敦盛(読み)あつもり

精選版 日本国語大辞典 「敦盛」の意味・読み・例文・類語

あつもり【敦盛】

[1]
[一] 人名たいらのあつもり(平敦盛)」のこと。修理大夫平経盛の三男。無官大夫平敦盛
[二] 謡曲。二番目物。各流。世阿彌作。「平家物語」による。平敦盛の菩提を弔うため、敦盛を討った熊谷直実は出家して蓮生(れんしょう)と名を改め、一の谷に来る。そこに敦盛の霊が現われ、最期のさまを語る。
[三] 幸若舞曲。「平家物語」「源平盛衰記」の熊谷直実(なおざね)が平敦盛を討ち、出家した物語に取材したもの。浄瑠璃歌舞伎の素材となる。
[2] 〘名〙
※大和本草(1709)七「花の紫なるを為敦盛。花淡白を為熊谷
② (熱盛りを敦盛にかけたしゃれ) 「あつもりそば(敦盛蕎麦)」の略。
狂歌徳和歌後万載集(1785)五「よしつねはくはれぬそばのあつもりをくまかへ給へひらに平山

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デジタル大辞泉 「敦盛」の意味・読み・例文・類語

あつもり【敦盛】

平敦盛たいらのあつもり
幸若舞曲。平家物語などの、熊谷直実くまがいなおざねが平敦盛を討ち、無常を感じて出家した話に取材。
謡曲。二番目物世阿弥作。平敦盛の菩提を弔うため一ノ谷に来た蓮生れんしょうの前へ、敦盛の霊が現れて物語をする。

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改訂新版 世界大百科事典 「敦盛」の意味・わかりやすい解説

敦盛 (あつもり)

(1)幸若舞曲の曲名。作者,成立年次不詳。上演記録の初出は1567年(永禄10。《言継卿記》)。熊谷直実は一ノ谷合戦で心ならずも平敦盛を討つことになり,敦盛の父経盛に遺骸と遺品を届け書状を取りかわす。無常を感じた直実は法然上人を師として出家,蓮生坊と名乗って敦盛の菩提を弔い高野山蓮華谷智識院で大往生を遂げる。同じ説話は《平家物語》諸本にみられ,《源平闘諍録》に敦盛を討つのは皆輪次郎,直実が討つのは平成(業)盛とするなど異伝もあるが,比較的近い内容を持つのが延慶本。謡曲《敦盛》,《形見送(経盛)》(廃曲)も同材だが,本曲は発心譚的色彩が濃い。織田信長は田楽狭間の合戦に際し,本曲の一節〈人間五十年,下天の内をくらぶれば,夢幻のごとくなり,云々〉を舞って出陣した(《信長公記》など)と伝えて有名。また,室町期の物語草子や古浄瑠璃に敦盛の遺児を主人公とする《小敦盛》があり,謡曲に《生田敦盛》がある。
執筆者:(2)能の曲名。二番目物修羅物世阿弥作。シテは平敦盛の霊。僧となった熊谷直実(ワキ)が,ふたたび須磨を訪れると,笛の音が聞こえ,草刈りの若者たちがやってくる。〈樵歌牧笛(しようかぼくてき)〉の故事などを話題に言葉を交わしたが,若者の一人(前ジテ)は実は敦盛の霊の仮の姿であった。熊谷が夜もすがら念仏を唱えて弔っていると,敦盛の霊(後ジテ)が昔の姿で現れ,平家都落ちの感慨を物語り(〈クセ〉),思い出の舞を舞い(〈中ノ舞〉),戦死前後の様を述べ(〈中ノリ地〉)などするが,弔いを喜び,恨みを捨てて去って行く。クセ・中ノ舞・中ノリ地が中心。修羅の苦しみは強調されず,風雅に可憐な趣き。
執筆者:

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「敦盛」の意味・わかりやすい解説

敦盛
あつもり

能の曲目。二番目・修羅物。五流現行曲。『平家物語』に拠(よ)った世阿弥(ぜあみ)の作。一ノ谷で16歳の平敦盛を討った熊谷次郎直実(くまがいじろうなおざね)は、出家して蓮生(れんせい)法師(ワキ)となり、須磨(すま)の浦に下ってくる。草刈り男たち(前シテとツレ数人)の草笛の音にひかれ、蓮生はことばを交わし、1人残った男は弔いを願って消える。後シテは敦盛の亡霊が可憐(かれん)な武装で現れる。平家の一ノ谷の生活を語り、寄せ手を前にしての優雅な詩歌管絃(しいかかんげん)の遊びのありさまと、戦死の無念さを再現する。かつての敵もいまは法(のり)の友と、その弔いを受けて現れているものの、最期の怨念(おんねん)に亡霊は蓮生に太刀(たち)を振り上げるが、ふたたび心を翻して消えうせていく。修羅道の苦がまったく描かれていないのも特色である。類曲『生田敦盛(いくたあつもり)』では忘れ形見が子方として登場、父敦盛の霊と対面する。なお、織田信長が桶狭間(おけはざま)の奇襲にあたって舞ったのは幸若(こうわか)舞の『敦盛』。歌舞伎(かぶき)の『一谷嫩軍記(いちのたにふたばぐんき)』では、熊谷は敦盛の身替りにわが子小次郎の首を打つ趣向となっている。

[増田正造]

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歌舞伎・浄瑠璃外題よみかた辞典 「敦盛」の解説

敦盛
あつもり

歌舞伎・浄瑠璃の外題。
初演
元禄6.5(江戸・桐大蔵座)

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動植物名よみかた辞典 普及版 「敦盛」の解説

敦盛 (アツモリ)

植物。ラン科の多年草,園芸植物。アツモリソウの別称

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世界大百科事典(旧版)内の敦盛の言及

【熊谷直実】より

…一所懸命の地を守り,侍の身分であることを誇りとした東国武士の典型である。なお《平家物語》では,直実が出家したのは,一ノ谷合戦で平敦盛を討ち取ったことによるとしているが,これは史実ではない。【細川 涼一】
[伝承と作品化]
 熊谷直実は実在した武将であるが,伝承の世界でも話題に事欠かぬ人物である。…

※「敦盛」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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