強度と靱性(じんせい)が非常にすぐれ,ピアノなどに用いられている硬鋼線。大量生産が可能であるので,強度を要求される用途に広く使用されている。鉄に炭素を約0.8%混合すると,純鉄に近い成分のフェライト相とセメンタイト相(Fe3C)とが共析状態になったパーライトと呼ばれる組織が形成される。ピアノ線の成分はこれよりやや炭素量が低いが,ほぼパーライト組織になる成分範囲の鋼である。900~1000℃に加熱し,比較的急速に冷却すると(冷却速度があまり速すぎるとマルテンサイトと呼ばれる硬いがもろい組織となる),550℃近くでソルバイトsorbiteと呼ばれる微細なフェライトとセメンタイトが交互に0.4μm程度の厚さで層をなす組織が形成される。これは非常に冷間加工性に富み,断面減少率99%以上の引抜加工ができる。このような高加工度で引き抜いた線に低温焼きなましを行うと,強くしなやかなピアノ線ができる。ピアノ線はピアノの弦のようにあらかじめ張力をかけて使用されることが多いので,張力をかけても伸びて張力が低下しない性質も重視される。プレストレストコンクリート,ワイヤロープなどにとっては欠かせない材料である。
執筆者:木原 諄二
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
ピアノをはじめとして最高度のばね性能が要求される用途のためにつくられた高級炭素鋼線.JISのピアノ線材はC 0.65~0.95質量%,Si 0.12~0.32質量%,Mn 0.30~0.90質量% の範囲で数種類が規定され,とくにP,S,Cuなどの不純物が少なく,きず,脱炭などの表面欠陥も非常に少ないなど高度の品質が要求されている.このピアノ線材を素材として,900 ℃ 以上でオーステナイト化した後500 ℃ 付近の溶融鉛中に急冷し,微細パーライト組織に変態させて(これをパテンティング処理という)空冷し,常温で線引き加工をほどこす.このような熱処理と加工を交互に数回繰り返して目的の太さに仕上げるが,最後に断面減少率で90% 以上の線引き加工をほどこして直径0.1 mm 以下に仕上げたピアノ線の引張強さは350 kg mm-2 以上にも達する.線引き後300 ℃ 付近で低温焼なましして弾性限界,降伏点を十分に上げて使用する.ばねとして用いる場合は,コイル状に巻いてから低温焼なましを行うと,ばね形状の安定化にも役立つ.[別用語参照]ばね鋼
出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
線材の一つ。元来ピアノの線材用に製造されたもので、0.65~0.95%の炭素を含み、熱浴焼入れ(溶融鉛に焼き入れることを鉛パテンティングという)処理により微細パーライト組織にしたものを強く冷間で引き抜き、約300℃で焼きなまして用いられる。非常に強力な線材で、コイルばね、PC鋼線(コンクリートに圧縮力を与えて強化するための線)、タイヤコード、ワイヤロープなどに使用される。
[須藤 一]
出典 株式会社平凡社百科事典マイペディアについて 情報
…(1)熱処理した後に低温で加工する。高強度と靱性を要するピアノ線の製造では,恒温変態処理(パテンティング)した後に強く冷間線引を行う。(2)相変態,析出,再結晶などの起こる温度で,これらの過程と塑性変形を並行して起こさせる。…
…このような強靱さを必要とする鋼としては機械構造用鋼がある。また,共析鋼を冷間線引きし,低温焼きなましをして製造するピアノ線や,ニッケルを合金元素としてアルミニウムやチタンを添加したマルエージング鋼も強靱な材料として開発されたものである。【木原 諄二】。…
※「ピアノ線」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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