翻訳|Eden
人類最初の夫婦アダムとイブ(エバ)の居住場所。旧約聖書《創世記》2~3章の創造物語では〈エデンの園〉と記されている。そこには食用になるすべての種類の樹木が植えられており,中央には〈生命の樹〉と〈善悪を知る樹〉が置かれていた。神は,この後者の木の実を食べた最初の夫婦を追放した後,エデンの入口には,暴風の雲と稲妻の象徴であるケルビムと回る炎の剣を置いて,再び人が入れないようにした。エデンに置かれていた最初の人アダムには,園の耕作と保守の任務が神から与えられていたので,労働のない単なる楽園ではなかったが,自然および他者との関係において祝福された状況にあった。《イザヤ書》51章および《ヨエル書》2章におけるエデンは,荒廃と対照されている。《エゼキエル書》28章では,北方に神話的に想定されている神の山の頂にある宝石におおわれた園が考えられている。《創世記》2章でもエデンから川が流れ出て四つに分岐するとあり,それぞれピソン,ギホン,ヒデケル(ティグリス),ユフラテ(ユーフラテス)と呼ばれている。このような聖書の記述はエデンを漠然とアルメニア地方の山地に想定し,世界を囲む四川の考えとともに,古代の神話的世界像を前提している。エデンを,荒野や平地を意味するシュメール語のエディヌedinuと言語的に結びつけたり,エデンの園の類例を,シュメール神話の〈ディルムンの国〉やバビロニアの物語での〈神の杉山〉などに見いだすことも試みられている。《七十人訳聖書》はこれを〈歓喜のパラダイス〉と訳し,新約聖書《ヨハネの黙示録》2章はエデンの園の回復としてのパラダイスを記しており,エデンの園とパラダイスとの同一視が伝統となった。
執筆者:並木 浩一 美術では,この園を舞台に,〈アダムとイブの創造〉〈原罪〉〈楽園追放〉などの場面が表現された。またときには四つの川が流れ出る丘(キリスト,神の小羊あるいは十字架がその上に立つ)として,あるいは鳥獣だけが樹木に寄り添う場面としても表される。後者は古代・中世西アジアに見られる楽園の表現に学んだものである。
執筆者:柳 宗玄
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…《創世記》1章の祭司資料では,神が〈自分のかたちに似せて〉男と女を創造し,被造世界の統治を委ねた。2~3章のヤハウェ資料では,神はまずアダムを土(アダーマー)から造り,エデンの園に置いてその耕作者とし,獣に命名させてから,彼を熟睡させて,その肋骨からイブEve(エバ)を造り,彼の妻とした。3章の堕罪物語では死をもって神が禁じた知恵の木の実を蛇のそそのかしによって最初に食べたのはイブであり,彼女のすすめでアダムも食べた。…
…前10世紀と推定される旧約聖書《創世記》の人間誕生の神話にも,〈善悪を知る木(知恵の木)〉とならんで,〈生命の木〉が言及されている。それによると,神は土の塵(ちり)で人をつくり,その鼻に命の息を吹きこんでエデンの園に住まわせたのであるが,園の中央には〈生命の木〉と〈善悪を知る木〉とがあり,エデンから流れ出る川が園をうるおしていたという(2:9)。アッシリア美術にみられる〈生命の樹〉の図像は,宮殿壁面浮彫や円筒印章の陰彫が主であり,ルーブルと大英博物館所蔵のアッシリア,ハラフ出土の浮彫は,前9世紀のものである。…
… ヘブライズムは,これに対して明確な形ではユートピアを提供してはいない。しかし,旧約聖書の《創世記》にあらわれるエデンの楽園は,たんに失われた原罪以前の理想境を回顧しているばかりではなく,新約聖書にあらわれるような,終末におけるイエスの再臨とともに出現すべき新しいエルサレムの原型をもなしている。エデンは田園的,エルサレムは都市的楽園であるが,摂理によって支配される現世の全時代の両極外に,このようなユートピアの情景を導入したことは,後世への大きな遺産というべきである。…
…その限りでは楽園は一種の母胎であり,人類の楽園回帰願望は胎内回帰願望だということもできよう。 西洋における〈山中楽園〉の典型はエデンの園である。それは普通には〈エデンという名の楽園〉を意味するように解されているが,本来〈エデン〉はシュメール・アッカド語で〈平らな土地〉を意味したらしく,メソポタミア地方の平原を指したものとみなされる。…
…アダムとイブの,エデンの園(楽園)からの追放をいう。旧約聖書《創世記》2~3章によると,アダムとイブは苦しみも心配もなくエデンの園に住んでいたが,蛇の誘惑に負けて知恵の木の実を食べた。…
※「エデン」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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