(読み)カスミ

デジタル大辞泉 「霞」の意味・読み・例文・類語

かすみ【×霞】

空気中に浮かんでいるさまざまな細かい粒子のため、遠くがはっきり見えない現象。また、霧や煙が薄い帯のように見える現象。「がたなびく」 春》「指南車を胡地に引去る―かな/蕪村
(「翳み」と書く)視力が衰えて、物がぼんやりと見えること。「目にがかかる」
色紙・短冊などの上方を絵の具や金粉などでぼかした模様。大和絵では場面転換や空間の奥行などを示すために雲形に描かれる。
衣類などが日に焼けて変色すること。
「袖口の毛繻子に褐色ちゃの―が来て居るのを」〈緑雨・油地獄〉
朝または夕方、雲に日光が当たって赤く見える現象。朝焼け夕焼け。〈和名抄
酒のこと。
「―を入るる徳利一対」〈大句数・五〉
[補説]1は、平安時代ごろから春のは霞、秋のはと区別されるようになったが、上代では、その区別は定かでなく、春秋どちらにも両者が使われていた。
[類語]ガススモッグ光化学スモッグ朝靄夕靄夕煙雲霞朝霞夕霞春霞煙霞

か【霞】[漢字項目]

人名用漢字] [音]カ(漢) [訓]かすみ かすむ
かすみ。もや。「雲霞煙霞
朝焼けや夕焼け。「晩霞

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精選版 日本国語大辞典 「霞」の意味・読み・例文・類語

かすみ【霞】

  1. [ 1 ] ( 動詞「かすむ(霞)」の連用形の名詞化 )
    1. 空気中に広がった微細な水滴やちりが原因で、空や遠景がぼんやりする現象。また、霧や煙がある高さにただよって、薄い帯のように見える現象。比喩的に、心の悩み、わだかまりなどをいうこともある。《 季語・春 》
      1. [初出の実例]「ひばり上る春へとさやになりぬれば都も見えず可須美(カスミ)たなびく」(出典:万葉集(8C後)二〇・四四三四)
    2. 朝または夕方、雲や霧に日光があたって赤く見える現象。朝焼け。夕焼け。
      1. [初出の実例]「霞 唐韻云霞〈胡加反 和名 加須美〉赤気雲也」(出典:十巻本和名抄(934頃)一)
    3. (さけ)の異称。
      1. [初出の実例]「顕等喫雲飲霞又喫瓜」(出典:蔭凉軒日録‐延徳三年(1491)六月二七日)
    4. 酒または酢などを温める時に出る湯気。
      1. [初出の実例]「サケノ casumiga(カスミガ) タツ」(出典:日葡辞書(1603‐04))
    5. ( 「翳」とも書く ) 視力が衰えてはっきり見えないこと。
      1. [初出の実例]「年よりの眼よりたつ霞かな〈為春〉」(出典:俳諧・犬俤集(1615‐22頃))
    6. 衣類などが、日に焼けて変色すること。
      1. [初出の実例]「黒の太利(ふとり)とかいふ袢纏の、袖口の毛繻子に褐色(ちゃ)の霞(カスミ)が来て居るのを」(出典:油地獄(1891)〈斎藤緑雨〉六)
    7. 大和絵で時間的経過、場面の転換、空間の奥行きなどを示すために描かれる雲形の色面。多くは絵巻物に用いられた。
    8. かすみあみ(霞網)」の略。
      1. [初出の実例]「てんのあみ 小鳥を捕あみ也。〈略〉京にては、かすみといふ」(出典:物類称呼(1775)四)
  2. [ 2 ]かすみがせき(霞が関)」の略。
    1. [初出の実例]「小百万石もかすみの中に見え」(出典:雑俳・柳多留‐一三(1778))

霞の語誌

古く「かすみ」と「きり」が同様の現象を表わし、季節にも関係なく用いられたことは、「万葉‐八八」の「秋の田の穂の上(へ)に霧相(きらふ)朝霞」などの例で知られるが、「万葉集」でも、「かすみ」は春、「きり」は秋のものとする傾向が見えており、「古今集」以後は、はっきり使い分けるようになった。現在の気象学では、視程が一キロ以上のときは「靄(もや)」、一キロ未満のときは「霧」とし、「かすみ」は術語としては用いない。

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普及版 字通 「霞」の読み・字形・画数・意味


人名用漢字 17画

[字音]
[字訓] かすみ

[説文解字]

[字形] 形声
声符は(か)。〔説文新附〕十一下に「赤き雲气なり」とあり、夕やけどきなどに、遠くたなびく霧をいう。に小赤の意があり、また遐遠の意がある。

[訓義]
1. かすみ、あさやけ、ゆうやけ。
2. かすんだ状態、ひがさ、なまめかしい。
3. 遐と通じ、はるか、とおい。

[古辞書の訓]
和名抄〕霞 加須美(かすみ)〔名義抄〕霞 カスミ 〔字鏡集〕霞 カスミ・タナヒク

[語系]
霞・瑕・蝦heaは同声。声の字に少しく赤色を含んだものの意がある。霞に遐遠の意もあり、〔楚辞、遠遊〕の「登霞」は登遐(死去、上天)の意。

[熟語]
霞衣・霞暈・霞影・霞花・霞外・霞閣・霞冠・霞観・霞起・霞輝・霞挙・霞裾・霞衾・霞臉・霞光・霞彩・霞際・霞燦・霞觴・霞章・霞人・霞刹・霞川・霞箋・霞想霞態・霞梯霞洞・霞杯霞珮・霞・霞表霞雰・霞文・霞片・霞嶺
[下接語]
飲霞・雲霞・映霞・煙霞・海霞・綺霞・暁霞・凝霞・金霞・錦霞・孤霞・紅霞・虹霞・香霞・彩霞・山霞・散霞・霞・残霞・紫霞・朱霞・収霞・春霞・初霞・晨霞・新霞・翠霞・栖霞・晴霞・夕霞・赤霞・川霞・仙霞・早霞・蒼霞・丹霞・澹霞・朝霞・汀霞・霞・吐霞・登霞・晩霞・披霞・飛霞・碧霞・暮霞・明霞・落霞・流霞・凌霞

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改訂新版 世界大百科事典 「霞」の意味・わかりやすい解説

霞 (かすみ)

修験道における,縄張とも言える支配地域のこと。修験当山派では有力修験寺院(先達)が末端山伏を人と人とのつながりを通して組織化したため,地域単位の支配は行わず,霞という言葉も用いなかった。これに対して修験本山派では,院家(京都の若王子,住心院など)などの先達が1国1郡単位の支配地域を霞と呼んで統轄し,これを聖護院門跡が保障するという,地域単位の組織化を進めた。院家などの先達は,在地の有力修験者(年行事や触頭)に霞支配を委任して得分を上納させた。各地域の末端には同行山伏がおり,堂や祠を拠点にして村落住民に対して祈禱活動や守札配付を行って,本山や先達への上納金を納めた。同行山伏も自己の活動できる地域(数ヵ村)を霞と呼んでいた。すなわち,先達や年行事,触頭にとっての霞と,末端山伏にとっての霞とでは,その規模と権利内容は異なるが,いずれにとっても自己の支配地域すなわち縄張という意味で用いられていた。
執筆者:


霞(気象) (かすみ)

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「霞」の意味・わかりやすい解説


かすみ

遠景がぼんやりと見えている現象。また別に、焼けの現象。朝霞といえば朝焼けをさす。和歌や俳句は前者の意に用いているが、漢詩では後者の場合が多い。

 遠景がぼんやりと見えるのは、大気中に細かな水滴やちりなどが平常よりは増えているときであり、気象的には薄い霧、もや、黄砂、煙などの場合が考えられる。どの場合も風が静かである。吹雪(ふぶき)によって遠景がぼんやりすることがあるが、そのようなときは霞とはいわない。

[平塚和夫]

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「霞」の意味・わかりやすい解説


かすみ

絵画用語。日本絵画における重要な技法の一つ。霞の使用は画面に空間的な広がりを与えると同時に,場面の時間的,空間的な展開を示すのに有効。周囲をぼかし自然な空白をとった霞はすでに平安時代よりみられるが,鎌倉時代の特に絵巻においては「すやり霞」と呼称される,画面に横にたなびく定型化した霞が多用されている。中世以後は横長の霞や弧線による雲形の使用が増すと同時に,その装飾化が強まった。


かすみ
mist

大気中に浮遊する微細な水滴あるいは微小粒子のため天空がぼんやりして見える現象。日本では古来から春霞などと使われてきたが,気象学の専門用語ではなく,天気予報では用いない。

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百科事典マイペディア 「霞」の意味・わかりやすい解説

霞【かすみ】

山など遠くの景色がかすんで見える現象で,薄い層雲,もや,煙霧を通して見た場合のもの。春霞はこれ。また秋の日の夕方,農村でもみがらを焼く煙などが高くは上らず,樹木の高さに水平方向に広がることを霞たなびくという。いずれも気温の逆転層の存在が関係する。

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とっさの日本語便利帳 「霞」の解説

空気中に浮かぶ水滴、ちり、火山灰やスモッグ、靄(もや)などにより遠くがはっきり見えない現象。気象学的定義はない。夜の霞が朧(おぼろ)。

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デジタル大辞泉プラス 「霞」の解説

石材の名。山口県美祢市で産出される大理石、美祢大理石のひとつ。

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ASCII.jpデジタル用語辞典 「霞」の解説

「KASUMI」のページをご覧ください。

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世界大百科事典(旧版)内のの言及

【霧】より

…目の高さの水平視程は1km以下であるが,天空がかすかにでも見えるくらいのものを〈低い霧〉,目の高さの水平視程はよくても地面に近いところに霧のある場合を〈地霧〉と呼んでいる。また,霧やもやに似た現象に霞(かすみ)がある。霞は気象観測上の用語ではなく,煙や雲がたなびいたり,霧やもやなどのため遠景がぼやけて見えることを一般に霞と呼んでいる。…

【当身技】より

…当(あて),当身,当技(あてわざ)ともいう。人体の急所とされる天倒(てんとう)(頭頂部),烏兎(うと)(みけん),霞(かすみ)(こめかみ),人中(じんちゆう)(鼻下),水月(すいげつ)(みぞおち),明星(みようじよう)(下腹部),電光(でんこう)(右ひばら),月影(げつえい)(左ひばら),釣鐘(つりがね)(睾丸),ひざ関節などを,こぶし,指先,ひじなどで突いたり,こぶし,手刀などで打ったり,ひざ,蹠頭(せきとう),かかとなどでけったりして相手に苦痛をあたえ参らせる技である。現在は乱取(らんどり)(自由練習)や試合における勝敗が中心となり,投げ技と固め技だけが使われ,当身技は危険であるので禁じられているため,活用がおろそかになっている。…

【立回り】より

…〈胸どめ〉=甲が切ってくるのを乙が刀の峰で胸のところで受ける。〈霞〉=甲乙が後ろ前に位置し,乙は下にいて,甲乙が右左と交差して刀を一文字に流す。〈唐臼(からうす)〉=双方が刀を上段に構え右足から入れ違いながら切りおろす,これを2度くり返す。…

※「霞」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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