軍神(読み)イクサガミ

デジタル大辞泉 「軍神」の意味・読み・例文・類語

いくさ‐がみ【軍神】

いくさの勝利を守る神。武甕槌神たけみかづちのかみ経津主神ふつぬしのかみが古くから有名。また、源氏では八幡神、のちの兵学家などは、摩利支天まりしてん北斗七星不動明王などを祭った。

ぐん‐しん【軍神】

《古くは「ぐんじん」とも》武運を守る神。いくさがみ。八幡大菩薩ローマ神話マルスなど。
武勲を立てて戦死した将兵を、軍人の手本としてたたえた語。「軍神広瀬中佐」

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精選版 日本国語大辞典 「軍神」の意味・読み・例文・類語

ぐん‐しん【軍神】

  1. 〘 名詞 〙 ( 古くは「ぐんじん」とも )
  2. 武運を守る神。いくさがみ。鹿島神宮の武甕槌命(たけみかづちのみこと)香取神宮の経津主命(ふつぬしのみこと)、また、八幡大菩薩など。
    1. [初出の実例]「小二郎が細首うちおとし、九万九千のぐんしんの血まつりにせん」(出典:曾我物語(南北朝頃)四)
  3. 軍人の模範となるような立派な行動をし、てがらをたてて戦死した軍人を神にたとえていう語。
    1. [初出の実例]「旅順港閉塞に名誉ある戦死を遂げられたる広瀬中佐は〈略〉或人叫んで軍神と唱ふ」(出典:東京朝日新聞‐明治三七年(1904)三月三〇日)

いくさ‐がみ【軍神】

  1. 〘 名詞 〙 武運をつかさどる神。戦いに勝利をもたらす神。武甕槌神(たけみかずちのかみ)(=鹿島神宮の祭神)、経津主神(ふつぬしのかみ)(=香取神宮の祭神)の二神が古来もっとも尊崇されたが、鎌倉時代以後武家においては北斗七星、摩利支天勝軍地蔵、不動明王、また、八幡大神などをもまつる。弓矢の神。軍神。武神
    1. [初出の実例]「関より東(ひむがし)のいくさがみ、鹿島、香取(かんどり)、諏訪の宮」(出典:梁塵秘抄(1179頃)二)

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改訂新版 世界大百科事典 「軍神」の意味・わかりやすい解説

軍神 (ぐんしん)

元来は武運長久を祈る神。〈いくさかみ〉の音読で,古くは〈ぐんじん〉と発音した。西洋では,ギリシア神話アレスやローマ神話のマルスがその代表。中国では,伝説上の建国者黄帝などが祭られた。

 古来日本で軍神として祭られた神は数多くあるが,伊勢貞丈(江戸時代の有職故実家)は大己貴(おおなむち)命(大国主神)・武甕槌(たけみかづち)命(鹿島の神)・経津主(ふつぬし)命(香取の神)を祭るよう主張している。その他,素戔嗚(すさのお)尊・神武天皇・日本武(やまとたける)尊・神功皇后・建御名方(たけみなかた)神(諏訪の神)・坂上田村麻呂なども尊崇されているが,兵家は北斗七星の神格化された妙見大菩薩を信仰する者が多く,また仏説では摩利支天・大黒天・毘沙門天(または弁財天)の三天をあげる。なかでも八幡大神は源氏の人々が格別の崇敬を払ったことから,最も広く軍神として崇拝されてきた。
執筆者:

戦死した軍人のなかでとくに軍人のかがみとして神格化された存在で,日露戦争時の海軍の広瀬武夫中佐,陸軍の橘周太中佐がその最初であるが,一般兵士に軍神の称が冠せられたことはない。1869年(明治2)に東京九段に招魂社(1879年に靖国神社と改称し別格官幣社に列した)が創建され,戊辰戦争以来の官軍の従軍戦没者全員が祭神として合祀されて以後,従軍戦没者はすべて靖国の神として祭られることになった。したがって戦死者中の特定の人物が軍神とされることは日清戦争時まではなかったが,日露戦争では海軍の旅順港閉塞作戦という決死隊的作戦のなかで,広瀬武夫が部下の生死を案じて弾雨のなかを捜索中に劇的戦死をとげたことから,緒戦の興奮にわきたつ国民に軍神として受け入れられた。陸軍では最初の大会戦である遼陽会戦での橘周太大隊長の戦死が,かつて東宮武官として近侍した皇太子の誕生日であったこと,戦死直前まで第2軍管理部長として坪谷水哉・田山花袋らの従軍記者と接してその謹直誠実な人格が敬服されていたことから,彼らの筆によって軍神とされた。陸海軍1人ずつの軍神という対抗意識もあったようで,この2人に劣らぬ人格者で壮烈な戦死をとげた軍人に対する軍神キャンペーンはなかった。1932年の上海事変での作られた忠勇美談の主肉弾三勇士も一般兵士であったためか軍神とまではされなかった。

 陸海軍当局がみずから軍神の名を冠して戦死を公表したのは1941年の真珠湾海軍特別攻撃隊の9軍神と,翌年の陸軍の加藤建夫隼戦闘隊長であった。しかし,前者は10人のうち捕虜となった生存者1人については最後まで秘密にされていた。軍神は,いずれも戦争の初期の段階で生み出され,国民の戦意高揚に資するという当面の意義と,のちに国定教科書にその生前の言行が掲げられて,すべての徳目が忠君愛国に帰する教育勅語精神の典型としての意義をもった。
執筆者:

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「軍神」の意味・わかりやすい解説

軍神
いくさがみ

戦勝や武運長久を祈願すると、聞き届けてくれるといわれる神。天照大神(あまてらすおおみかみ)が皇孫瓊瓊杵尊(ににぎのみこと)を、葦原中国(あしはらのなかつくに)に降(くだ)されるに先だち、武甕槌神(たけみかづちのかみ)と経津主神(ふつぬしのかみ)が先発して平定したという故事から、その神々を祀(まつ)った鹿島(かしま)、香取(かとり)が軍神として崇(あが)められるようになったという。また、源氏が石清水八幡(いわしみずはちまん)を氏神とし、各地の源氏も八幡神を祀ったところから、八幡神を軍神とする。別に軍神(ぐんしん)は明治以降の勇猛な戦死者の美称。

[井之口章次]

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「軍神」の意味・わかりやすい解説

軍神
ぐんしん

元来,武運を守る神 (八幡大菩薩など) をさしたが,のちにすぐれた武勲を立て,勇敢な戦死をとげた軍人のうち,軍人の亀鑑となるべき者が軍神と呼ばれるようになった。真珠湾攻撃に参加した日本海軍の特殊潜航艇5隻の乗組員で戦死した9人の海軍軍人や,陸軍の加藤隼戦闘機隊隊長で,戦死した加藤建夫中佐などは軍神といわれた。

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普及版 字通 「軍神」の読み・字形・画数・意味

【軍神】ぐんしん

武神。

字通「軍」の項目を見る

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世界大百科事典(旧版)内の軍神の言及

【軍神】より

…中国では,伝説上の建国者黄帝などが祭られた。 古来日本で軍神として祭られた神は数多くあるが,伊勢貞丈(江戸時代の有職故実家)は大己貴(おおなむち)命(大国主神)・武甕槌(たけみかづち)命(鹿島の神)・経津主(ふつぬし)命(香取の神)を祭るよう主張している。その他,素戔嗚(すさのお)尊・神武天皇・日本武(やまとたける)尊・神功皇后・建御名方(たけみなかた)神(諏訪の神)・坂上田村麻呂なども尊崇されているが,兵家は北斗七星の神格化された妙見大菩薩を信仰する者が多く,また仏説では摩利支天・大黒天・毘沙門天(または弁財天)の三天をあげる。…

※「軍神」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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