火山災害(読み)かざんさいがい

改訂新版 世界大百科事典 「火山災害」の意味・わかりやすい解説

火山災害 (かざんさいがい)

火山噴火はしばしば火山周辺の環境を破壊し災害をおこす。噴火の様式・規模はきわめて変化に富み,火山周縁の環境も多様なので,発生する災害の種類や規模もさまざまである。一般に噴火に直接起因する災害(一次災害)は最も頻度が高く,降下火砕物の落下堆積火砕流熱雲を含む),ベースサージ,ラハールなどの流下堆積,溶岩の流下,および毒性の強い火山ガスなどにより発生している。また,噴火に伴う空振,爆風,地震,津波,山体崩壊と岩屑流地殻変動,地形変化や,二次的に発生する土石流泥流洪水などによっても深刻な災害が発生する。このほか,火山ガス・火山灰により大気・水質汚染などもおこる。大噴火では環境の広域破壊により飢饉や病気が発生したり,成層圏エーロゾルの急増により気候変動のおこった例も知られている。世界では過去数百年間に火山噴火によって二十数万人以上の生命が失われている。日本では6世紀から今日まで少なくとも約1000回の噴火(群)が発生しており,2万0600人以上が噴火の犠牲となり,ほかに多数の負傷者を出している。日本を含む環太平洋域をはじめ,インドネシア,西インド諸島その他の島弧では爆発的な活動をおこす火山が多く,しかも人口密度が高いため,特に人命にかかわる災害が多発している。火山災害の軽減には噴火予知と災害予測にもとづく事前の対策が必要である。災害対策では降下火砕物のほか,特に破壊的な火砕流,ベースサージ,一次および二次泥流(ラハール)への考慮と,山体崩壊,津波の警戒が必要である。
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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「火山災害」の意味・わかりやすい解説

火山災害
かざんさいがい

火山活動によって引き起こされる災害。噴火に伴う山体崩壊や,地上に噴出した火山噴出物溶岩火山ガス火山砕屑物)によってもたらされる。特に,風の影響をほとんど受けずに弾道を描いて飛翔する直径 20~30cm以上の大きな噴石,高温の火山ガスと火山砕屑物が対流しながら高速で斜面を降下する火砕流,山頂付近の氷河や雪が溶けて土砂を巻き込んで流れる融雪型火山泥流海底火山や海域付近での噴火が招く津波は避難のための時間的猶予がなく,生命の危険につながる。一方,溶岩流は速度の遅いものが多く,人命が失われる事例は比較的少ない。小さな噴石や火山灰は風に乗って広く拡散し,航空機などの交通機関や農作物に被害を与える。火山ガスは有毒な成分を吸引すると健康被害を及ぼすほか,硫黄分を含んだガスが成層圏に入ると「火山の冬」などの異常気象を引き起こすこともある。噴火が沈静化しても,雨によって火山噴出物が流動する土石流は継続する。気象庁は火山活動に関する情報として,噴火警報・予報,降灰予報,火山ガス予報などを発表し,警戒を呼びかけている。

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知恵蔵 「火山災害」の解説

火山災害

火山の活動によって生じる多様な災害。火口から流れ出した溶岩流は、時に建造物や田畑を破壊する。噴火が爆発的な場合には災害も多様になる。空振による窓ガラスの破壊がある。火口から飛来する火山弾は、時に人身や家屋を直撃する。火山灰の堆積は、建物や農作物などに被害を与える。浮遊する火山灰は航空機の飛行の障害となり、また、成層圏まで上昇して異常気象を引き起こす。火砕流は山麓まで高速で流下するので、避難の暇を与えず、しばしば町村を全滅させる。山体崩壊によって生じる岩屑(がんせつ)なだれ、噴出物が降雨をきっかけに流下する土石流や泥流も極めて危険。泥流は、高温の噴出物によって氷雪が融かされた場合にも発生する(融雪泥流)。泥流などは河川や海に流れ込み、洪水や津波を起こして深刻な二次災害を生ずることがある。平常時でも火山ガスによる中毒死や窒息死の危険がある。

(井田喜明 東京大学名誉教授 / 2007年)

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