(読み)キ

デジタル大辞泉の解説

き[五十音]

五十音図カ行の第2音。軟口蓋の無声破裂子音[k]と母音[i]とから成る音節。[ki]
平仮名「き」は「幾」の草体片仮名「キ」は「幾」の草体の楷書化から変化したもの。

き[助動]

[助動][(せ・け)|○|き|し|しか|○]活用語の連用形に付く。ただし終止形はカ変動詞には付かず、連体形・已然形は、カ変動詞の未然形・連用形、サ変動詞の未然形に付く。話し手または書き手の過去の直接経験を回想的に表す。…た。…たなあ。
「頼め来人をまつちの山風にさ夜更けしかば月も入りに」〈新古今・雑上〉
[補説]未然形の「せ」「け」は上代に「せば」「けば」「けく」の形で用いられ、「せば」は中古の和歌にも見られる。「け」「き」はカ変動詞から、「せ」「し」「しか」はサ変動詞から出たものという。カ変連用形からの接続形「きし」「きしか」という形が見られるのは中古からであるが、「きし」は「きし方(かた)」だけ、「きしか」は「着しか」の掛け詞としたものだけであるところから、「きし」を動詞「く(来)」の連用形に、完了の助動詞「ぬ」の連用形、過去の助動詞「き」の連体形の付いた「きにし」の音変化「きんし(じ)」の撥音無表記であるとして、カ変動詞の連用形からの接続を認めないという説もある。同じ過去の助動詞「けり」が伝承した過去を回想するのに対し、「き」は確実な過去の事実を回想する。→ありき

き[接尾]

[接尾]中古、童女などの名に付けて呼ぶ語。
「雀の子をいぬ―が逃がしつる」〈若紫

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大辞林 第三版の解説

五十音図カ行第二段の仮名。軟口蓋破裂音(実際の調音点は前寄りになり硬口蓋に近い破裂音)の無声子音と前舌の狭母音とから成る音節。
平仮名の「き」は「幾」の草体。片仮名「キ」は「幾」の草体の楷書化から。 〔奈良時代までは上代特殊仮名遣いで甲乙二類の別があり、発音上区別があったとされる〕

( 助動 ) ( (せ) ・○ ・き ・し ・しか ・○ )
活用する語の連用形に付く。しかし、カ変・サ変には、特別の接続をする。「き」の終止形はカ変には全く付かず、連体形・已然形がその未然形「こ」・連用形「き」に付く。また、サ変には、終止形「き」がその連用形「し」に付き、連体形「し」・已然形「しか」はその未然形「せ」に付く。動作・事柄が過去にあったことを述べる。
話し手が直接に体験したことを回想して述べる。 「去年も見しに花面白かり/蜻蛉 」 「たれこめて春のゆくへも知らぬまに待ち桜もうつろひにけり/古今 春下」 「佐保山をおほに見しかど今見れば山なつかしも風吹くなゆめ/万葉集 1333
直接に経験したことでなく、ただ、過去にあったことを述べる場合にも用いる。 「十月かみなづき雨間も置かず降りにばいづれの里の宿か借らまし/万葉集 3214」 「沖つ風いたく吹きば我妹子わぎもこが嘆きの霧に飽かましものを/万葉集 3616
上代には、未然形に「け」があり、「けば」「けく」などの形で用いられる。 「根白の白腕ただむきかずばこそ知らずとも言はめ/古事記 」 「蓴ぬなわ繰り延く知らにわが心しぞいや愚おこにして今ぞ悔しき/古事記 」 〔過去の助動詞「けり」が、伝承した過去の事実を回想するのに用いられるのに対し、「き」は話し手の直接体験した過去の事実を回想するのに用いられる〕

( 接尾 )
中古、女子の名に付けて呼ぶのに用いられる。童女の呼称に多い。 「雀の子をいぬ-が逃がしつる/源氏 若紫

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日本大百科全書(ニッポニカ)の解説


五十音図第2行第2段の仮名。平仮名の「き」も、片仮名の「キ」も、ともに「幾」の草体からできたものである。万葉仮名には2類あって、甲類に「支」「伎」「岐」「妓」「吉」「枳」「棄」「企」(以上音仮名)、「寸」「来」「杵」(以上訓仮名)、乙類に「奇」「寄」「綺」「忌」「」「貴」「幾」(以上音仮名)、「木」「城」(以上訓仮名)などが使われ、濁音仮名としては、甲類に「伎」「祇」「藝」「岐」(以上音仮名のみ)、乙類に「疑」「宜」「義」(以上音仮名のみ)などが使われた(「伎」「岐」は清濁両用)。ほかに草仮名としては「(支)」「(起)」などがある。
 音韻的には/ki/(濁音/gi/)で、奥舌面と軟口蓋(こうがい)との間より前寄りで調音される無声破裂音[k](有声破裂音[g])を子音にもつ。上代では、甲乙2類に仮名を書き分けるが、これは当時の音韻を反映したものとも考えられる。[上野和昭]

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精選版 日本国語大辞典の解説

〘接尾〙
① 神名につき、男子の名であることを表わす。
※古事記(712)上「次に伊邪那岐神(いざなキのかみ)、次に妹伊邪那美神(いもいざなみのかみ)
② 中古、女子の名につけて呼ぶ。童(わらわべ)の呼称に多い。
※源氏(1001‐14頃)若紫「雀の子をいぬきが逃がしつる」

〘助動〙 (活用は「せ・◯・き・し・しか・◯」。用言および助動詞連用形に付く。ただし、カ変には「こ‐し、こ‐しか、き‐し、き‐しか」の両様の付き方があり、サ変には「せ‐し、せ‐しか、し‐き」のように付く) 過の助動詞。→助動詞「けり」
① 話している時点からみて、その出来事が現在から切り離された過去の事実であることを表わす。和歌や会話文に用いられ、話し手の直接に見聞したことを表わす。
※古事記(712)中・歌謡「さねさし 相模(さがむ)の小野に 燃ゆる火の 火中に立ちて 問ひ斯(シ)君はも」
※万葉(8C後)一・一四「香具山と耳梨山とあひ之(シ)時立ちて見に来之(シ)印南国原(いなみくにはら)
② 物語の現段階からみて、ある出来事がそれより以前に起こったことを表わす。物語・日記・随筆などの地の文に用いられ、語り手が直接見聞した以外のことも表わす。
※土左(935頃)承平五年二月九日「かく上る人々の中に、京より下りし時に、みな人、子どもなかりき」
※今昔(1120頃か)二四「其より返て三日許有て、共に彼の槁にて月を見し人の許に」
[語誌](1)存在態の「あり」を含む「けり」に対して、「あり」を含まない「き」は、出来事が時間的にへだたって存在し、目の前にないことを表わす。
(2)「き」の活用は、カ行系の活用とサ行系の活用の取り合わせである。そのうち、少なくとも「し」は、次の例に見られるように古くは変化の結果の状態(口語の「…している」の意味)を表わした。「古事記‐中・歌謡」の「みつみつし 久米の子らが 垣下に 植ゑ志(シ)(はじかみ) 口ひひく 吾は忘れじ 撃ちてし止まむ」など。なお、後世にも、「我がそのの咲きし桜を見渡せばさながら春の錦はへけり」〔為忠集〕のように、変化の結果の状態の意味を表わす例が存在するが、これは口語の「た」の用法に引かれこうした用法が生じたものである。
(3)未然形「せ」は、常に接続助詞「ば」に連なって「…せば」の形をとり、多くは「まし」と対応して、現実には存在しない事柄を仮想する条件句を作る。上代語、および中古の和歌に主として用いられる。「古事記‐中・歌謡」の「一つ松 人にあり勢(セ)ば 太刀(たち)(は)けましを」、「万葉‐三二一四」の「十月(かむなづき)雨間(あまま)もおかず降りに西(セ)ばいづれの里の宿か借らまし」、「古今‐春上」の「世中にたえてさくらのなかりせば春の心はのどけからまし〈在原業平〉」などがある。なお、この「せ」は、古代日本語においてサ変動詞と関係があったとする説がある。
(4)上代には、「常陸風土記‐香島・歌謡」の「あらさかの 神の御酒を たげと 言ひ祁(ケ)ばかもよ 我が酔ひにけむ」、「古事記‐下・歌謡」の「根白の 白腕(しろただむき)(ま)かず祁(ケ)ばこそ 知らずとも言はめ」の「け」を、仮想的意味になるので、「き」の未然形とする説がある。→助動詞「けむ」
(5)連体形「し」が、係結びの場合でなくて文の終わりに用いられることがある。「源氏‐夕顔」の「君は、御直衣姿にて、御随身(みずゐじん)どももありし」などは、「連体止」による詠嘆的表現、「徒然草‐三二」の「その人、ほどなく失せにけりと聞き侍りし」や「浮・西鶴織留‐三」の「貧者は我と身を引て、わづか成乱銭(みだけぜに)のそばへも寄かね、心にやるせなかりし」などのような中世以降の例は、口語動詞の連体形が終止形にとって代わったのと相応じて、単なる終止用法へと変化したものと考えられる。
(6)中世以降は文語の和歌や軍記では用いられていたが、その用法は限られており、軍記では、次のように待遇表現をともなう丁重な会話文に用いられるのみであった。「太平記‐七」の「城中の搆を推し出して、水を留て候しに依て、敵程なく降参仕候き」など。
(7)近世以降、サ行四段活用の動詞に付く場合、「…しし」とならないで「…せし」となる場合が多くなる。「仮・恨の介‐上」の「なかにもくずの恨の介と申せし人は」、「読・雨月物語‐白峯」の「これ経をかへせし諛言(おもねり)の罪を治めしなり」など。明治三八年(一九〇五)の「文法上許容すべき事項」には「佐行四段活用の動詞を助動詞の『し・しか』に連ねて『暮しし時』『過ししかば』などいふべき場合を『暮せし時』『過せしかば』などとするも妨なし」とある。

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