大学が,政治的な統制,行政的な干渉,社会的な圧力を排して,研究・教育にかかわる自律的な権限をもつこと。今日,世界的に認められている大学の自治権の内容には,(1)教員の人事に関する推薦・選任・免職等の諸権限,(2)学長・学部長等内部管理者の選任権,(3)学則・内規等内部規程の制定権,(4)教育課程・カリキュラムの編成権,(5)学位取得資格の認定権と授与権,(6)施設の管理権,(7)入学者の選定権,卒業認定権などがある。また,(8)財政自主権をこれに加えることもある。大学の自治は中世のヨーロッパで,ローマ教皇や領邦君主たちの統制に対して学者・学生がギルド的な自主権を守ったことから発生したが,19世紀以降,近代国家権力の集中と整備のなかで,とくに国家権力に対抗する理念・制度として発展した(1837年のゲッティンゲン大学の七教授事件はその一例)。近代国家以前に大学が成立したヨーロッパと異なり,近代国家によって大学が創設された日本では,大学の自治,学問の自由は受難の歴史であり,第2次大戦前には滝川事件に代表されるように,教官人事権をめぐる干渉・抑圧などの事例が数多くみられるが,戦後は憲法23条の〈学問の自由〉規定の系(コロラリー)として大学の自治が承認されている。しかし,大企業を中心とする経済界の要請の強まりや,1960年代後半から70年代にかけての大学紛争などを経て,現代の大学の自治をめぐって新しい問題が生じている。すなわち(1)大学自治権の担い手は教授だけに限定されるか否か,学生・職員などの権利はこのなかにどう位置づけられるのか(自治権の主体をめぐる問題),(2)大学のマス化と量的拡大,国家・経済団体による要求,計画化の動向のもとで,個別の大学の自治はどのように機能すればよいか(高等教育の計画化と大学自治の関係の問題),(3)大学内部の官僚制化にどのように対応するか,などの問題は大学の自治にとって重要な課題である。
→学問の自由 →大学
執筆者:寺崎 昌男
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大学が、国家権力や社会権力など各種の外部勢力の圧力や干渉を排して、研究と教育を自主的・自律的に決定し遂行することをいう。ただ、この概念は優れて歴史的に形成されてきたもので(その歴史は中世ヨーロッパの大学にさかのぼる)、したがって、その内容はかならずしも既定ではなく、時代や国によって大きく異なる。日本においては、明治憲法下では、「大学の自治」に関する明文上の保障はなかった。しかし日本国憲法は「学問の自由は、これを保障する」(23条)と規定し、その理念と趣旨に基づいて、「大学の自治」は、直接、憲法的保障を受けていると解されている。また具体的には、学校教育法が教授会の必置原則を定めると同時に、これに対して重要意思決定権を保障し(93条1項)、さらに国立大学法人法も国に対して国立大学における「教育研究の特性への配慮」義務を課している。「大学の自治」の内容としては、今日、一般に次のような事項が含まれているとされる。(1)教官の人事に関する推薦・任命・免職権、(2)学則や各種の規程定立権、(3)学長・学部長等の選出権、(4)教育内容・方法・対象の自主決定権、(5)学位資格の認定・授与権、(6)大学施設の管理権、(7)財政自主権。ただ、これらに関する自治の強度は一様ではなく、また私立大学の場合は「私学の自由」の法的保障と相まって、そこにおける自治の内容や強度は国公立大学のそれとはやや異なる。「大学の自治」の主体については、1960年代後半のいわゆる大学紛争で、旧来の教授会自治が激しく批判され、学生参加が強く要求された。しかしその後若干の変革をみたものの、制度的にはその構造にほとんど変化はみられない。なお、高等教育の大衆化や科学の大型化時代を迎え、また国立大学の法人化や大学に対する認証評価制度の導入(2004年)などとも相まって、「大学の自治」はまた新たな課題に当面しているといえる。
[結城 忠]
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…このような変化の背後には,近代における国民国家の成立と資本主義の発展がある。大学は教会権力から国家権力のもとへ徐々に移行し,大学の自治・自由の問題も中世時代とは異なる形で問われるようになった。 一方,社会主義国家でも大学は独自の発達を遂げた。…
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