(読み)タニ(その他表記)valley

翻訳|valley

デジタル大辞泉 「谷」の意味・読み・例文・類語

たに【谷/渓/×谿】

地表にできた狭くて細長いくぼ地。浸食作用でできた河谷かこく氷食谷が一般的であるが、断層運動や褶曲しゅうきょく運動でできた断層谷や褶曲谷もある。「千尋の
細長くくぼんでいる部分。また、波の山と山との間の低い所。「気圧の」「景気の
二つの屋根の斜面が交わる、くぼんだ所。
[類語]峡谷渓谷幽谷空谷谷間たにま谷間たにあい渓間狭間谷地・谷戸・やつ山峡雪渓谷底窪地低地クレバス

やつ【谷】

アイヌ語から出た語という》低湿地。たに。特に、関東地方で用いる。やち。やと。
「ここの―、かしこの小路より」〈太平記・三一〉
[類語]たに峡谷渓谷幽谷空谷谷間たにま谷間たにあい渓間狭間谷地・谷戸・山峡雪渓谷底窪地低地クレバス

こく【谷】[漢字項目]

[音]コク(呉)(漢) [訓]たに や やつ きわまる
学習漢字]2年
〈コク〉山間のくぼ地。たに。「谷風峡谷空谷渓谷幽谷
〈たに〉「谷川谷底谷間たにま・たにあい
〈や・やつ〉たに。低地。「谷地やち谷田やつだ
[名のり]ひろ
[難読]蟀谷こめかみ

や【谷】

谷あいの地。やつ。やと。地名に残っている語。「中」「雑司ヶ

やと【谷】

やつ(谷)」に同じ。

さこ【谷/迫】

山の尾根と尾根の間。小さい谷。

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精選版 日本国語大辞典 「谷」の意味・読み・例文・類語

たに【谷・渓・谿】

  1. 〘 名詞 〙
  2. 地表に見られる細長いくぼ地。成因によって河谷・氷食谷などの浸食谷と断層谷・向斜谷・背斜谷などの構造谷に分ける。形態的には山脈に平行な谷を縦谷、山脈を横断する谷を横谷という。
    1. [初出の実例]「御統(みすまる)に 穴玉はや み多邇(タニ) 二渡らす あぢしき 高日子根の神そ」(出典:古事記(712)上・歌謡)
    2. 「山鳥、友を恋ひて〈略〉谷へだてたる程など、心ぐるし」(出典:枕草子(10C終)四一)
  3. 波形のくぼんだ所。また、二つの屋根の斜面がながれて合する所などをいう。〔紙上蜃気(1758)〕
  4. 同じ世界に住む仲間。連中。社中。
    1. [初出の実例]「たがひに喰合ひそしりあふが此谷(タニ)のならはせなり」(出典:浮世草子・当世芝居気質(1777)一)
  5. 楊弓・大弓で、銭(ぜに)を賭物(かけもの)にするときの八銭。また、一般に「八」の数をいう俗語。〔類聚名物考(1780頃)〕
  6. ( 山に対して ) 学生仲間で、試験に出そうもない部分をいう語。

くら‐たに【谷】

  1. 〘 名詞 〙 ( 「くら」も谷の意か ) 深くきり立った谷。
    1. [初出の実例]「鶯の鳴く久良多爾(クラタニ)に打ちはめて焼けはしぬとも君をし待たむ」(出典:万葉集(8C後)一七・三九四一)

谷の補助注記

「くら」を「暗し」の語幹として、暗い谷の意とする説もある。


やつ【谷】

  1. 〘 名詞 〙 たに。たにあいの地。特に鎌倉・下総(千葉県・茨城県)地方で用いる。やち。やと。→「やち(谷地)」の語誌。〔名語記(1275)〕
    1. [初出の実例]「忍びねはひきのやつなる郭公雲ゐに高くいつかなのらん」(出典:十六夜日記(1279‐82頃))

やと【谷】

  1. 〘 名詞 〙 谷間。渓谷。やち。やつ。や。

谷の語誌

→「やち(谷地)」の語誌


や【谷】

  1. 〘 名詞 〙やつ(谷)物類称呼(1775)〕

さこ【谷・迫】

  1. 〘 名詞 〙 山の尾根と尾根の間をいう。小さな谷。はざま。〔名語記(1275)〕

たに【谷】

  1. 姓氏の一つ。

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「谷」の意味・わかりやすい解説


たに
valley

山と山との間の窪地(くぼち)。小さいものは渓(けい)という。山に対する語であるが、山と谷との境界は明瞭(めいりょう)でない。山腹斜面は見方をかえれば谷壁斜面ともいえるからである。沢と谷との区別もはっきりしない。一般的には山に付属する線状地物が沢で、谷はそれより大きいものと考えられている。

[髙山茂美]

谷の分類

谷はその成因、形状、配置の状態などによっていろいろな分類の仕方がある。谷が断層運動や褶曲(しゅうきょく)運動などの構造的原因によって生じた場合に構造谷といい、おもに川や氷河の侵食作用によってつくられた谷を侵食谷という。谷の横断面形は成因、発達の段階によってさまざまな形をしている。谷底が平らな谷は平底谷または床谷(しょうこく)という。谷の両側の谷壁斜面が凹形の斜面からなる広い谷を盆谷という。これに対して、谷底に平地を欠くような谷を欠床谷またはV字谷という。両側の谷壁斜面の傾斜が垂直またはこれに近い急傾斜のものを峡谷という。湿潤地域では、ふつうは川が流れていて、流水の侵食と堆積(たいせき)作用によってしだいに平らな谷底が形成されていく。そこで、谷の発達段階から幼年谷壮年谷老年谷に分けることがある。アメリカの地形学者W・M・デービス侵食輪廻(りんね)(地形輪廻)の考え方に従えば、時間の経過につれて谷は広く、浅くなる。したがってV字谷は幼年谷、床谷は壮年谷、盆谷は老年谷の地形的特徴を表す。氷食谷の場合にはU字谷をなす。また、乾燥地域では谷があっても、普段はその中を水が流れていないことが多い。たまに降る豪雨の際に川となって流れる。

 谷の延長方向が山脈の走る方向と平行している場合に縦谷(じゅうこく)という。ヒマラヤ山脈トランス・ヒマラヤ山脈の間を流れるブラマプトラ川インダス川の上流部の谷が典型例で、地質構造に支配されて生ずるが、縦谷にはさまざまな成因によるものがある。山脈を横切っている谷を横谷(おうこく)という。川が山脈を横切って流れることは不可能だから、横谷の部分の流路は、山脈ができる以前からそこを流れていた先行川や表成川の場合、山地を横切る断層に沿って侵食が働き、谷を生じた場合などのように特殊なケースが多い。アパラチア山脈には褶曲構造に並走する縦谷とこれを横切る横谷とがみられる。日本では、東北日本の盆地から日本海に注ぐ、最上(もがみ)川、阿賀野(あがの)川、雄物(おもの)川などが山脈を横切って横谷をなしている。

 侵食谷の大部分は河谷である。地表面に谷ができ始めるのは、雨水が集まって線状に流れるようになってからである。降雨時に表流水が集まって流れる通路はガリgullyまたは雨溝とよばれる窪地を形成し、しだいに小さな谷へと成長していく。このような涸れ谷(かれだに)の谷底が地下水面に達すると、恒常的に水が流れるようになる。水流は下刻(かこく)と側刻とにより、しだいに谷の深さと幅を増し、谷頭侵食によって流路を延長する。幼年谷では下刻が卓越し谷は深く、側面は急傾斜をなす。その横断面はV字形で、谷底には滝や早瀬がみられ、縦断面は不連続である。谷壁斜面は急傾斜で不安定なために、斜面を構成する物質が絶えず崩れ落ちるが、谷底にたまった物質はすぐ水流に運び去られ、徐々に谷幅を増す。壮年谷では滝や早瀬が消失することにより、縦断面は平滑化し、側刻が優勢となって谷幅を拡大し、谷壁斜面の傾斜も緩やかになる。谷底には堆積物がたまり、氾濫(はんらん)原を形成したり、自由蛇行が発生する。老年谷では谷幅の拡大のみが行われ、下刻はほとんどやむ。谷は広くて浅く、縦断面は緩勾配(こうばい)となる。

 氷食谷は谷底が平坦(へいたん)で、谷壁斜面が垂直に近く、U字谷とよばれる。谷氷河の谷頭には円形劇場のようなカールKar(ドイツ語。圏谷の意)が生ずる。氷食は河食と異なり、固体物質どうしがぶつかり合うので、谷壁や谷床には氷河削痕(さっこん)とよばれる擦り傷が残ることがある。谷氷河の通った跡は尾根の先端が切られて切断山脚となっていることがある。水流と違って、氷河は尾根が流下方向に対してある角度で交わり、障害物となっていても、よけて流れないからである。

 断層によって陥没した低地は断層谷という。断層運動による変位の結果生じた谷が断層谷で、断層線に沿う選択侵食の結果生じた谷は断層線谷とよび、侵食谷の一種であるから区別する。ほぼ平行する2本以上の断層によって限られ、陥没した低地を地溝とよび、東アフリカ地溝帯、ライン地溝帯のように川がその中を流路とすることもある。褶曲の向斜軸に沿って発達する谷を向斜谷といい、背斜軸に沿って発達する谷を背斜谷という。向斜谷の場合、向斜部の凹地がそのまま谷を形成するが、背斜谷の場合には、背斜部分が侵食されて周囲よりも低くなったのちに谷を形成する。逆に、向斜部が背斜部よりも硬い岩石からできていて、侵食の速さが異なると向斜山稜(さんりょう)を生ずる。アメリカのアパラチア山地にはこのような地形の逆転した例が多くみられる。向斜谷も背斜谷も縦谷をなす。新潟県の頸城(くびき)丘陵と魚沼(うおぬま)丘陵に挟まれた信濃(しなの)川の中流部では褶曲軸に沿った方向に発達する谷がみられる。

 乾燥地域では、谷があっても普段は水が流れず、豪雨の直後だけ水流をみる。砂漠では水流が発生しても末無川(すえなしがわ)となることが多く、ワジwadiまたはアロヨarroyoとよばれている。恒常水流がないために流路は絶えず移動し、下流部では谷の形が不明瞭になることもある。

 侵食作用によって河床の縦断面が平滑化したのちに地盤運動、海面変化、気候変化、河川争奪などの原因により谷の若返りまたは回春がおこる。

 海面下にも谷は存在するが、これは海底谷とよばれる。もと陸上にあった谷が海面下に没した谷で大陸棚(だな)を浅く刻むものと、大陸棚斜面を深く刻んで深海底にまで達するものとがある。後者は陸地と無関係に生じたもので、断層、地すべり、混濁流によると考えられている。とくに深くて狭い谷を海底チャネルとよぶことがある。

[髙山茂美]


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改訂新版 世界大百科事典 「谷」の意味・わかりやすい解説

谷 (たに)
valley

山や丘の間にはさまれた細長い低地。山や尾根に対する語であるが,山と谷とはひとつづきの地形で,山腹斜面は見方を変えれば谷壁斜面といえるように,山と谷との境は一般にはっきりしない。尾根と谷の場合も両者の境は漸移的である。湿潤地域では谷底を川が流れる。水が流れていない谷を涸谷(かれだに)という。谷の成因については古くギリシア時代から議論の的となった。18世紀にもまだ,谷が天変地異によって突然形成されたものであるという誤った認識が根強く残っていたが,レオナルド・ダ・ビンチはさすがに谷が水流の長年にわたる浸食の結果であるという正確な洞察をもっていた。

 谷が川や氷河の浸食作用によって形成された場合に浸食谷といい,断層や褶曲などの構造運動によって生じた谷を構造谷という。地球上の谷の大部分は浸食谷である。谷の横断面の形によって谷底の平らな平底谷または床谷,谷壁斜面が緩やかな凹形を示す盆谷,谷底に平地を欠く欠床谷またはV字谷などに分けることができる。谷壁斜面が垂直に近く,谷の幅の狭いものを峡谷という。山脈や地層の走向と平行に延びる谷を縦谷といい,山脈を横切る谷を横谷という。ヒマラヤ山脈とトランス・ヒマラヤ山脈の間を流れるブラフマプトラ川,インダス川の上流部は縦谷を成すが,両川ともヒマラヤ山脈を横切って流れ,横谷となる部分がある。ふつうは川が山脈を横切って流れることはできないから,横谷の部分の川の流路は山脈ができる前からそこを流れていた先行川や表成川の場合,また山脈を横切る断層に沿って谷が延びた場合などのように特殊な条件下で生ずる。北アメリカ大陸のアパラチア山脈には横谷が多い。日本でも雄物川などにその例が見られる。

浸食谷の大部分は川の浸食によって生じた河谷である。長江(揚子江)のような大きい川でもその水源は觴(さかずき)を濫(うか)べる程度であるというたとえから,濫觴(らんしよう)は水源,起源を意味する。そのようなわずかな水が流れている所で大きな谷を形成することはできない。谷のでき始めは雨が降ったときだけ水が流れる細い溝が地表面に刻まれたときで,その溝を雨裂という。雨裂が深くなり,幅を増すとしだいに小さな谷に成長する。ふだんは水の流れない涸谷の谷底が地下水面に達すると常時水が流れるようになる。水流は谷底や側面を浸食しながら幅と深さを増す。幼年期の谷(幼年谷)では下方浸食が卓越するから谷は深く,側面は急斜面となる。下方浸食のさかんな谷の横断面はV字谷となり,谷底には滝や早瀬があって縦断面も不連続である。谷底の不連続な縦断面は滝や早瀬の消失によってしだいに滑らかな曲線となり,谷壁斜面の後退により谷幅も広がる。谷底には薄い堆積物が基盤岩石をおおい,床谷となる。このような谷を壮年谷とよぶ。下方浸食はほとんどやみ,谷壁斜面の傾斜がさらに緩やかになり,谷底平地に移りかわるようになると盆谷を生ずる。谷幅は広がって,縦断面の傾斜も緩やかになるので,川は蛇行しながらゆっくりと流れるようになる。このような状態に達した谷を老年谷とよぶ。

 このように谷の発達の段階によって幼年谷,壮年谷,老年谷に分けると,欠床谷は幼年谷,床谷は壮年谷,盆谷は老年谷の地形的特徴をほぼ表すと考えられているが,最近では浸食輪廻と谷の横断形との対応関係に疑問がもたれ,気候条件の差異によって形が異なるという説も有力になってきた。例えば,熱帯サバンナでは雨季に浮流物質が増加するが,谷は深く下刻されず盆状谷を形成する。化学的風化作用も雨季に周期的に働き削剝作用はその生産物を除去する程度に効果的に働く。熱帯湿潤地域では,形態や堆積物に若干の差はあっても深く掘りこんだ谷を形成し欠床谷が発達する。このように,欠床谷と盆谷とは必ずしも一つの浸食輪廻の系列に属するとは限らないで,降水量配分,気温を含めた気候条件の差異によると考えられる。

 氷河の浸食作用によって生じた谷を氷食谷または氷河渠(きよ)という。一般に谷底が平たんで,谷壁斜面は垂直に近い急崖をなすのでその横断面の形からU字谷とよばれる。水流の浸食が線的に働いてV字谷を形成するのに対して氷河の浸食は面的に働くためにこのような対照的地形を作る。氷河の浸食作用は固体物質どうしがぶつかり合うので,氷河擦痕(さつこん)とよばれるすり傷が谷壁や谷底に残ることがある。氷河によって運ばれる岩片も圧しつぶされて粉になったり,すり傷を表面に残すものがある。氷食谷は河谷に比べて屈曲が少ない。氷河は水流と違って,尾根が谷の中へ延びていても,これをよけて流れないから氷河の通ったあとで尾根の先端が切り取られて切断山脚を生じることも珍しくない。氷食谷の縦断面は河谷に比べて凹凸が多く,上流から下流に向かって階段状の縦断形をつくり,氷食谷階段とよばれる。氷食作用のメカニズムについてはわかっていないことも多い。とくに氷河底で行われる岩盤の削剝作用や谷氷河の谷頭にできる椀形のカール(圏谷)の拡大に凍結破砕作用が大きな役割を果たしていると考えられているが,不明な点も多い。

構造谷の大部分は断層運動が原因となってできた断層谷である。紀ノ川,吉野川などの谷はその代表例である。ほぼ平行する2本以上の断層によって切られ,陥没した細長い低地を地溝という。東アフリカ地溝帯,ライン地溝帯のようにきわめて大規模なものがある。厳密には断層運動による変位の直接の結果生じた谷を断層谷といい,断層線に沿って弱い部分を選んで浸食が行われた結果生じた谷を断層線谷として区別する。断層線谷は浸食谷の一種だからである。日本では断層谷が多く,断層線谷の例は少ない。褶曲の向斜軸に沿って発達する谷を向斜谷,背斜軸に沿うものを背斜谷という。向斜部が谷をなすときには背斜部が山稜をなすので褶曲構造に順応した平行する山脈と縦谷の列を生ずる。しかし,背斜部に軟らかい岩石が現れるとかえってここが浸食されて低い縦谷となる。逆に向斜部が硬い岩石から成り,周囲に比べて浸食されにくいと向斜山稜となって残る。アパラチア山脈にはこのような地形の逆転の例が豊富にあり,アパラチア(式)地形とよばれる。

谷が浸食輪廻の進行に伴ってある時期まで達した後に,地盤運動,気候変化などの原因により下方浸食が増大すると谷の若返りまたは回春が起こる。浸食の復活の結果,縦断面には滝や早瀬などの遷移点を生じ,谷壁階段,谷中谷,河岸段丘などをつくる。谷底平地をもつ谷に回春が起こると川が谷底平野面に谷を刻み,階段状の地形をつくる。もとの流路は新しい谷底より高い位置に河岸段丘として残る。現在の谷床よりはるかに高い所にあって,小規模かつ断片的に分布する以前の谷床を谷壁階段とよぶ。回春によって新たに刻まれた谷は以前の広い谷の中に谷をつくり谷中谷とよばれる。平野の中を自由蛇行して流れていた川の流域が隆起などを受けて浸食を復活させると,もとの流路を保ちながら下方浸食を続け,穿入蛇行谷を形成する。また,川の流路を横切って土地が隆起した場合に,川の下方浸食の速さが隆起の速さにうちかったところでは以前の流路を維持し,先行谷となって山脈を横切り横谷となる。地表の起伏と無関係にもとの流路を維持し,硬い岩層から成る凸部を横切って峡谷をなすものに表成谷がある。

谷は海面下にもあり,もとは陸上にあった谷が沈水して海面下に没した海底谷または陸棚谷と,大陸棚斜面を深く刻んで深海底に達する本来の海底谷がある。東京湾,相模湾,富山湾には陸上の谷が沈水した海底谷が発達している。これらの海底谷は陸上の川の延長上にあるが,後者の狭義の海底谷は陸地と無関係に生じたもので,とくに谷壁斜面の傾斜が急で,幅が狭く深い谷を深海チャネルとよぶ。この中には水深が3000mに達するものがあり,単なる沈水だけで説明がつかないものは断層,地すべり,混濁流などによって生ずると考えられている。陸棚谷は大陸棚を浅く刻む程度であるが,狭義の海底谷の上端はふつう大陸棚斜面上部に始まって深海に達し,末端に海底扇状地をつくる。
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普及版 字通 「谷」の読み・字形・画数・意味


常用漢字 7画

[字音] コク
[字訓] たに・きわまる

[説文解字]
[甲骨文]
[金文]

[字形] 象形
谷の入口の形。〔説文〕十一下に「泉出でて川にずるを谷と爲す。水ば見えて口より出づるに從ふ」とするが、金文の字形は、左右から山がせまり、谷口が低く狭まった形で∨形をなすことを示す。口の部分は、字の初文では∨形に作る。卜文には(さい)形に作り、谷口を聖所として祀る意である。

[訓義]
1. たに、山峡のくぼみ。
2. みぞ、みち、細いみち。
3. 極と通じ、きわまる。
4. 穀と通じ、よい、やしなう、そだてる。
5. 卻と通じ、しりぞく、さる。

[古辞書の訓]
〔名義抄〕谷 タニ・フカシ・キハム・ヤシナフ・ココ

[部首]
〔説文〕に谿・(しゆん)など七字、〔玉〕になどを加えて、二十八字を属する。

[声系]
〔説文〕に俗・裕・欲・浴など七字を谷声として収めるが、これらはみな谿谷の谷と声義ともに異なる。容は神に祈って、彷彿としてその容のあらわれる意。裕・欲・浴はみなその祭儀にかかわる字で、口は祝告、その上は彷彿の気を示す字であり、声系もまた壑谷の谷と異なる。

[語系]
谷kokは壑xakと声義近く、また、坑kheang、坎kham、陷(陥)heamも同系の語で、みな地の坎陥(かんかん)するところをいう。極gikと声近く「きわまる」と訓し、(穀)kokと同声にして「やしなう」と訓する。

[熟語]
谷飲・谷雨・谷雲・谷王・谷閣・谷間・谷気・谷・谷響・谷口・谷谷・谷処・谷神・谷水・谷泉・谷底・谷道・谷畔・谷風・谷辺・谷量
[下接語]
飲谷・雲谷・淵谷・回谷・開谷・崖谷・壑谷・寒谷・谷・岸谷・巌谷・帰谷・穹谷・窮谷・虚谷・峡谷・空谷・渓谷・谿谷・谷・荒谷・高谷・山谷・出谷・峻谷・浚谷・深谷・谷・泉谷・遷谷・大谷・中谷・通谷・洞谷・万谷・盤谷・幽谷

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百科事典マイペディア 「谷」の意味・わかりやすい解説

谷【たに】

地表にできた狭く長いくぼ地。浸食作用でできる河谷や氷食谷が一般的だが,そのほかに断層運動で直接生じる断層谷,断層線に沿った浸食で生じる断層線谷,褶曲(しゅうきょく)運動でできる向斜谷,背斜部が浸食されてできる背斜谷などがある。降雨により形成される小谷を雨裂といい,雨裂が深くなり地下水面に谷底が達すると絶えず流水をみるようになる。土地の最大傾斜方向に流れるものを必従谷,傾斜方向に関係なく流れるものを無従谷,傾斜方向と反対に流れるものを逆従谷という。谷の両岸が切りたった崖からなるものは峡谷,山脈の走向に対して直角に横断する谷は横谷(先行谷),山脈の走向と一致して発達する谷は縦谷と呼ばれる。

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「谷」の意味・わかりやすい解説


たに
valley

細長い凹地。成因的に構造谷と浸食谷に分けられる。構造谷は地殻変動によって生じたもので,断層谷断層線谷など。浸食谷は河川,氷河などの外力によって形成されるものでV字谷,U字谷など。谷はそのほか,形態的に峡谷,欠床谷,床谷,盆谷あるいは横谷縦谷に分けられ,発達段階的に幼年谷,壮年谷,老年谷などに分けられる。

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世界大百科事典(旧版)内のの言及

【活字】より

…肩から上の字面は母型で形づくられ,それから下の部分は鋳型で形づくられる。字面と肩の間の凹所を谷といい,印刷のとき汚れたり紙型をとるとき支障が起こらないように,ある程度の深さを必要とする。ネッキは,活字の種類,大きさなどを判別する役目をし,足は活字のすわりをよくする。…

【谷戸】より

…谷間,湿地のこと。とくに武蔵と相模で多く使われている語。…

【海底地形】より

… 海溝trench長く狭くとくに非常に深くかつ非対称な海底の凹みで,比較的急峻な斜面を有する。 海谷valleysubmarine valley―比較的浅く幅広い凹みで,その底はふつう連続的な傾斜を示す。この用語は大部分にわたって峡谷状の特徴を有する地形に対しては一般に使用されない。…

※「谷」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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