日本大百科全書(ニッポニカ) 「アミノ糖」の意味・わかりやすい解説
アミノ糖
あみのとう
aminosugar
糖のヒドロキシ基-OHをアミノ基(-NH2)で置換した構造を有する化合物の総称。グリコサミンともいう。アミノ糖を含む化合物にグリコサミノ-(グリコは糖を、アミノはアミノ基を表す)と接頭語をつける。また、ヘキソース(六炭糖ともいう。炭素数6の糖の総称)のヒドロキシ基をアミノ基で置換したものをヘキソサミンと総称する。グルコース、ガラクトース、マンノース(いずれもヘキソース)の2位のヒドロキシ基をアミノ基(-NH2)で置換したものは、それぞれ、グルコサミン(2-アミノ-2-デオキシD-グルコース)、ガラクトサミン(2-アミノ-2-デオキシD-ガラクトース)、マンノサミン(2-アミノ-2-デオキシD-マンノース)である。その他カルボキシ基(カルボキシル基)をもつアミノ糖に、ムラミン酸、ノイラミン酸(炭素数9のアミノ糖の一種)などがある。アミノ糖のアミノ基は多くの場合、アセチル化、硫酸化、グリコリル化(それぞれ、アミノ基-NH2のHがアセチル基-COCH3、スルホン基-SO3H、グリコリル基-COCH2OHと置換すること)されている。
アミノ糖は動物、植物、微生物の(1)多糖、(2)ムコ多糖、(3)糖タンパク質、(4)糖脂質、(5)抗生物質などの構成成分として広く存在している。
(1)多糖の例は甲殻類の殻(から)の成分キチンで、N-アセチルグルコサミン(グルコサミンの窒素Nにアセチル基がついた化合物。グルコ-はグルコースすなわちブドウ糖を意味する)のポリマー(重合体)である。
(2)ムコ多糖は粘液(ラテン語mucus)に由来する名で、化学的系統名はグリコサミノグリカン(グリカンglycan-は多糖を表す)という。動物の粘液から得られたアミノ糖を含む多糖である。化学構造の特徴はグリコサミンとウロン酸(糖のカルボニル基-CHOや-CO-と反対の末端の炭素がカルボキシ基-COOHになった化合物の総称)の2糖の繰り返し構造を骨格とすることである。動物体の結合組織の基質成分であるコンドロイチン硫酸はN-アセチルガラクトサミン(アミノ糖の一種)とグルクロン酸(ウロン酸の一種)の繰り返し構造を骨格とする。目の水晶体や関節液に存在するヒアルロン酸はN-アセチルグルコサミンとグルクロン酸の繰り返し構造を骨格とする。これらムコ多糖は生体内では、プロテオグリカン(プロテオ-はタンパク質を表す。ムコ多糖とタンパク質が共有結合したもの)となって存在している。
(3)糖タンパク(グリコプロテインともいう)は糖とタンパク質が共有結合した複合タンパク質である。糖部分が2~6種類の単糖(アミノ糖を含む)から構成され、一定の繰り返し構造をもたない。粘液(ムコタンパク質と糖タンパク質の混合物)やすべての細胞に含まれている。血液型を決定する血液型糖タンパク、酵素作用やホルモン作用を有するものなどもある。
(4)糖脂質(脂質と糖が共有結合した物質の総称)のなかでアミノ糖を含むものに、ガングリオシドがある。ガングリオシドは動物のすべての臓器・組織に存在し、ノイラミン酸を含む(ガングリオシドの項参照)。
(5)抗生物質であるストレプトマイシン、カナマイシン、ゲンダマイシンなどはアミノ糖を構成成分とするのでアミノグリコシド系抗生物質(アミノ配糖体抗生物質)とよばれる。
ヘキソサミンはエルソン‐モルガン反応(ヘキソサミンを弱アルカリ性でアセチルアセトンと加熱縮合させたのち、塩酸酸性でp-アミノベンズアルデヒドと反応させると赤紫を呈する反応)により検出・定量される。アミノ糖の生合成は、解糖系の代謝中間体であるフルクトース6-リン酸にグルタミン(アミノ酸の一種)のアミド基(-CONH2)が転移してグルコサミン6-リン酸となり、これから他のアミノ糖が誘導される。生体のおもなアミノ糖であるN-アセチルグルコサミン、N-アセチルガラクトサミン、N-アセチルノイラミン酸の複合糖質への取込みは、UDP(ウリジン5'-二リン酸)-N-アセチルグルコサミンのような糖ヌクレオチドが供与体となり、特異的な糖転移酵素により行われる。
[徳久幸子]