能の曲目。二番目、修羅(しゅら)物。五流現行曲。世阿弥(ぜあみ)作。典拠は『平家物語』巻四の「橋合戦」「宮御最期(みやのごさいご)」。諸国一見の僧(ワキ)が宇治の里に立ち寄る。一人の老人(前シテ)が現れ、名所旧跡を教え、平等院に導く。そこが源頼政自決の地と知って僧が弔うと、今日が命日であり、自分が頼政の幽霊と名のって消えうせる(中入)。ありし日の装いで現れた頼政の亡霊(後シテ)は、高倉宮(たかくらのみや)を奉じての挙兵、宇治川の合戦と平家の敵前渡河の模様、扇の芝で自害を遂げた無念を語り、弔いを願って姿を消す。目に金の入った(能面では異次元の存在、執心の表現である)頼政専用面を用い、また法体(ほったい)を表現する独特の武装の扮装(ふんそう)である。同じく世阿弥の『鵺(ぬえ)』は、退治された鵺の側から頼政の栄光を描く。この二つの能は、浄瑠璃(じょうるり)『源三位(げんざんみ)頼政』『頼政追善芝』などに影響を与えた。なお『頼政』の能のパロディーに狂言の『通円(つうえん)』がある。
[増田正造]
能の曲名。二番目物。修羅物。世阿弥作。シテは源頼政の霊。旅の僧(ワキ)が宇治の里に赴くと,1人の老人(前ジテ)が現れて所の名所を教え,平等院に案内する。扇の形に残された芝を見て僧が質問すると,これは源頼政が扇を敷いて自害した跡だと説明し,自分こそその頼政であると名のって消える。夜になると,頼政の霊(後ジテ)が昔の戦場での姿で現れ,読経を頼み,敗戦のようすを物語る。平家に敗れた頼政軍は,奈良に赴く途中,高倉の宮の疲労がひどいので平等院に布陣し,宇治橋の橋板を外して敵を待ち受けた(〈クセ〉)。やがて川を挟んだ戦いとなったが,平家方の田原又太郎忠綱が馬を川に乗り入れ,兵をみごとに指揮して対岸に乗り上げた(〈語リ・中ノリ地〉)。この働きで味方は敗退し,老武者の頼政は自害したのだった。クセ・語り・中ノリ地など,後場の戦(いくさ)物語が中心だが,前場の〈名所教エ〉も味わいが深い。老武者物だがかなり強い動きを見せる。
執筆者:横道 万里雄
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
出典 日外アソシエーツ「歌舞伎・浄瑠璃外題よみかた辞典」歌舞伎・浄瑠璃外題よみかた辞典について 情報
…瘦男(やせおとこ)や蛙(かわず)は死相を表し,三日月や阿波男,怪士(あやかし)などは神性の表現に特徴がある。平太(へいた)と中将は特に武将の霊に用い,頼政や景清,俊寛など特定の人物への専用面も現れた。喝食(かつしき),童子など美貌若年の面のなかにも,蟬丸や弱法師(よろぼし),猩々(しようじよう)といった特定面ができてくる。…
※「頼政」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
各省の長である大臣,および内閣官房長官,特命大臣を助け,特定の政策や企画に参画し,政務を処理する国家公務員法上の特別職。政務官ともいう。2001年1月の中央省庁再編により政務次官が廃止されたのに伴い,...
10/29 小学館の図鑑NEO[新版]動物を追加
10/22 デジタル大辞泉を更新
10/22 デジタル大辞泉プラスを更新
10/1 共同通信ニュース用語解説を追加
9/20 日本大百科全書(ニッポニカ)を更新