浄土宗の開祖法然の著作。1198年(建久9)法然66歳のとき,前関白九条兼実の懇請により著した。浄土三部経(《大無量寿経》《観無量寿経》《阿弥陀経》)はじめ中国の曇鸞(どんらん),道綽(どうしやく),善導らの著述から念仏の要文を抄出し,念仏の要義を述べている。書名は〈阿弥陀仏が諸行のなかから選択して本願の行とされた念仏に関する書〉の意。《選択集》と略称するが,真宗では選択を〈せんじゃく〉と読む。1巻,16章から成る。修しやすい浄土門に帰入し,称名を修して三心・四修を備えるべきことを説き(第1,2,8,9章),阿弥陀仏が一切の余行を選取して,称名念仏の一行のみを選取し,これを往生のための行とすることを本願とされたわけを明かし(第3章),それゆえにこそ念仏行が諸仏から讃歎され,念仏行者も諸仏に護念されて現当二世の利益を得,釈迦が阿難に念仏の一行を付嘱されたのだと述べる(第10~15章)。そして浄土三部経にみえる8種の選択を挙げ,釈迦,弥陀,諸仏ひとしく念仏の一行を選択されたと論じ(第16章),〈速やかに生死を離れんと欲せば(略)聖道門を閣(さしお)きて選んで浄土門に入れ。浄土門に入らんと欲せば(略)諸の雑行を抛ちて選んでまさに正行に帰すべし。正行を修せんと欲せば(略)助業を傍(かたわら)にし選んでまさに正定(しようじよう)を専らにすべし。正定の業(ごう)とはすなわちこれ仏名を称するなり。名(みな)を称すれば必ず生ずることを得。仏の本願によるがゆえなり〉と結ぶ。法然が1175年(承安5)に得た主観的な回心を,客観的に教義組織として体系づけ,専修(せんじゆ)念仏の立場を明らかにしたものである。京都廬山寺に草稿本が蔵され,巻頭の〈選択本願念仏集,南無阿弥陀仏,往生之業念仏為先〉の21文字は法然の真筆とされている。
執筆者:伊藤 唯真
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「せんじゃく~」とも読む。鎌倉時代の仏書。一巻。略して『選択集』という。浄土宗を開創した法然(ほうねん)(源空)の主著で、1198年(建久9)3月、66歳のとき九条兼実(かねざね)の懇請に応じて撰述(せんじゅつ)された浄土宗の根本聖典で、16章からなっている。善導(ぜんどう)の浄土教義を経(けい)とし、自らの選択義を緯(い)として、阿弥陀仏(あみだぶつ)によって選択された本願念仏の要文を集め、選択本願の真意を明らかにした。
仏道修行や生活行動のすべてが称名念仏(しょうみょうねんぶつ)の一行に帰結することを指摘し、願生者(がんしょうしゃ)に安心(あんじん)・起行(きぎょう)・作業(さごう)を策励する軌範を明示し、往生(おうじょう)浄土の法門が時機相応の教えであるゆえんを力説した。京都廬山(ろざん)寺所蔵の古鈔(こしょう)本『選択集』は草稿本とみなされる。その開巻劈頭(へきとう)の「選択本願念仏集」と次行の「南無(なむ)阿弥陀仏往生之業念仏為先」の21字は法然の自筆であるが、それ以降はすべて門弟の執筆である。本書が世に出ると、この世で悟りを得ようとする聖道家(しょうどうけ)から猛烈な批判攻撃を受けたこと、また本書の注釈書と開版の数がすこぶる多いことは、信謗(しんぼう)両面にわたって本書がいかに世人の注目を集めたかを物語っている。
[藤堂恭俊]
『石井教道著『選択集全講』(1959・同書刊行後援会)』
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「せんじゃくほんがんねんぶつしゅう」とも。法然(ほうねん)が,1198年(建久9)九条兼実の要請をうけて,弟子に口述筆記させたもの。浄土宗の根本経典。浄土の教えが末法の世で最も優れたものであると主張し,浄土宗の開宗を宣言した。「南無阿弥陀仏」と唱える口称念仏が阿弥陀仏の本願にかなった正行(しょうぎょう)で,臨終に際し一声でも念仏すれば極楽往生できるとし,道綽(どうしゃく)・善導らの説や浄土三部経などを引用・解釈しつつ説く。草稿本は京都廬山(ろざん)寺にある。法然の死後に開版されたが,明恵(みょうえ)高弁が「摧邪輪(さいじゃりん)」を著して反論するなど反響が大きかった。「日本思想大系」所収。
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…法然が1175年(承安5)に得た主観的な回心を,客観的に教義組織として体系づけ,専修(せんじゆ)念仏の立場を明らかにしたものである。京都廬山寺に草稿本が蔵され,巻頭の〈選択本願念仏集,南無阿弥陀仏,往生之業念仏為先〉の21文字は法然の真筆とされている。【伊藤 唯真】。…
…念仏門の系統から,まず法然(源空)が日本浄土宗を開いた。法然は主著《選択(せんちやく)本願念仏集》を著し,富と知識を独占する貴族しかできない造寺・造仏・学解・持戒などの意義を退け,往生の要諦は阿弥陀―仏を信じて,念仏だけを唱えること(一向専修)で,これにより人びとは貴賤・男女の差別なく在家の生活のまま往生できると説いた。これまでのように観想の阿弥陀仏礼拝も,浄土三部経の読誦も不要であり,称名念仏だけが〈正定業(しようじようごう)〉であるという点で,阿弥陀信仰はより易行(いぎよう)となり,在家民衆の生活のなかに定着する条件をそなえた。…
…この段階での浄土宗は宗義としての浄土宗であって,教団としてのそれではなく,またその教学体系の中心をなすのは善導流の本願論であって,法然独自の選択本願念仏論はまだ出ていない。この選択本願念仏の理論がはっきり示されたのは90年の東大寺における浄土三部経の講釈,著作としては兼実の要望で撰述された《選択本願念仏集》においてであった。法然はこのなかで〈選択〉を標榜し,下賤無知のものに対する独立した救済体系を示した。…
※「選択本願念仏集」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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