エボラ出血熱(読み)エボラしゅっけつねつ(英語表記)Ebola hemorrhagic fever

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典の解説

エボラ出血熱
エボラしゅっけつねつ
Ebola hemorrhagic fever

エボラウイルスによるウイルス性出血熱エボラウイルス病 Ebola virus diseaseとも呼ばれる。感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律で 1類感染症と定義される。「エボラ」は,ウイルスが初めて分離・採取された患者の住んでいたザイールコンゴ民主共和国)の村を流れる川の名に由来する。エボラウイルスの自然宿主は特定されていないが,オオコウモリ科の複数種が考えられている。ウイルスに感染したヒトや野生動物の,血液などの体液に触れることによって感染する。症状としては発熱嘔吐皮疹がみられ,重篤化すると大量に出血する。2014年現在ワクチンや治療薬は研究段階で,治療は対症療法のみ。感染者の致死率は 50~90%。1976~77年にザイールとスーダンで数百人が感染し死亡したのをはじめ,1995年にはザイールのキクウィトで 244人が死亡,2000~01年にはウガンダで 225人が死亡した。2014年には西アフリカギニアリベリアシエラレオネを中心に大流行し,同年 12月までに約 2万人の感染者,7500人超の死者を出すにいたった。

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知恵蔵の解説

エボラ出血熱

エボラウイルスによって起こる感染症。血液、汗などの体液、嘔吐(おうと)物、便などの排泄(はいせつ)物に接触することでヒトからヒトへ感染し、潜伏期間2~21日間を経て、発熱、脱力感、頭痛といったインフルエンザに似た症状が現れて発症する。その後、嘔吐や下痢、発疹、肝機能や腎機能に異常がみられ、更に悪化すると出血しやすく止血しにくい状態(出血傾向)に陥ることがある。
1976年にスーダンで初の症例が見つかってから、アウトブレイク(地域的に限定された流行)は20数回起こっており、最高で90%にも上る致死率の高さで知られている。世界保健機関(WHO)によれば、2014年1月を起点とする西アフリカのアウトブレイクは、その患者数で過去最大規模のものになった。35週を経た8月31日の時点で患者数は3685人、このうち53%が死亡している。エボラウイルスの五つのタイプのうち、致死率が最も高いザイール型であるとされている。
予防ワクチンや確立された治療法はまだなく、患者は疑いがある段階の人も含め隔離した上で、既存の抗菌薬や輸血、輸液などによる対症療法が行われている。だが致死率が高いことから、WHOは2014年のアウトブレイクに際し、予測できない副作用について患者と医療者の間でインフォームド・コンセントを得るなどの条件付きで、未承認のワクチンや治療薬の投与を認めた。
潜伏期間中は感染しないが、発症した患者は感染力を持つ。初期症状がマラリアやラッサ熱にも似ているため臨床症状のみでは確定診断は下せないが、ウイルスの遺伝子検査の結果を待つ間にも感染が拡大していくので、疑いのある患者は全て隔離し、接触時は完全に防護してケアに当たる必要がある。
日本の感染症法においては、一類感染症に指定されており、診断した医師は直ちに保健所に報告することが義務付けられている。なお、エボラウイルスを取り扱える施設のバイオセーフティレベル(格付け)は、WHOの指針により最高位の4とされているが、日本国内にはまだレベル4の施設はない。
出血傾向を示さない症例もあることから、EVHD(Ebola virus hemorrhagic fever:エボラウイルス出血熱)ではなく、EVD(Ebola virus disease:エボラウイルス病)という呼称が用いられることが多くなってきている。

(石川れい子 ライター / 2014年)

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朝日新聞掲載「キーワード」の解説

エボラ出血熱

エボラウイルスに感染して起こる。高熱や頭痛などの後、嘔吐(おうと)や下痢、出血などの症状が出る。致死率が高い。患者の血液など体液に触れた際、傷口や粘膜などからウイルスが入って感染する。ワクチンや治療法は開発途上で確立しておらず、症状を軽くする治療が主だ。 2014年に西アフリカのギニア、リベリア、シエラレオネで感染が広がり、欧米でも発症が確認された。WHOによるとこれまでに1万1315人が死亡。日本で発症者は見つかっていない。

(2016-01-19 朝日新聞 朝刊 2外報)

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デジタル大辞泉の解説

エボラ‐しゅっけつねつ【エボラ出血熱】

エボラウイルスの感染による、致死率の高い急性の感染症。突然の発熱・脱力感・筋肉痛・頭痛・のどの痛みなどに始まり、嘔吐・下痢、腎機能や肝機能の低下がみられ、さらに悪化すると出血しやすくなる。発症した患者の血液・体液・排泄物などに接触することで人から人へ感染する。潜伏期間は2日から3週間。エボラウイルス病。EVD(Ebola virus disease)。EHF(Ebola hemorrhagic fever)。
[補説]名称は、ザイール(現コンゴ民主共和国)のエボラ川近くに住む患者からウイルスが発見されたことに由来。1976年以降、中央アフリカ諸国でしばしば流行が確認されている。

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百科事典マイペディアの解説

エボラ出血熱【エボラしゅっけつねつ】

エボラウイルスを病原体とする,致命率の高い出血性熱病。1976年,アフリカのコンゴ民主共和国のエボラ川周辺で大流行したことから,この病名がつけられた。これまでコンゴ民主共和国のほか,スーダンでも発生。1995年にはコンゴ民主共和国南西部で再び流行をみた。2013年〜2015年にかけては西アフリカ一帯で流行し1万人を超える死亡者をだした。エボラウイルスは,ネズミなどの齧歯(げっし)類やコウモリが保有するとみられ,ウイルスに汚染されたものに触れた皮膚の小さな傷からの感染が主だが,重症患者からの飛沫(ひまつ)感染の可能性も示唆されている。4〜16日間の潜伏期間の後,高熱,頭痛,筋肉痛,下痢,嘔吐が続いて脱水症状を呈し,重症化すると吐血,鼻出血,歯肉出血,下血などの出血傾向がみられ,半数以上は死亡する。→エマージング・ウイルス
→関連項目感染症予防法

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家庭医学館の解説

えぼらしゅっけつねつ【エボラ出血熱 Ebola Haemorrhagic Fever】

[どんな病気か]
 齧歯類(げっしるい)やコウモリが保有していると考えられているエボラウイルスの感染でおこります。ウイルスで汚染されたものに触れたときに、皮膚の小さな傷から感染することが多いのですが、重症な人からの飛沫感染(ひまつかんせん)もあります。
 アフリカ中央部に常在します。
[症状]
 潜伏期間は4~16日で、高熱、腰痛(ようつう)、眼球結膜炎(がんきゅうけつまくえん)、咽頭炎(いんとうえん)、せきをともなう胸痛(きょうつう)などがおこります。ついで嘔吐(おうと)、下痢(げり)(血便(けつべん))が始まり、歯肉出血(しにくしゅっけつ)、鼻出血(びしゅっけつ)などの出血傾向がみられるほか、かゆみのない斑(はん)や丘疹(きゅうしん)のような発疹(ほっしん)が全身に現われます。
 病人の約半数は、4~10病日ごろに強い中毒症状と播種性血管内凝固症候群(はしゅせいけっかんないぎょうこしょうこうぐん)(「播種性血管内凝固症候群(DIC)」)で死亡しますが、もちこたえると3週間以降回復にむかいます。
[治療]
 この病気の回復期にある病人の血漿(けっしょう)の注射が有効です。

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大辞林 第三版の解説

エボラしゅっけつねつ【エボラ出血熱】

〔エボラ(Ebola)は患者の住んでいた村の川の名〕
1976年にスーダンとコンゴ(旧ザイール)の国境付近で流行した、ウイルス性出血熱。症状が進行すると吐血・鼻出血など全身にわたって出血傾向を呈し、致命率は70パーセント以上に達する。感染症予防法で、危険性が極めて高い一類感染症に分類される。国際感染症の一。

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知恵蔵miniの解説

エボラ出血熱

エボラウイルスによる急性熱性疾患。1976年、ザイール(現コンゴ民主共和国)で初めて確認された。発症は突発的で進行が早く、下痢や嘔吐、高熱などを引き起こし、罹患者の約70%は皮膚・消化管などから出血する。確立された治療法がなく、ワクチンもない。致死率は25~90%。急性期の患者との直接接触により人から人に伝染する。アフリカ中央部での発生が多く、2000年~01年にウガンダ共和国で425名が感染し225名が死亡したのが過去最大の被害となっている。14年2月9日、西アフリカ・ギニア共和国で初めて感染が確認され、同年3月25日現在までに80人が感染、このうち59人が死亡した。約200万人が住む首都コナクリでも死亡者2名が確認されており、拡大が懸念されている。

(2014-3-26)

エボラ出血熱

野生動物からヒトに感染しヒトの間でも広がる、エボラウイルスによるウイルス性の感染で、感染すると頭痛や発熱など風邪のような初期症状が出、やがて激しい下痢や嘔吐に見舞われ、血液が凝固できなくなり、体内や体外で出血する。死亡患者のほとんどが平均10日で死に至っている。致死率は90%に達するといわれている。2014年、西アフリカでエボラ出血熱の感染が拡大し、現地で治療に当たっている国際医療支援団体の「国境なき医師団」は、「流行が前例のない勢いで広がり、制御できない状況に陥った」と発表した。世界保健機関(WHO)が14年6月27日に発表したまとめによると、これまでに感染者や感染が疑われる患者は3カ国で635人に上り、このうちおよそ400人が死亡した。WHOは、国境を越えてさらに感染が拡大していくことに警戒感を強めており、対応策を話し合うため14年7月2日から2日間、ガーナで近隣11カ国の保健担当の閣僚を集めた緊急会合開催を決定した。

(2014-6-30)

エボラ出血熱

エボラウイルスが引き起こす急性熱性疾患の感染症であり、きわめて死亡率の高いウイルス性出血熱(VHF)疾患。ウイルス感染源は患者の血液、分泌物、排泄物や唾液等の飛沫などで、エボラウイルスの自然宿主の特定には至ってはいない。ウイルスの感染力は強く、発症は突発的で進行も早い。潜伏期は2〜21日。インフルエンザのような症状が進み、重篤化する。患者全員に共通する症状は発熱と頭痛であり、患者の80%に腹痛、咽頭痛、筋肉痛、胸部痛が、患者の70%に出血(吐血、口腔歯肉、消化管)が見られ、出血は死亡例の大部分で見られる。致死率は50~90%と非常に高く、治癒しても失明・失聴・脳障害などの重篤な後遺症を残すことがほとんど。感染予防のためのワクチンはなく、治療は対症療法のみである。2014年、西アフリカのギニア、リベリア、シエラレオネの3カ国で感染が過去最大規模で拡大し、8月時点で729人が死亡。また現地では、感染が広がり続けるなか、医師や看護師などが死亡する事例も相次いでおり、WHO(世界保健機関)によると、これまでに60人以上の医療従事者が死亡した。その事態を受け、アメリカの疾病対策センターは警戒レベルを最も高いレベルに引き上げ、3カ国への不要な渡航を控えるよう勧告している。また、日本の外務省も渡航の延期を勧告している。

(2014-8-4)

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日本大百科全書(ニッポニカ)の解説

エボラ出血熱
えぼらしゅっけつねつ
Ebola hemorrhagic fever

エボラウイルス(Ebola virus:EV)に感染することによって発症する急性ウイルス性感染症。エボラウイルスは空気感染することはなく、感染者の血液や体液および排泄(はいせつ)物などに直接触れたり、それらに汚染された注射針などを介して感染する。エボラ出血熱(Ebola hemorrhagic fever:EHF)は長い間使われてきた疾患名だが、出血症状を伴わないこともあるため、近年ではエボラウイルス病(Ebola virus disease:EVD)の呼称が使われることも多い。ラッサ熱、マールブルグ病(出血熱)、クリミア・コンゴ出血熱、南米出血熱などとともに、ウイルス性出血熱(Viral Hemorrhagic Fever:VHF)とよばれ、致死性の高い感染症の一つとされる。日本では感染症法において1類感染症に指定されている。
 エボラウイルスはマールブルグウイルスと同じフィロウイルス科に属するウイルスで、名前の由来は、最初の患者が中部アフリカのコンゴ民主共和国(旧、ザイール)を流れるエボラ川流域の住民だったことによる。自然環境でのエボラウイルスの宿主はコウモリと考えられており、ウイルスを保有しているコウモリに触れたり食したりすることでヒトに感染する。コウモリからサルなどの野性動物に伝播(でんぱ)し、そこからヒトに感染することもあると考えられる。
 1976年にコンゴと南スーダンで流行をみたのが最初で、その後もコンゴやスーダンおよびガボンなど中央アフリカを中心に流行がみられ、さらに東アフリカのウガンダや西アフリカのギニアなどでも流行が報告されている。アフリカに流行が多いのは、葬式の際に死者の体に直接触れる風習によるところも大きいと考えられている。近年では2014年に西アフリカのギニアを中心に集団発生し、翌2015年にかけて複数国にまたがって流行するアウトブレイクが起こり、1万1000人以上が死亡している。
 症状は通常2~21日の潜伏期間を経て、一般に突発的な高熱および頭痛、極度の倦怠(けんたい)感、筋肉痛や咽頭(いんとう)痛に始まり、嘔吐(おうと)や下痢などの消化器症状、肝臓でのウイルス増殖による肝腫脹(しゅちょう)から右季肋(きろく)部の圧痛や叩打(こうだ)痛をきたし、腎(じん)機能障害が生じることもある。さらに悪化すると吐血や下血ほか全身の出血傾向を呈するようになり、重症となると死に至る。致死率は50~90%とされる。
 エボラウイルスに対するワクチンは、現在開発が進められており、WHO(世界保健機関)は、カナダ政府が開発したワクチンが、高い確率でエボラ出血熱を予防するとした臨床試験の結果を発表している(2016年12月)。このワクチンが実用化されれば、エボラウイルスの感染を防ぐ初めてのワクチンとなる。[編集部]

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世界大百科事典内のエボラ出血熱の言及

【伝染病】より


[国際伝染病]
 1977年6月10日,厚生大臣の諮問機関である国際伝染病小委員会で決められた行政上の名称で,〈国内に常在せず,予防法,治療法が確立していないため,致命率が高く,かつ伝染力が強いので,患者及び検体の取扱いに特殊の施設を必要とする特定の伝染病〉と定義されている。ラッサ熱,マールブルク病,エボラ出血熱の各ウイルス性疾患が該当する。これらはいずれも人獣共通伝染病で,サハラ以南のアフリカ諸国,とくに西アフリカに風土病的に存在するものとみられるが,院内感染での致命率が高いところから注目された。…

※「エボラ出血熱」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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