多細胞動物において,卵(らん)または胚の各部の発生運命が発生のごく初期から決められているため,胚の一部を殺したり除去したりすると,その部位に応じて一定の組織や器官の欠落した個体が作られるような性質をもった卵のことをいう。これに対し卵や胚の一部をとり除いたり,初期卵割期の割球を単離して発生させたりした場合にも形態的には正常,あるいはそれに近い形の個体を生ずるような卵を調節卵regulation egg(または調整卵)と呼ぶ。モザイク卵は,主としてクシクラゲ類やらせん卵割をする先口動物,ホヤ類などに広くみられ,調節卵は腔腸動物,棘皮動物,半索動物,脊椎動物などに一般的にみられる。以上のような卵のモザイク性と調節性は,互いに独立の性質としてとらえられるべきではなく,むしろ異なる組織や器官を作る多種の細胞を,単一の卵から分化させるための要因の出現の時期や部位の違いとしてとらえられるべきであろう。
モザイク卵として有名なホヤの卵では,受精にともなって卵細胞質の大移動が起こり,将来,胚の一定の領域を形成する五つの可視的な部域が出現する。2細胞期にそれぞれの割球を分離して発生させると,おのおのは左側または右側だけをもった半胚となる。しかしこの同じ卵を受精前にガラス針で二分してから受精,発生をさせると,いずれの卵片からも小型ではあるが正常な形をした幼生が作られる(図)。この例は,調節的であった未受精卵が,受精を経てモザイク的に変わったことを示している。逆に調節卵の代表とされるウニでは,2細胞期または4細胞期の割球を単離して発生させると,大きさはそれぞれ正常の半分または1/4ながら形は正常な幼生を生ずるが,8細胞期の割球からは,もはや幼生と呼べるようなものは生じない。最近になって,ヒトデ卵はウニ卵よりもさらに調節性が高く,一卵性の八つ児幼生(8細胞期のすべての割球が小さな幼生を生じた場合)や,1/16幼生が得られることが知られるようになった。
このように調節卵とは,卵各部の発生運命が発生初期にはまだ決められておらず,胚の各部が互いに影響し合い,全体としてのバランスをとりながら形態形成を行ってゆく傾向の強いものということができる(図)。
執筆者:団 まりな
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
動物の卵のうち、卵のどの部分が将来、体のどの部分になるかが非常に早くから決定され、それらの各部分がモザイクのように配置されていると考えられる卵をいう。卵の各部分の運命が周囲との関連において徐々に決められると考えられる卵、すなわち調節卵に対する概念である。モザイク卵では卵割初期に分離された割球は、体のある限られた部分、器官しかつくらない。これに対し調節卵では、分離された割球は小さいながらも完全な体をつくることができる。かつては、動物の胚(はい)発生における各部分の発生運命の決定の機構をめぐって、卵がモザイク卵であるか、調節卵であるかが大問題であった。しかし現在ではモザイク卵は、発生運命の決定に関して特別な性質をもつ卵というより、卵の各部分の発生運命が比較的早くから決定されている卵、という意味で使われている。
[竹内重夫]
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
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