)の形をとっている点において,清算取引と異なっている。すなわち証券会社は売買成立の日から4日目の決済日に買付代金の貸付け(買付株券は担保にとる),または売付株券の貸付け(売付代金を担保にとる)を行って,それぞれ決済するものである。…
※「買戻し」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
年齢を問わず、多様なキャリア形成で活躍する働き方。企業には専門人材の育成支援やリスキリング(学び直し)の機会提供、女性活躍推進や従業員と役員の接点拡大などが求められる。人材の確保につながり、従業員を...
10/29 小学館の図鑑NEO[新版]動物を追加
10/22 デジタル大辞泉を更新
10/22 デジタル大辞泉プラスを更新
10/1 共同通信ニュース用語解説を追加
9/20 日本大百科全書(ニッポニカ)を更新