マスタード(読み)ますたーど(英語表記)mustard

翻訳|mustard

日本大百科全書(ニッポニカ) 「マスタード」の意味・わかりやすい解説

マスタード
ますたーど
mustard

香辛料として用いられる洋がらしのこと。日本で昔から芥子(からし)とよばれている和がらしに対して、西洋からし、また白からしをさす。南ヨーロッパ、地中海沿岸から西アジアにかかる地域を原産地とする、アブラナ科の植物の成熟した莢(さや)を乾燥し、中の種子を直接、または粉末にして香辛料に用いる。

 からしを得る植物は、大きく5種類に分けられる。ホワイトマスタード(白からし、イエローマスタードともいう)にはシナピス・アルバSinapis alba L.とブラシカ・ヒルタBrassica hirta Moenchの2種がある。ブラックマスタード(黒からし)はブラシカ・ニグラB. nigra L. Kochを用いる。和がらしはブラシカ・ケルナB. cernua Hemsl.から得られ、これが日本独自の黒からしである。さらに日本、中国、インドなどで広く用いられているものにブラシカ・ユンケアB. juncea (L.) Cossがあり、これも一般に和がらしとよばれている。これらの主産地は、カナダ、デンマークオランダ、中国、インド、フランスであり、日本に輸入されるものはほとんどカナダ産である。

 マスタードの利用の歴史は古く、古代ギリシア時代からヘビサソリのかみ傷、刺し傷の中和剤として用いられていた。『新約聖書』マタイ伝にも「天国は一粒のマスタードシードの如(ごと)し……」と記されていて、当時はマスタードの種子は小さいものの象徴とされていたようである。漢方では芥(がい)とよばれて胸痛、腰痛、打ち身痛風に効くとされ、ぬるま湯で溶いたものは神経痛、肺炎、咳(せき)止めの貼(は)り薬として炎症を抑えるのに使われている。

 香辛料としての現在の粉末マスタードは1720年イギリスに始まるという。ダーハム州に住むクレメント夫人がホワイトマスタードの種子を十分に乾燥させ、粉末にしてこれをダーハム・マスタードと名づけて売り出し、これによって財をなしたといわれている。マスタードは辛味が料理の味を引き立てるとともに、防腐、食欲増進、乳化などの効果ももつため、マヨネーズやドレッシングには欠かせない香辛料である。ホワイトマスタードは比較的香りも穏やかで、揮発性の精油も少なく辛味も弱い。ブラックマスタードや和がらしの辛味は、種子中のシニグリン配糖体に水が加わると、酵素ミロシナーゼの働きでアリルイソチオシアネート(アリルカラシ油)に変化して出るもので、ぬるま湯で溶くほうが酵素の働きが活発になるので辛味も強くなる。ハンバーグステーキ、とんかつ、シューマイおでんなどの薬味に使う「練りがらし」にはブラックマスタードや和がらしがよくあい、サラダ用ドレッシング、マヨネーズ、フレンチマスタード、からし和(あ)え、豚肉のマスタード焼きなどにはホワイトマスタードが用いられる。粒のままのマスタードはピクルスや酢漬け野菜に使われる。

[齋藤 浩]

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

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