なり(読み)ナリ

デジタル大辞泉 「なり」の意味・読み・例文・類語

なり[接助・副助・並助]

[接助]動詞・動詞型活用語の終止形に付く。
ある動作・作用が終わったと同時に、他の動作・作用が行われる意を表す。…するとすぐに。「玄関に入るなり、異様な気配に気づいた」「床に就くなりいびきをかきはじめた」
助動詞「た」に付いて)ある動作が成立して、それが継続している意を表す。そのままの状態で。…したまま。「出て行ったなり帰ってこない」「絵を見つめたなりまばたき一つしない」
[副助]名詞、名詞に準じる語、副詞、活用語の終止形、助詞などに付く。それ以外にも適当なものがあるという気持ちを含めて、ある事柄を例示的に示す意を表す。…でも。「彼になり相談したらいい」「電話なりしてください」
[並助]並列・列挙した中から、どれか一つを選択する意を表す。…か…か。「兄さんなり姉さんなりに教えてもらいなさい」「御飯にするなりお風呂に入るなり早くして」「大なりなり
[補説]「なり」は文語の断定の助動詞「なり」から転じたもので、近世以降、助詞として用いられた。ただしについては「形・ようす」の意の名詞「なり」からの転という説もある。は「なりと」「なりとも」となる場合もある。は「…なり…なり」となるのが普通であるが、後の「なり」が省略される場合もある。

なり[助動]

[助動][なら|なり・に|なり|なる|なれ|なれ]《格助詞「に」+ラ変動詞「あり」の音変化》体言および体言に準じるもの、活用語の連体形形容動詞の語幹、助詞「と」「て」「ば」などに付く。
断定の意を表す。…だ。…である。
「そのとき、右の馬のかみなりける人を常にておはしましけり」〈伊勢・八二〉
(主に連体形「なる」の形で)存在の判断を表す。…にある。…にいる。…にあたる。
「小諸なる古城のほとり雲白く遊子悲しむ」〈藤村・千曲川旅情の歌〉
「さるべき故ありて東山なる所へ移ろふ」〈更級
(多く根拠を示す語を伴い文末に用いて)事柄を説き示す意を表す。…のである。…からである。
「都へと思ふを物の悲しきは帰らぬ人のあればなりけり」〈土佐
(人や物などに付いて)「という」の意を表す。→たり
「顔回なる者あり。学を好む」〈論語雍也ようや
[補説]連体形「なる」は室町時代に「な」となり、口語の助動詞「だ」の連体形に、未然形「なら」は同じく仮定形に用いられるようになった。4漢文訓読からの用法。また終止形を「也」と書いて、「金参万円也」のように、証書などで金額にそれ以下の数字がないことを示すのに用いる。

なり[助動]

[助動][○|(なり)|なり|なる|なれ|○]活用語の終止形に付く。平安時代以後は、ラ変形活用語には連体形に付く。
音や声が聞こえるという意を表す。
㋐…の音や声が聞こえる。
「みとらしのあづさの弓の中弭なかはずの音すなり」〈・三〉
㋑他から伝え聞いたことを表す。…そうだ。…ということだ。…と聞いている。
「また聞けば、侍従の大納言御女むすめなくなり給ひぬなり」〈更級
㋒音・声やうわさなどに基づく推定を表す。…するようだ。…しているらしい。
「呼びわづらひて笛をいとをかしく吹きすまして過ぎぬなり」〈更級
詠嘆の気持ちを表す。…であることよ。…ているよ。「枕に身を愛すなりおぼろ月/蕪村
[補説]一般に伝聞推定の助動詞とよばれ、語源については「」「鳴る」「泣く」などの「ね」「な」に「あり」が付き、融合したとみる説が有力である。2は近世に生じた用法。

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精選版 日本国語大辞典 「なり」の意味・読み・例文・類語

なり

  1. 〘 助動詞 〙
  2. [ 一 ] ( 活用は「なら・なり・なり・なる・なれ・〇」。動詞・助動詞の終止形に付く。伝聞推定の助動詞 )
    1. 音や声に関係のある語句を受けて、音や声が聞こえること、聞こえると判断することを表わす。
      1. [初出の実例]「葦原の中つ国はいたくさやぎてあり那理(ナリ)」(出典:古事記(712)中)
      2. 「物思へば雲ゐに見ゆる雁金の耳に近くも聞こゆ成かな」(出典:和泉式部集(11C中)上)
    2. 耳にはいる音の様子から事態を判断することを表わす。
      1. [初出の実例]「天の川あひ向き立ちて吾が恋ひし君来ます奈利(ナリ)紐解きまけな」(出典:万葉集(8C後)八・一五一八)
    3. 他人の話、世間のうわさ、または故事や古歌などによって判断することを表わす。→いうならく
      1. [初出の実例]「汝(な)をと吾(あ)を人そ離(さ)く奈流(ナル)いで吾が君人の中言(なかごと)聞きこすなゆめ」(出典:万葉集(8C後)四・六六〇)
      2. 「男もすなる日記といふものを女もしてみむとてするなり」(出典:土左日記(935頃)発端)
  3. [ 二 ] ( 活用は「なら・なり、に・なり・なる・なれ・なれ」。用言・助動詞の連体形や、名詞・副詞などに付く。断定の助動詞 )
    1. 場所や方角などを表わす名詞に付いて、その場所に存在している意を表わす。…に在る。中古以降では、主として連体形だけが用いられる。
      1. [初出の実例]「尾張に 直(ただ)に向へる 尾津の埼(さき)那流(ナル) 一つ松 あせを」(出典:古事記(712)中・歌謡)
      2. 「この西なる家はなに人の住むぞ、問ひ聞きたりや」(出典:源氏物語(1001‐14頃)夕顔)
    2. ある事物に関して、その種類・性質・状態・原因・理由などを説明し断定することを表わす。…である。→となり
      1. [初出の実例]「この御酒(みき)は 我が御酒那良(ナラ)ず」(出典:古事記(712)中・歌謡)
      2. 「おぼしき事言はぬは腹ふくるるわざなれば」(出典:徒然草(1331頃)一九)
    3. ある名を持つことを表わす。連体形だけが用いられ、江戸時代の漢文訓読に始まる語法という。…という名の。
      1. [初出の実例]「此の一巻や、しなのの俳諧寺一茶なるものの草稿にして」(出典:俳諧・おらが春(1819)四山人跋)
    4. 金額の切れ目を示す。証書や帳簿で金額を書くのに「一金壱百万円也」のように「也」字を用いて、以下の端数のないことを示し、また、珠算の読みあげ算で一項の数値ごとに付けて句切りを明らかにする。
      1. [初出の実例]「中々以て壱両也弐両也三両也四両の目くされ金の合力を」(出典:手紙雑誌‐一・四号(1904)雛人形と火事羽織〈平田篤胤〉)

なりの語誌

( 1 )( [ 一 ]について ) ( イ )語源については、音や声の意味をもつ語根「ね」または「な」に「あり」の付いたものという。なお、断定の「なり」と同語で、用法を転じたものと見る説もある。( ロ )意味については、近世以来、詠嘆としてとらえられてきたが、松尾捨治郎の説〔国語法論攷〕によって、近年、「伝聞推定」と説くのが一般である。( ハ )この「なり」と断定の「なり」とは、接続形式を異にするほか、各活用形の用法や他語との呼応にちがった傾向が見られ、また上代の漢字表記では、断定の「なり」に用いられる「在・有」などが、この「なり」に用いられず、逆に断定の「なり」には用いない「鳴」などが用いられている。( ニ )ラ変型活用語に付く時は、上代では「ありなり」のように終止形に付くが、中古の用例はほとんど「あなり」と書かれている。これは、音便化した「あんなり」の「ん」が表記されなかったものである。この「あん」は従来、連体形「ある」の音便化したものと考えられていたが、「あるなり」と書かれた確証に乏しい。ただし、後世には、連体形に接する例もあらわれてくる。( ホ )この「なり」は、中世以降は、歌語・文章語にだけ用いられた。「詠嘆」と説かれて、近世近代の歌文では断定の「なり」との間に多少の混淆がある。
( 2 )( [ 二 ]について ) ( イ )格助詞「に」と動詞「あり」との融合したもの。もとのまま、融合しない「にあり」、また「に(は)あれ(ど)」「に(こそ)あれ」「に(ぞ)ある」のように分離する場合も少なくない。ことには、中古以降は連体形を除き、融合しない形が普通となった。( ロ )形容動詞語尾「なり」と、この助動詞「なり」とは、連体形の用法として連体法の用例が助動詞では限られているなど、いくらかの違いはあるが、ほぼ同質のものと認められる。形容動詞を認めないでその語幹を一種の体言とし、その語尾を助動詞「なり」に含める考え方がある。( ハ )は上代では、名詞またはこれに準ずる語に付くが、中古以降、用言・助動詞の連体形や句末などにも付くようになる。( ニ )の用法で、「あり」と分離した「に」、「…におわします」「(心)に(も)なき」などの「に」を、形容動詞の連用形語尾「に」に見合わせて、「なり」の連用形と説くのが普通であるが、これを助詞として助動詞連用形とみない説もある。( ホ )中古では、この「なり」に「めり」「なり」などが付く時は、他のラ変型の活用語と同じく、「なンめり」「なンなり」と撥音便化する。ただしこの撥音は表記されないことが多い。( ヘ )未然形「なら」が、「ば」を伴わないで仮定条件を表わす用法は、近世初期以降の口語にあらわれる。これには、仮定法「なれば」の転じた「なりや」との関係を考える説もある。( ト )連体形「なる」が「な」に転じて、室町以降の口語で、終止法・連体法に用いられる。これらの「なら」および「な」の二形は、現代の口語では助動詞「だ」の仮定形および連体形として扱われている。( チ )連用形の促音便形が室町時代に使われた例がある。( リ )助動詞「ごとし」に付く時は、「ごときなり」の例もあるが、「ごとくなり」の方が多い。接続のしかたが特異なので、「ごとくなり」は一語の助動詞とみる。( ヌ )は、連体助詞として扱うこともできる。は、終助詞として扱うこともできる。なお、連用形の中止法的用法から出た「山なり海なりへ行く」など、接続助詞「と」を伴った「なりと」から「どこへなり行け」などのいい方がある。これらは、助詞として扱うのが普通である。


なり

  1. 〘 副詞助 〙
  2. ( 体言、体言に格助詞の付いたもの、活用語の連体形、形容詞の連用形、副詞、接続助詞「て」などを受け ) それ以外にもっと適当なものや事態があるかもしれないがたとえば、と例示する。「でも」に近い。「せめて兄弟なりあったらと思う」「新聞を読むなりして待っていてくれ」
    1. [初出の実例]「新しい本少しなり読んでると、粽の趣味なんか解らないぜ」(出典:浜菊(1908)〈伊藤左千夫〉)
  3. ( 体言や活用語の連体形などを承け ) 同種の事柄を列挙し、いずれとこだわりはしないがどちらかを選択する意を表わす。
    1. [初出の実例]「手切なり、足切なり出してやって」(出典:人情本・春色雪の梅(1838‐42頃か)四)

なりの補助注記

( 1 )いずれも断定の助動詞「なり」の終止形がもとであるが、は「天草本平家‐四」の「サキヲモ リャクシテ naritomo(ナリトモ) ヲカタリアレ」のような用法から転じて助詞化したもの(→なりとも)、は右のような用法と、「天草本平家‐四」の「ゴジヒツ nari(ナリ)、ゴザイハン nari(ナリ)、シンビョウ シンビョウト ユウテ」のように終止形を畳みかける用法との混合によるものであろうといわれる〔此島正年「国語助詞の研究」〕。
( 2 )「草枕〈夏目漱石〉一〇」の「ここならば、五六日斯うしたなり動かないでも」や「春泥〈久保田万太郎〉みぞれ」の「みるなり田代はキメつけるやうにいった」のような「なり」を副助詞または接続助詞とする説もあるが、体言と考えられる。(→名詞「なり(形)」[ 一 ]


なり

  1. 〘 名詞 〙 ハンセン病、また、それを病む人をいった語。
    1. [初出の実例]「其眉をみろ癩(ナリ)のやうだといふと」(出典:洒落本・御膳手打翁曾我(1796か))

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普及版 字通 「なり」の読み・字形・画数・意味

裏】なり

どこ。

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