伝統的な社会的しきたりのことで、人類学や社会学では、英語のフォークウェイズfolkwaysの訳語として用いられてきた。このことばを使い始めたW・G・サムナーは、一般の社会的慣習(custom)をフォークウェイズとモーレス(mores道徳的慣習)に分けた。社会的ダーウィン主義者である彼は、恐怖心や性欲や飢餓感への本能的反応に由来する慣習が制度化されて強制力と制裁をもち、したがって権威に基づく拘束力をもつとき、これをモーレスとよび、それほどの強制力をもたないフォークウェイズと区別した。しかし、これでは社会的強制力の程度の差ということになり、その区別は厳密ではない。事実、慣習と習俗とは同義的に用いられることが多い。一般的用法では、冠、婚、葬などの人生儀礼や年中行事としての祭礼、共同労働などの習わしを意味することが多く、慣習は習俗を含む上位概念である。習俗は各共同体に独自の形態と内容をもち、成員に支持されると同時に、成員の行動様式を規制し、集団の統合を強化する機能をもつ。それは、わが国近世における若者組の掟(おきて)のように、なかば成文法化したものもあったが、多くは不文律である。また、親は子や孫に習俗を伝達しようとする。それが家庭や地域社会などにおける広義の教育であるが、これに対しては、ほとんどつねに、下の世代からの受容と拒絶とがある。そこに、習俗のみならず、文化体系そのものの持続性と変化のダイナミックスがある。
[丸山孝一]
『堀一郎著『宗教・習俗の生活規制』(1963・未来社)』▽『柳田国男編『歳時習俗語彙』(1939・民間伝承の会)』
日本語としての習俗の語は一般には慣習とほとんど区別されずに用いられ,また使い分ける場合も区別はあいまいである。傾向としては習俗は慣習のうち宗教,信仰,儀礼などにかかわるものに用いられることが多い。たとえば婚姻の習俗といえば婚姻の際の儀礼に中心が置かれ,婚姻の社会的規制は含まない場合が多い。しかしfolkwaysの訳語として厳密に概念規定された用語として使われることもある。folkwaysはアメリカの社会学者W.G.サムナーの造語で,彼は慣習customを習俗folkwaysと良俗あるいは道徳的慣行moresとに分けることを主張した。彼によれば,生存の欲求を充足させようとする努力は試行錯誤の末に一定の行動方式を選択するようになり,習慣habitが生じる。これが集団内で一致するようになると習俗となり,さらにこれに社会福祉に関する信念が加わって良俗(モーレス)が生じる。習俗は慣習のうち無意識的な標準的行動様式であり,規制力は弱いが,良俗は規制力,強制力がより強く,ここから道徳や法制度が生じる。
執筆者:板橋 作美
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…全体社会の下位集団たるもろもろの社会集団(家族,村落,職場,実業界等々)の各々の内部で,それぞれの歴史と実情に即した内容を持ち,独自の非組織的制裁に支えられている。徐々に自生的に生成,発展,衰退,消滅する慣習や習俗規範のみでなく,関係当事者間の個別的な合意や普遍妥当的な実定法規なども,上記のメカニズムによって支持されて,人々の日常的な行動を規定しているときは,生ける法といえる。このように,生ける法とは,社会の一般成員の日常の行動を現実に有効に規定する〈行為規則〉となっている行動型であり,規範的要素のみでなく事実的要素もその要件である。…
…それに従えば集団での生活がスムーズに営めるという便宜的なものにすぎず,それに反しても当人が不便な思いをするか,不自然だという感じを抱くだけで,集団からの非難・制裁は受けない。第2は,W.G.サムナーのいう習俗folkwaysである。それは,集団で伝統的に適切な行動様式だと是認されている標準的・慣習的規範を指す。…
…社会学の術語として,〈価値と規範〉というように価値という語と関連づけて説明されるのが通例であるが,その場合には,価値が一般的な望ましさの基準といった抽象度の高い,その意味で超越的,究極的なものを現すのに対し,規範はもっと具体的に特定状況のもとでの行為を指示するような基準にかかわる。規範は,(1)その違反に対して行使される処罰の性質がインフォーマルinformal(私的個人によって行使される処罰)か,フォーマルformal(国家権力によって行使される処罰)かの区分軸によって,慣習と法とに分けられ,(2)慣習はさらに,当該規範の拘束に対してこめられた集団感情が弱いか強いかによって,習俗(W.G.サムナーのいう〈フォークウェーズfolkways〉)と習律(サムナーのいう〈モーレスmores〉)とに分けられる。習俗は伝統とか世論のように拘束力の相対的に弱いものをさす言葉で,習律は個々人を拘束する力がもっと強く,道徳のように外からの強制力によるよりも内面的な自発性によって支えられているものをさす。…
※「習俗」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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